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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

知的障害の認定に関する最近の話題

小澤温

1 知的障害の定義の多様性

知的障害に関する定義は時代や社会状況によって変化しており、一般的に考える以上に簡単に示すことは困難である。ここでは、主な定義として、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD)、アメリカ精神医学会(APA)の精神疾患の分類と診断の手引き(DSM)、アメリカ知的・発達障害協会(AAIDD)の知的障害の定義、わが国の知的障害児(者)基礎調査における定義の4つを取り上げた。

世界保健機関によって作成されている国際疾病分類(ICD)は、診断基準と疾病に関する統計把握において各国に共通の指針を提供するものとして有名である。現在、ICD-10(第10版)(1992年)が用いられている。2015年には、ICD-11(第11版)が導入される予定であり、現在、改定作業が行われている。

ICD-10によれば1)、知的障害者は「精神の発達停止あるいは発達不全の状態であり、発達期に明らかになる全体的な知能水準に寄与する能力、たとえば認知、言語、運動および社会的能力の障害によって特徴づけられる」としている。そして、診断のガイドラインとして「知能は単一の特性ではなく、多くの異なった多少なりとも特殊な能力に基づいて評価される」とし、「知的水準の評価は臨床所見(個人の文化的背景から判断された)適応行動および心理測定テスト所見を含め、入手できる情報のすべてに基づいて行うべきである」としている。このような限定の上で、適切に標準化されたIQ検査が用いられるならば、軽度の知的障害(50~69)、中度の知的障害(35~49)、重度の知的障害(20~34)、最重度の知的障害(20未満)といった程度を示している。

アメリカ精神医学会の診断基準は、2001年のDSM-4-TR(精神疾患の分類と診断の手引き)によると、知的障害は、以下のような診断基準が示されている2)。ただし、2013年5月には、DSM-4-TRの改定版のDSM-5が示された。これによれば、知的障害の障害程度が、IQといった標準化された基準に加えて、(言語、読み、書きなどの)概念的な領域、(共感性、対人コミュニケーション、友情などの)社会的領域、(自己管理、職務責任感、レクリエーションなどの)生活実践的な領域の3領域を勘案した考え方が重視されている。

A.明らかに平均以下の知的機能:個別機能による知能検査で、およそ70またはそれ以下のIQ(幼児においては、明らかに平均以下の知的機能であるという臨床判断による)

B.同時に、現在の適応機能(すなわち、その文化圏でその年齢に対して記載される基準に適合する有能さ)の欠陥または不全が以下のうち2つ以上の領域で存在:コミュニケーション、自己管理、家庭生活、社会的/対人的機能、地域社会資源の利用、自律性、発揮される学習の能力、仕事、余暇、健康、安全

C.発症は18歳以前である。

アメリカ知的・発達障害協会による知的障害の定義は、「知的障害は、知的機能と適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルによって表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は18歳までに生じる」3)としている。ただし、この定義を用いるためには5つの前提を示している。

1.今ある機能の制約は、その人と同年齢の仲間や文化に典型的な地域社会の状況の中で考慮されなければならない。

2.アセスメントが妥当であるためには、コミュニケーション、感覚、運動および行動要因の差はもちろんのこと、文化的、言語的な多様性を考慮しなければならない。

3.個人の中には、制約と強さが共存していることが多い。

4.制約を記述する重要な目的は、必要とされる支援のプロフィールを作り出すことである。

5.長期にわたる適切な個別支援によって、知的障害がある人の生活機能は全般的に改善するであろう。

わが国の法律には、知的障害を定義したものはないため、一般的には、1995年から5年ごとに実施される知的障害児(者)基礎調査における定義を用いることが多い。2000年および2005年に用いられた定義は「知的機能の障害が発達期(概ね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」としている。

知的障害の判断基準は、(a)知的機能の障害(標準化された知的検査によって測定された結果、知的指数(IQ)が概ね70までのもの)、(b)日常生活能力(自立機能・運動機能・探索機能・移動・生活文化・職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活水準のa、b、c、d(これらは重度から軽度に関する評定)のいずれかに該当するもの、の2側面で、(a)および(b)のいずれにも該当するものを知的障害としている。

これらの定義に共通して、知的障害のとらえ方の近年の流れとして、知的機能に基盤を置いた見方から、地域生活や環境との相互作用に基盤を置いた見方に変化していることが理解できる。

2 障害者総合支援法における障害程度区分の見直し

障害者総合支援法(2005年に障害者自立支援法として成立、2013年度から(改正法)障害者総合支援法の施行)の対象となる障害者は第4条において「身体障害者福祉法第4条に規定する身体障害者、知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち18歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定する精神障害者(発達障害者支援法第2条第2項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。以下「精神障害者」という)のうち18歳以上である者をいう」としている。

障害者総合支援法では、障害者自立支援法施行時に、障害の定義に加えて、障害福祉サービスの必要性を客観的に明らかにする目的のために障害程度区分を導入した。障害程度区分は、障害者の心身の状態を総合的に勘案し、それに基づいて、要介護状態と福祉サービスの必要性を示す区分として厚生労働省令で定めることにした。障害程度区分は、障害者および障害児のサービスの必要性に関して全国共通の客観的なスケールを用いて明らかにすることを目的として、主に介護の必要時間をもとに開発された。

