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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

知り隊おしえ隊

パラトライアスロンの魅力

富川理充

1 はじめに

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定に、日本中が歓喜にわいたのは記憶に新しい。ここまでに至った一連のオリンピック・ムーブメントにより、スポーツ行政一元化のためのスポーツ庁設置も現実味を帯びている。2011年に施行されたスポーツ基本法とともに、障害者のスポーツにもさらなる追い風が吹くことが期待される。

その東京に先立ち、2016年リオデジャネイロのパラリンピックで新たに採用される競技が、カヌーとトライアスロンである。後者はパラトライアスロンと呼ばれ、トライアスロンと同様に水泳(スイム)、自転車(バイク)、ランニング(ラン)を連続して行う競技である(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2 トライアスロンとパラトライアスロン

トライアスロンとパラトライアスロン、何が違うのか?“トライアスロンを、さまざまな障害をもつ選手間で、できる限り公平性を保ちながら、かつ安全に競争できるようにルールを整えたスポーツがパラトライアスロンである”と回答できるかもしれない。しかし、この質問へのここでの返答は、“基本的には何も変わらない、標準的な距離が違うだけ”としたい。

前述したように、どちらもスイム、バイク、ランを続けて行うことで成立するスポーツである。

トライアスロン自体、その誕生は1974年と比較的新しく、パラトライアスロンが単独開催されるようになったのも最近のことである。環境が許されれば、健常者も障害者も同じレースで共に競い合うことができる。これまでも障害をもった幾人もの選手が、健常者の選手と一緒のトライアスロンに出場し完走している。トライアスロンが誕生して間もない1980年代から、すでに障害者も健常者に交じってトライアスロンに挑戦していたのである。

トライアスロンはさまざまな距離設定で行われる。なかでもスイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロの総距離51.5キロがスタンダード・ディスタンスと呼ばれ、現在は、この距離でオリンピックや世界選手権が実施される。

一方のパラトライアスロンは、スイム0.75キロ、バイク20キロ、ラン5キロの総距離25.75キロ、スタンダード・ディスタンスの半分となるスプリント・ディスタンスが標準である。もちろん、選手の障害の状態・程度により、各3つのパートで特別な用具・装具の使用や道具の改造が認められる。競技遂行を支援するハンドラーやガイドの協力も得られる。

多くの障害者がパラトライアスリートとして、またトライアスリートとしてレースに参加できる環境が整備されるのは喜ばしい。とはいうものの、スタッフや安全の確保、コースレイアウトの面から、障害をもつ選手を受け入れられる大会はそれほど多くない。パラリンピックの正式競技となり、7年後には東京がその晴れ舞台となることを考えると、国内でもパラトライアスロンの単独開催を可能にする環境整備が課題の一つである(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

3 パラトライアスロンの概略

国際トライアスロン連合(ITU)は、1995年から毎年パラトライアスロン世界選手権を開催するなど、15年以上にわたりその普及に努めている。パラトライアスロンも、2009年の世界選手権までは51.5キロで行われていたが、2010年以降より現在の25.75キロとなった。国内の選手権大会の開催はまだ実現できていないが、2011年のITU世界選手権トライアスロンシリーズ横浜大会において、JTU念願の国内初となる単独のパラトライアスロンを併催した。今ではアジア地域唯一のITUイベントとなっている。

1.カテゴリー分け

障害の程度や状態により、現在では、以下のように7つのカテゴリーに分けられ競技が行われる。

TRI-1:下半身不随(バイクパートではハンドサイクル、ランパートでは競技用車いすの使用が義務)

TRI-2:膝上切断を含む重度の下肢障害(ランパートでは義足か杖の使用が義務)

TRI-3:脳性マヒなどその他のさまざまな障害(バイクパートではトライサイクルの使用可)

TRI-4:上肢の障害(バイクパート、ランパートで義手、アーム・スリング等の使用可)

TRI-5:膝下切断を含む中程度の下肢障害(バイクパート、ランパートで義足の使用可)

TRI-6a:完全な視覚障害(バイクパートではタンデムバイクを使用、レース全体を通して同性のガイド1名の伴走が義務)

TRI-6b:部分的な視覚障害(TRI-6aと同条件)

基本的にどのカテゴリーも同時にスタートする。すべてのカテゴリーの競技者は、スイムパートで水温が28度を超えない限りウェットスーツの着用が許可され、特にTRI-1の選手は、下半身のみを覆うウェットスーツの着用が常に許可される。

