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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

身体障害者手帳制度に関する最近の話題

江藤文夫

はじめに

平成24年4月の参議院予算委員会において、桜井充議員から身体障害者の等級をめぐって心臓ペースメーカを例として「本当に1級でいいのだろうか」との質問があった。これを受けて、小宮山厚生労働大臣(当時)は、ペースメーカ装着者や人工関節置換者は現在のところ、一律に手帳の障害程度認定を実施しているが、こうした方々の中にも医療技術の進歩により社会生活に大きな支障がない程度に日常生活能力が改善している人も多くあると思われ、したがって「このような方たちについての障害認定について、関係者や専門家の御意見を伺いながら見直しを進めたいというふうに思います」と答弁している。

また、同年6月の厚生労働委員会(障害者総合支援法審議)において、秋野公造議員より膀胱障害の認定に関する質問があり、同国務大臣は「障害認定のあり方などに関する研究班員の皆さんと相談をしながら、今回の法案とは別に検討をしていきたいと思います」と答弁している。

20年前に某新聞で「矛盾だらけの障害者の等級」としてペースメーカ埋め込み者の現実等が取り上げられたが、身体障害者の等級認定基準の問題は、身体障害者福祉法が施行されて間もないころから課題として一部では意識されてきた。身体障害等級という概念それ自体が歴史的役割を終えつつあると指摘されて久しいが1)、筆者は、平成22~24年度に「障害認定の在り方に関する研究」(厚生労働科学研究補助金障害者対策総合研究事業。以下、研究班と略す)に携わり、手帳の利用実態等の調査を行なったことから、最近の話題としてこれらの調査結果等を紹介したい。

身体障害者福祉法制定からの60余年間

第二次世界大戦後、大量の戦傷病者や戦災で住む家も職場も失った人々への緊急対応策が政府により実施され、戦傷病者(いわゆる傷痍軍人)のためだけでなく、身体障害者の職業自立を支援する目的で身体障害者福祉法が制定されたのは昭和24年(1949年)で、翌年から施行された。

当時の推定障害者数の60%は傷痍軍人であったといわれるが、法案作成の指導に当たった連合国軍総司令部公衆衛生福祉部リハビリテーション課の社会保障政策の原則は無差別平等であったことから、傷痍軍人だけを優遇することも冷遇することも発想されなかった。リハビリテーションであるから、当然犯罪者や売春婦(当時の用語)も対象とされ、障害に関しても身体障害だけでなく精神障害も想定されていた。さらには、米国では1973年のリハビリテーション法で差別禁止が入れられたが、戦後間もない法律に「差別禁止条項」を盛り込もうとしたとされる2)

しかし、他の多くの法律と同様に、実際の策定に当たったのは日本人であることから、基本的には戦前の仕組みが踏襲されている。身体障害者福祉法における等級評価は軍人恩給診断の流れをくみ、医学的に解剖学レベルでの機能の喪失を評価することで、障害(資格)認定の公平性を期した。

本法律の目的は、制定時には「身体障害者の更生を援助し、その更生のために必要な保護を行い、もって身体障害者の生活の安定に寄与する等その福祉の増進を図ることを目的とする」とされていた。身体障害者の定義は「別表に掲げる身体上の障害のため職業能力が損傷されている18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」とされていた。施行の翌年の改正では、「職業能力の損傷」が削除された。その後度々、本法律は改正されてきたが、基本的には身体障害者の保護を目的とする法ではなく、更生、すなわちリハビリテーションを基本的な目的とする。

本法律が制定されてから60余年が経過して、医療技術の進歩は著しいものがある。また、障害に関しても、その定義を含めて国際的な議論が深まり、障害をめぐる国際的な取り組みがさまざまになされ、2011年にはWHOと世界銀行とによる「障害に関する世界報告書」が刊行された。この間に、障害の概念も医学モデルから社会モデルにシフトしつつある3)

身体障害の内容、すなわち身体障害者福祉法の対象・範囲について、当初は視力障害、聴力障害、言語機能障害、肢体不自由であった。戦傷病者と並んで重大な障害原因であった結核症ならびにその後遺症者は財政的理由から排除された。しかし、高度経済成長を背景に内部障害として、心臓機能障害および呼吸器機能障害が1967年に、腎臓機能障害が1972年に、膀胱または直腸機能障害が1984年に、小腸機能障害が1986年に追加された。さらに、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害が1998年に、肝機能障害が2010年に追加され、今日ではいわゆる「難病」が追加されることになる。

障害認定基準については、一貫して医学的診断により、機能形態障害(impairment)が重視されている。その源流は、森鴎外による「創傷に基ける操業及興産の能不能を決断する法(明治24年、陸軍軍医学会雑誌)」に注目され、これはドイツ留学から帰国後に連載したドイツのL. Beckerの著書翻訳(ベッケル阻業の医断)に由来する考え方である。労働災害による労働能力判定において、解剖学および生理学レベルでの機能形態障害の医学的診断を根拠とすることを推奨した。そして、その救済のために工人保険(労災保険)の必要を論じた4)

