「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号
わが国における障害認定の歴史的経緯と現状
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課
1 はじめに
わが国の障害者への保健福祉施策においては、身体障害、知的障害または精神障害を有すると認定された者に対して、それぞれ身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳が交付される。各種の障害者手帳交付台帳の搭載者の数は年々、増加傾向にある(表1)。これらの三種類の手帳制度は法的根拠、制度が創設された時期などがそれぞれ異なっている。それぞれの手帳制度の経緯、概要等について、制度が創設された順に説明する。
表1 障害者手帳交付台帳搭載者数の推移
(単位:人) | 平成2年 (1990年) |
平成7年 (1995年) |
平成12年 (2000年) |
平成17年 (2005年) |
平成22年 (2010年) |
平成23年 (2011年) |
---|---|---|---|---|---|---|
身体障害者手帳※1 | 3,441,643 | 3,846,352 | 4,292,761 | 4,795,033 | 5,109,282 | 5,206,780 |
療育手帳※1 | 388,677 | 477,276 | 569,618 | 698,761 | 832,973 | 878,502 |
精神障害者保健福祉手帳※2 | - | - | 185,674 | 382,449 | 594,504 | 635,048 |
※1:厚生労働省「福祉行政報告例」
※2:厚生労働省「福祉行政報告例」
2 身体障害者手帳
(1)制度の経緯
第二次世界大戦後、昭和21年に交付された日本国憲法では、社会権および生存権の保障としての基本的人権に考えが明確にされ、障害者への福祉施策は国家による公的な責任によってなされるという原則を示した。このような社会状況から障害福祉に関する立法の必要性が高まり、昭和24年に身体障害者福祉法が制定され、翌25年4月に施行された。この法律はわが国の障害者福祉の法律としては最初のものであった。
制定時から、身体障害者手帳が位置付けられていたが、「視力障害」、「言語機能障害」、「中枢神経機能障害」、「聴力障害」、「肢体不自由」の5つの障害のみを対象としていた。障害等級の制度はなかったが、昭和25年8月に当時の社会局長通知によって、「同一程度の障害に対する均等の援護をなすための資料」として、参考資料の扱いで提示された。
昭和26年5月には、身体障害者福祉法が改正され、法の対象とする身体障害者の定義から「職業能力の損傷」が削除され、法の目的が職業復帰のみにあるのではないことを明らかにした。同年10月には、身体障害者福祉法施行規則が改正され、身体障害者手帳を身体に障害のある18歳未満の者についても交付するとともに、身体障害者手帳に級別の記載が開始された。
昭和29年3月には、身体障害者福祉法が改正され、「視力障害」を「視覚障害」、「聴力障害」を「聴覚又は平衡機能の障害」、「言語機能障害」を「音声機能又は言語機能の障害」、「中枢神経機能障害」を「肢体不自由」に範囲が改正された。
昭和29年9月には、身体障害者福祉法施行規則が改正され、局長通知であった等級表が身体障害者福祉法施行規則中に規定されるとともに、等級表が全面改正された。なお、この等級表は現在の等級表の原型となっている。
昭和42年8月には、身体障害者福祉法が改正され、前年の身体障害者福祉審議会答申を受けて、内部障害としては初めて「心臓機能障害」と「呼吸機能障害」が対象とされた。
昭和59年10月には、身体障害者福祉法が改正され、従来から法律の別表に定める障害に加えて、政令で定める障害も手帳の対象とするとともに、「ぼうこう又は直腸の機能障害」(昭和59年10月)、「小腸の機能障害」(昭和61年10月)、「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害」(平成10年4月)による内部障害が手帳制度の対象に順次、追加された。直近では、平成22年4月から「肝臓の機能の障害」(平成22年4月)による内部障害が手帳制度の対象とされている。
(2)制度の概要
身体障害者手帳は、身体に障害のある者の申請に基づき、その障害が一定の要件を満たすと認められる場合に都道府県知事、政令指定都市市長または中核市市長が交付する。交付対象者は、身体障害者福祉法別表と政令で定める障害に該当する身体上の障害がある者とされている。
別表に定める具体的な障害の種類は、「視覚障害」、「聴覚又は平衡機能の障害」、「音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害」、「肢体不自由」、「心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害」となっており、政令で定める具体的な障害の種類は、「ぼうこう又は直腸の機能の障害」、「小腸の機能の障害」、「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害」、「肝臓の機能の障害」となっている。そして、いずれの障害も、一定以上で永続することが要件とされている。
身体障害者手帳交付台帳搭載者数における各障害の割合は、「肢体不自由」、「内部障害」、「聴覚・平衡機能障害」の順に多くなっている(図1)。身体障害者手帳の障害等級については、「身体障害者障害程度等級表」において、障害の種類別に重度の側から1級から6級の等級が定められている。7級の障害は、単独の障害では交付対象とはならないが、7級の障害が2つ以上重複する場合、または7級の障害が6級以上の障害と重複する場合は対象となる(図2)。
図1 身体障害者手帳交付台帳搭載者数における各障害の割合
(拡大図・テキスト)
図2 障害別の障害等級一覧
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