障害程度区分を判定するために、共通の調査項目として、心身の状況、医療、麻痺の状態、移動、動作、身辺、行動、コミュニケーション、生活の状況、など、106項目が定められた。この106項目は要介護認定に用いられている79項目に、知的障害、精神障害などの行動的な特徴に関わる項目を追加して作成された。106項目で一次判定を行い、市町村審査会で医師の意見書、認定調査票の特記事項などを勘案して二次判定を行なって障害程度区分の認定(非該当および障害程度区分1~6)がなされる。ただし、国の示したデータでは、知的障害者では一次判定の審査会(二次判定)の変更率が高く、これらの項目でサービスの必要性を判断することは現実的に困難なことが示されており、障害程度区分の見直しの必要性が求められてきた。そのため、障害者総合支援法では、障害程度区分は2014年度から障害支援区分に名称と項目内容を変更し、さらに、3年かけて支給決定方法の見直しが明記された。

3 障害支援区分の検討について

2014年度の障害支援区分による障害認定調査の実施に向けて、国は2013年7月から全国100程度の市町村を対象にした試行事業を行なっている。その目的は、一次判定の結果を審査会による二次判定の結果により近づけるために障害程度区分の項目を修正・変更し、その妥当性を検証することである。試行事業に用いられている項目は、「移動や動作等に関連する項目」(12項目)、「身の回りの世話や日常生活等に関連する項目」(16項目)、「意思疎通等に関連する項目」(6項目)、「行動障害に関連する項目」(34項目)、「特別な医療に関する項目」(12項目)、の合計80項目と特記事項から構成されている。

この試行事業の結果は、現時点(2013年9月末)ではまだ出ていないが、日本知的障害者福祉協会が独自に実施した試行調査では、認定調査に慣れている調査員と慣れていない調査員との間で評定に差がみられたこと、自宅・単身生活での支援の必要性に着目しているので、知的障害者の生活状況を知っている調査員の評定が重要なこと、使用されている項目では、反社会的な行動の評定に関してとらえることが困難なこと、といった課題が指摘されている。

このような現実的な課題に加えて、障害支援区分の本質的な課題として、この支援区分は、障害者総合支援法の定めるサービスの必要性の判断としてふさわしいものであるかという疑問である。

障害者自立支援法施行時の障害程度区分を導入した意味は、介護などのサービス必要量(必要時間)によって、対象を規定しようとする点であり、従来の障害者手帳制度に代表される対象規定とは大きく異なり、サービスの必要性の判定という面が強く出ている点をあげることができる。ただし、サービスの必要量は、環境面(住環境、家族状況、外出環境など)、これに加えて、自立意欲、社会参加の希望、などの主観的な面によって大きく影響を受けるので、これらの要因を踏まえたサービスの必要量把握方法の開発が重要であるが、現状の仕組みではうまく勘案されているとは思えない。

このことに参考になると思われるのが、アメリカ知的・発達障害協会の開発した知的障害者に対する「支援尺度」(SIS)である4)。SISは「支援ニーズに関する尺度」、「自分を守ること(自己防衛)・自分の権利を擁護すること(権利擁護)の補足尺度」、「特別な医学的・行動的支援ニーズ」の3つの部分から構成されている。「支援ニーズに関する尺度」、「自分を守ること(自己防衛)・自分の権利を擁護すること(権利擁護)の補足尺度」では「支援の頻度」、「1日あたりの支援時間」、「支援タイプ」の項目で評定している。「特別な医学的・行動的支援ニーズ」では「支援の必要性」で評定している。

この尺度(SIS)と従来用いられてきた適応行動尺度との違いについてみると、SISは国際生活機能分類(ICF)における「活動」と「参加」の状況、「環境因子」をかなり意識した尺度であることが理解できる。ただし、SISを実施するにあたって、面接者の資格(資質)、専門性が重視されており、大学を卒業したヒューマンサービスの分野で働いている専門職で、知的障害者との関わりのある仕事の経験のある者を推奨している。この点は、先の日本知的障害者福祉協会で実施した試行調査で指摘された障害支援区分の認定に関わる調査員に、知的障害者の生活状況の理解と支援経験が求められていることと重なり、きわめて重要なポイントである。今後、障害支援区分による知的障害者の支援の必要性の認定調査にあたっては、調査員の資質に関して、その専門性を十分に担保しながら推進していく必要がある。

(おざわあつし 筑波大学)


【文献】

1)融道男・中根充文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗監訳:WHO編「ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断のガイドライン」(新訂版)、医学書院、P.235-241、2005年

2)高橋三郎・大野裕・染矢俊幸:アメリカ精神医学会編「DSM-4-TR 精神疾患の分類と診断の手引き」(新訂版)、医学書院、P.49-50、2003年

3)太田俊己・金子健・原仁・湯汲英史・沼田千妤子共訳:米国知的・発達障害協会用語・分類特別委員会編「知的障害 定義、分類および支援体系」、日本発達障害福祉連盟、P.5-20、2012年

4)日本知的障害者福祉協会監修(渡辺勧持・古屋健・三谷嘉明 共訳):アメリカ知的・発達障害協会編「知的障害のある人の支援尺度(SIS)―介護から支援への転換―」、中央法規出版、P.2-41、2008年