興味深いことに、内部障害として初めて1967年に追加された心臓機能障害の認定基準では、心臓の機能の障害により「自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの」「家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの」「社会での日常生活活動が著しく制限されるもの」が記載されるようになった。しかし、実際の判定の基準としては、胸部X線での心胸郭比と心電図所見が列挙され、それらのいずれかに該当するものして医学的診断が用いられる。前者、すなわち日常生活活動での制限の程度をもって疾病の重症度分類を行うことは20世紀半ばの欧米における医療で普及したことであったが、わが国では一貫して参考所見にとどめられてきた5)

本法律の施行後、障害年金や労災認定など異なる障害程度区分が現われ、統一等級を含めた横並びの問題調整に関する委員会、いわゆる沖中委員会が昭和30年代の中ごろ開催され、以来たびたび障害認定の在り方についての課題が指摘されてきた。特に、国際障害者年(1981年)を契機とする社会的な障害者問題に対する関心と理解の深まりを背景として、1982年3月の身体障害者福祉審議会「今後における身体障害者福祉を進めるための総合的方策」答申において、さまざまな提言がなされた。その中で障害程度等級に関しては、「身体部位の評価に加え、日常生活活動能力に着目した合理的評価の実現」が記載された。さらに、「内臓機能障害についての能力評価等による等級の見直し」なども記載されている。

しかし、この答申を受けた社会局長諮問の身体障害者福祉基本問題検討委員会報告書(1983年8月)では、現行の程度等級評価の方式は必ずしも適当ではないとしながら、「日常生活能力に着目する評価方法があるが、日常生活能力そのものが本人の意欲、環境による条件等に左右されるものである上、その評価も評価者の主観によって異なることがあると考えられるので」時期尚早と考えると結論し、今日に至っている。

一方、医学や医療技術の進歩にもかかわらず、判定基準が基本的には1967年の胸部X線と心電図所見のままであり、検査法の進歩が反映されていないことも問題視されてきた。

手帳の利用実態について

我々の研究班では、障害者手帳利用者に係る実態の把握のためのアンケート調査を設計し、一次調査を実施し、その結果を踏まえて、障害種別等の偏りに配慮して調査対象を拡大して実施し、分析した。具体的には「障害者手帳の利用状況に関する調査」として、どのような障害のあるものが具体的にどのようなサービスをどれくらい利用しているか、また、日常生活や社会生活においてどのような支障があるか、どのようなサービスを必要としているか等について、国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局、横浜市総合リハビリテーションセンター、北里大学病院等を利用する障害者を対象として質問紙法による調査を実施した。アンケート調査の実施に当たってはあらかじめ、国立障害者リハビリテーションセンター、北里大学においてそれぞれ倫理審査委員会に申請し、承認を得た。

障害者手帳の利用状況に関するアンケート調査は、国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局の利用者104人、横浜市総合リハビリテーションセンターの利用者107人、北里大学病院の外来患者107人、千葉、宮城、埼玉、兵庫、広島の総合リハビリテーションセンター合わせて77人の利用者の合計395人から有効回答が回収された。回答者の平均年齢は46歳(3~90歳、うち66歳以上が77人)、性別は男性284人、女性109人(無回答2人)。障害種別は視覚障害11%、聴覚・平衡機能障害5%、音声・言語・そしゃく機能障害3%、肢体不自由57%、内部障害29%であった(複数回答含む)。障害等級は1級が245人、2級が65人、3級が34人、4級が21人等であり、障害程度区分の認定を受けている者は117人だった。

調査項目全般で、障害等級と関連性の大きい項目は、基本的日常生活活動(ADL)の一部の他は、「障害に起因する年金を受給」「福祉タクシーの利用」「新マル優制度」「自動車税等の減免」「携帯電話料金の割引」などであった。服薬管理などのIADL、「外出状況」「医療機関受診状況」等は相関がみられない。図1は、直近1年間で障害者手帳を提示して利用したことのあるサービスの度数調査の結果である。利用頻度の大きい項目は、交通運賃の減免、自動車税等の減免、公共施設利用の割引、福祉タクシー、税金の障害者控除、駐車許可、携帯電話料金の割引、などの順であった。

図1 利用したことがある制度やサービス
図1 利用したことがある制度やサービス拡大図・テキスト

また、内部障害(今回の対象116人中103人は心臓機能障害)では、障害等級1級であってもADLは「一人でできる」が大半を占めた。そこで、心臓機能障害については個別に解析を加えた。障害等級については、94%が1級を所持していたが、ほぼ80%以上の割合で食事、排せつ、移動、服薬管理といったADLは自立していた。65歳以上(46人)に限ってみても、約70%の者が自立していた。