2.ハンドラーの存在

選手によってはウェットスーツや他の用具・装具の着脱、準備が困難な場合もある。それらの作業を支援するハンドラーがTRI-2からTRI-5までは各選手1人、TRI-1では2人まで認められる。TRI-6ではガイドがハンドラーを兼務する。選手がハンドラーを帯同できなくても、希望する場合は大会側が準備し、スイムの出口には、そこの支援のみを担当するスイムイグジットハンドラーが準備される。

現在のパラトライアスロンでは、ハンドラーの役割は非常に重要である。世界選手権のトランジションエリアの光景は、あたかもF1のピット作業を見ているかのようである。選手がいすに座り義足を着けている間、ハンドラーがヘルメットを被らせ補給食を渡しバイクの準備をするなど、それら一連の動きを事前にシミュレートして臨んでいる場合も多い。

全力を尽くして競技をしている選手の姿はもちろんのこと、このトランジションの様子も、現在のパラトライアスロンの見どころの一つかもしれない。また、健常者もハンドラーやガイドとして一緒に参加することができる競技である(写真3、写真4)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3・4はウェブには掲載しておりません。

3.競技人口

パラトライアスロン世界選手権の出場者数は、スプリント・ディスタンスが標準となった2010年に、男女ともそれまでの倍以上に上った。その後男子は横ばいとなり、今年再び倍以上に増加、165人を数えた。3年後のパラリンピックを見据え、各国各選手が世界の動向を確認しにきたと思われる。女子は毎年微増を続け、今年は43人であった。世界で開催された主要なレース結果から、現在の世界の競技人口は男子で300人程度、女子は100人程度と推測される(図1)。

図1 世界選手権および横浜大会のパラトライアスロン出場者数の推移
図1 世界選手権および横浜大会のパラトライアスロン出場者数の推移拡大図・テキスト

国内に目を向け横浜大会を見ると、男子は年々増加し、今年は22人(海外選手2人含む)を数えた。一方女子は、毎年1、2人にとどまっている。しかし、パラトライアスロンの単独開催は、昨年の関東(横浜)、東海(長良川)、近畿(グリーンピア三木)の3大会から、今年は東北(七ヶ浜)、東海(蒲郡)が加わり5大会に増えた(ただし、カテゴリーに制限がある場合もある)。各地でより出場しやすい環境ができ始め、全体の出場者は増えている。さらに、関係者の方々の尽力により、障害者の出場を認めるトライアスロン大会が増えきているのは確かである。

現在の国内の競技人口は、男子は30人、女子は10人程度であるが、潜在的には各々50人、20人ほどに及ぶのではないだろうか。単なる希望的観測に過ぎないだろうか。興味ある方は躊躇(ちゅうちょ)せず、ぜひ挑戦してほしい。

4 エイジとエリート

これまでのパラトライアスロンは、年代別で競い合う、いわゆるエイジカテゴリーの範疇で実施されてきたが(年齢区分は設けられない)、パラリンピックを控えた今、エリートスポーツとして発展し始めている。

今年9月にロンドンで開催された世界選手権では、エリートトライアスロンと同様のスケジュールが組まれ、まさにエリートパラトライアスロンの幕明けとなった。日本からも初めて選手団を組み、11人のパラトライアスリートを送り出した(写真5)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

しかしながら、今や30万人超といわれる国内トライアスリートの多くがそうであるように、エリートへの広がりが唯一ではない。不可能と思われた3種目の制覇や身近な地域で開催される大会への連続出場、鉄人レースとして知られるロング・ディスタンス(スイム3.8キロ、バイク180キロ、ラン42.195キロが一般的)やその半分のハーフアイアンマンの完走など、各々のレベルに応じ自分の可能性へ挑戦できるという醍醐味がある。

パラリンピックに採用されたことで注目を浴び始めたパラトライアスロン。それも広がりの一つではあるが、実はいかようにも楽しめるスポーツである。もともとは、障害者も健常者と共にトライアスロンに挑戦していたのだから。

5 さいごに

JTUは昨年末にパラリンピック対策プロジェクトを立ち上げ、3年後、7年後のパラリンピックを見据えながらパラトライアスロンの強化・普及に取り組んでいる。パラリンピックの競技の中で、JOC加盟競技団体の強化体制が、統括して選手強化まで行うことは日本初の試みである。審判やサポートスタッフの充実も含め、選手が参加し競技しやすい環境を整備していきたい。興味を持たれた方は、JTUまでご一報いただきたい。

(とみかわまさみつ 公益社団法人日本トライアスロン連合(JTU)パラリンピック対策プロジェクトリーダー/専修大学准教授)


【参考文献(パラトライアスロン情報掲載Webサイト)】

・ITU:http://www.triathlon.org/paratriathlon

・JTU:http://www.jtu.or.jp/para/index.html