外部機能障害 | 視覚障害 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
聴覚・平衡機能障害 | 聴覚障害 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
平衡機能障害 | ○ | ○ | |||||||
音声・言語・そしゃく機能障害 | ○ | ○ | |||||||
肢体不自由 | 上肢・下肢機能障害 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | |
体幹機能障害 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||
乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ||
内部障害 | 心臓、じん臓、呼吸器機能障害 膀胱又は直腸機能障害 小腸機能障害 |
○ | ○ | ○ | |||||
ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能障害、肝臓機能障害 | ○ | ○ | ○ | ○ |
○:単独の障害で認定対象となる
△:単独の障害では認定対象とならず、7級に相当する障害が重複する場合に6級として手帳が交付される
現在、「心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害」と「肢体不自由」の認定基準の見直しが進められている。具体的には、ペースメーカ等植え込み者と人工関節置換者を一律の等級に認定してきたが、見直す方向で検討が進められている。
3 療育手帳
(1)制度の経緯
知的障害者に対する福祉行政は、昭和22年の児童福祉法の制定から始められたが、その対象は18歳未満の知的障害児に限られていた。昭和25年に精神衛生法が制定され、知的障害者を含む精神障害者の医療的措置が取られることとなった。さらに、知的障害者の福祉対策の充実を図るため、昭和35年3月、精神薄弱者福祉法が制定された。
このような流れの中、知的障害者(児)のより一層の福祉の充実を図るため、昭和48年9月、厚生次官通知により、療育手帳制度要綱が定められ、療育手帳制度が創設された。
なお、平成10年9月には、「精神薄弱」という用語を「知的障害」という用語に改めるにあたり、法律名が「知的障害者福祉法」に改められている。
(2)制度の概要
療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者(児)に対して、都道府県知事、政令指定都市市長が交付する。
療育手帳の目的は、知的障害者(児)に対して一貫した指導・相談等を行われるようにすることと、知的障害者(児)に対する援助措置(特別児童扶養手当、心身障害者扶養共済等)が受けやすくすることなどである。療育手帳の名称については、別名を併記することは差し支えないとされており、地方自治体の判断で別名により運営されている。
障害の程度は、厚生省児童家庭局長通知によって重度のみ示されている。具体的には、「標準化された知能検査によって測定された知能指数がおおむね35以下(肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者については50以下)」などとされている。中等度以下の基準については、地方自治体の実情に応じて定めることとされている。また、交付後に障害の程度を確認する必要があることから、原則として2年後に障害の程度を確認することとされている。
なお、療育手帳交付台帳搭載者数の年齢区分別の推移は、表2のとおりである。
表2 療育手帳交付台帳搭載者数の年齢区分別の推移
(単位:人) | 平成2年 (1990年) |
平成7年 (1995年) |
平成12年 (2000年) |
平成17年 (2005年) |
平成22年 (2010年) |
平成23年 (2011年) |
---|---|---|---|---|---|---|
18歳未満 | 115,602 | 113,700 | 131,327 | 173,438 | 215,458 | 226,384 |
18歳以上 | 273,075 | 363,576 | 438,291 | 525,323 | 617,515 | 652,118 |
※:厚生労働省「福祉行政報告例」
4 精神障害者保健福祉手帳
(1)制度の経緯
昭和25年、精神障害者に対し、適切な医療・保護の機会を提唱するため精神衛生法が成立した。精神衛生法は、精神障害者に対する保健医療施策を強化、推進するため、改正が行われ、昭和62年には精神保健法と改められた。平成5年12月に障害者基本法が成立し、精神障害者は基本法の対象として明確に位置付けられたこと等を踏まえ、これまでの保健医療施策に加え、福祉施策の充実を図ることが求められることとなった。平成7年、精神障害者福祉等の充実を図るため、精神保健法が精神保健および精神障害者福祉に関する法律に改正され、身体障害者については身体障害者手帳が、知的障害者については療育手帳があり、さまざまな福祉的配慮が行われていることに鑑み、精神障害者保健福祉手帳の制度が創設された。
(2)制度の概要
精神障害者保健福祉手帳は、精神障害者(発達障害者を含む)の申請に基づき、その障害が政令で定めた精神障害の状態を満たす場合に、都道府県知事、政令指定都市市長が交付する。精神障害者保健福祉手帳は、手帳の交付を受けた者に対し、各方面の協力により各種の支援策が講じられることを促進し、精神障害者の社会復帰の促進と自立と社会参加の促進を図ることを目的としている。
障害等級は、政令において、日常生活もしくは社会生活の制限の度合いに応じて、1級から3級まで定められている。精神障害者保健福祉手帳の有効期間は2年間であり、有効期間の延長を希望する者は、2年ごとに、障害等級に定める精神障害の状態にあることについて、都道府県知事等の認定を受けなければならないとされている。
5 おわりに
身体障害、知的障害、精神障害の障害認定に基づく、障害者手帳を交付する制度は、制度が創設された時代背景や法令等が異なっている。それぞれの手帳制度の趣旨を踏まえつつ、公平かつ適正な障害認定制度のあり方を議論する必要がある。