図2は、最近6か月間での外出状況である。87%が週に数日以上の頻度で外出していたが、肢体不自由では80%であった。外出時に、常に支援が必要な者は8%で、78%は単独で外出できる。一方、肢体不自由では常に支援が必要な者は37%(1・2級のみでは39%)、単独で外出できる者は38%(1・2級のみでは34%)であった。その他、入浴が一人で可能なものは心臓機能障害では96%で、肢体不自由では53%、日常の買い物が一人で可能なものは心臓機能障害では86%で、肢体不自由では50%、などであった。視覚障害においても心臓機能障害とは異なる傾向が認められ、活動度や活動能力、および手帳の利用状況は障害種別により異なることが示唆された。

図2 心臓機能障害者における最近6か月の外出状況
図2 心臓機能障害者における最近6か月の外出状況拡大図・テキスト

自立支援法における障害程度区分と障害等級

障害者の更生援護、すなわち自立支援に関しては支援費制度の導入に続いて、新たに障害者自立支援法が施行され、さらに障害者総合支援法(障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律)として整備されることで、手帳を交付する法律での自立支援での役割は激変しつつある。

研究班では自治体(A市)の協力を得て、自治体における障害者サービスの状況等についての調査を行なった。その中で、障害程度区分と障害等級との関係は図3に示すとおり、区分6では1、2級が大多数を占めるが、区分5以下ではほぼ同等に分布し、有意な相関は認められなかった。また、障害程度区分が上になるほど一人当たりの費用額が増加する傾向があるが、障害種別によりその特徴は異なるという結果が得られた。これらのデータ管理のシステムは自治体ごとに異なり、その実情を含めさらなる調査、分析が必要と考えられた。

図3 身体障害者自立支援給付決定者数(障害程度区分―障害等級別)
図3 身体障害者自立支援給付決定者数(障害程度区分―障害等級別)拡大図・テキスト

おわりに

身体障害者手帳を規定する身体障害者福祉法の目的は近年揺れ動かされているが、最新改正(平成24年6月27日法律51号)で(法の目的)第1条は、「この法律は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)と相まって、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障害者を援助し、及び必要に応じて保護し、もつて身体障害者の福祉の増進を図ることを目的とする」と記されている。第4条で身体障害者を定義し、その身体障害者手帳に関する第15条の記述はほとんど揺らいでいない。

昭和26年改正(第1次改正)において、身体障害者手帳に等級の記載欄が設けられた。その後、各種公的年金や労災認定など異なる障害の程度区分(等級)が生まれ、これらの調整が検討されたこともあったが、それぞれの法の目的によって異なることは当然と考えられる。しかし、障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するために障害者総合支援法が整備され、障害程度区分についても見直されつつある中で、障害者手帳の等級区分の意義が問われている。

障害者の定義については、障害統計の標準化のために近年活発化した国際活動がある。「障害に関する世界報告書」では、障害者数を全人口の15%と推計している6)。公平性を期すために医学モデルに固執してきた認定基準ではあるが、医学・医療技術の進歩や義肢・装具を含めた福祉機器の進歩により、永続する疾病の症状管理技術と精度は60余年前とは大きく異なっている。生活活動の評価に基づく認定基準についても検討を要するが、そのための人材養成は進んでいない。

世界報告書では、障害者数増加の要因の一つとして人口の高齢化を挙げているが、わが国は高齢社会に関しては世界の最先端をいく。介護保険が施行されて以降も、高齢者の手帳診断希望は減少していない。その理由は、一部紹介したように、本法律や障害者総合支援法とは本来関係のない各種サービスが手帳所持や障害等級と連動しているためでもある。

手帳制度に関する最近の話題として、たまたま国会での質問について紹介したが、手帳制度や認定基準をめぐって、抜本的見直しを要する時代にあると考えられる。しかし、当面取り上げられた認定基準の問題は、現行の障害等級認定の方法の枠内において見直されるべきであろう。

(えとうふみお 国立障害者リハビリテーションセンター顧問)


【文献】

1)日本社会事業大学障害者の法的定義研究会:日本における障害者の法的定義―その現状と課題―.リハビリテーション研究No.83:5-13、1995

2)丸山一郎:トピックス「障碍者対策ことはじめ―身体障害者福祉法はこうして誕生した」ノーマライゼーション26巻10号:49-51、2006

3)江藤文夫:World Report on Disability 2011を読む、刊行に至る経緯と報告書の概要.作業療法ジャーナル47巻1号:58-64、2013

4)砂原茂一:障害論の100年―森鴎外からICIDHまで―.リハビリテーション医学18巻6号:317-318、1981

5)江藤文夫:リハビリテーションと呼吸・循環障害.江藤文夫、上月正博、植木純、牧田茂、編:CR別冊 呼吸・循環障害のリハビリテーション、医歯薬出版、pp2-5、2008

6)World Health Organization, World Bank: World Report on Disability. WHO, Geneva, 2011