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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

発達障害者による発達障害者のための就労支援施設「Necco」

金子磨矢子

発達障害者の存在が認められました!

2010年12月の参議院本会議、当時、政権与党だった民主党は、障害者自立支援法を改正すると言っていたのにほとんど変わりませんでしたが、一部が変更されました。それは、「発達障害者を障害者と認める」という一行でした。それまでは発達障害は子どもだけの障害とされていました。大人になれば自然と治るとでも思われていたのでしょうか。

2005年に発達障害者支援法が施行されましたが、中味は、小中学校に通級学級ができたり、スクールカウンセラーの配置だったり、早期発見のための幼児検診のチェック項目が増えたりした程度のものでした。今ではだんだん年齢が上がってきて高校、大学での支援も行われるようになってきました。そして、やっと大人の中にも発達障害をもつ人が大勢いることが認められたのです。

そもそも発達障害って何なのか、皆さんはご存じでしょうか

私自身が発達障害の当事者です。私の障害名は高機能広汎性発達障害と名付けられました。アスペルガー、PDD、PDDNOS、高機能自閉症、AD/HD、LD、ディスレクシア、トゥレット…いろいろ聞いたことのある人はいると思います。今年から細かく分けないでASD(自閉症スペクトラム障害)という表現に変わっています。ASDは、IQが低いとは限らず、むしろ普通かそれ以上に高いことが多いのです。しかし、ものごとの考え方や感じ方は自閉症、ということなのです。

原因はまだ解明されていません。生まれつきまたは出生直後からの障害で一生治ることはありません。私は、脳の形が違うのだと感じています。できることとできないことの差が激しく、人それぞれで状態が違います。感覚の超過敏、超鈍麻が混在する人が多くいます。一人の中でもその時々によって変化します。

目に見える障害ではないので他人に理解してもらうことが難題です。

自分はどうしてこんなに生きていくのが大変なんだろう

そう感じている人たちが、この頃は自分で調べて発達障害と気付くケースも増えてきました。うつになって精神科を訪ね、運よく発達障害を見抜いてくれるドクターに出会う場合もあります。大人になってから自分の発達障害を見つけた人たちは、インターネットの普及とともに増えてきてSNSのコミュニティなどに集まってきました。

自分だけじゃないんだ!同じ困難を抱えた仲間に会ってみたい。直接話をしてみたい。そんな思いでオフ会が次々生まれ、当事者会は全国に広がっていきました。それでも次回が待ちきれない。もっと情報交換がしたい。もっと思う存分話がしたい。似たような悩みを持った人同士は、やっと話の通じる仲間たちと出会え、もっともっと会いたい気持ちが膨らんでいきました。

いつでも行ける居場所がほしい

ほとんどの発達障害をもつ人たちは、特に人間関係で苦労してきている場合が多いのです。学校でも職場でもいじめに遭わなかった人の方が圧倒的に少なく、他人と接するのが不安で仕方がないのです。安心して行きたい時にいつでも行ける居場所がほしいという思いはみんなの願いになっていきました。

そんな時、家族会の方から地活(地域活動支援センター)を作った話を伺い、作り方のノウハウを教えていただいたのです。まず、場所探しから始まりました。物件探しもそう簡単にはいかず、1年近くかけて巡り合ったのが、今のNeccoカフェのある西早稲田のハシバビルでした。ちょうど3年前の秋、フリースペースを始めることができました。

名前は、猫、寝っ子、根っこ…Necco

猫好きが多く、猫がまったりとお昼寝をしているような、そして何よりも発達障害の根っこになっていけるように、そんな思いを込めたNeccoができあがりました。やっと見つかったNeccoのある新宿区ですが、新しい地活を増やさないと分かり、少しがっかりしていたところへラッキーなニュースが舞い込みました。

最初に書いたように、発達障害が障害と正式に認められたのです。私たちは発達障害者を中心とした発達障害者のための施設をつくることを目標に活動を始めました。それまでは、2次障害である精神科の障害名で行政の支援を受けるしか方法がなかったのです。

就労継続支援B型として

家族会で講演をしていただいたことのある先生が「B型なら作れるのでお手伝いしますよ」とわざわざ訪ねて来てくださいました。偶然がこんなに重なることもあるなんて信じられないでしょうが、その途端に、同じビルの上の階の方が引っ越しをして1部屋空いたのです。即座にその部屋を借り、広さも確保してB型を作れる体制に入りました。

自立支援法の改正、障害者総合支援法も4月1日から施行されました。私たちは一般社団法人を設立し、就労継続支援B型の申請を提出しました。東京都からは9月1日付けで認可が下り、その日から待ちに待ったカフェもオープンになったのです。

Neccoカフェ

営業時間は毎日12時~18時です。自慢のコーヒーは生豆から厳選して自家焙煎しています。アイスコーヒーも24時間水出しです。とても評判で、自宅用に豆を買って帰られるお客様もよくいらっしゃいます。Neccoオリジナルの発達障害の人のためにブレンドされたハーブティーも好評です。

カフェでは毎日、午前中の掃除から見事に連携プレイをしています。誰かが具合が悪くて欠席したり、途中で疲れて休憩する人が出ても大丈夫なように、余裕をもってシフトを組んでいます。

お客様はご近所のコーヒー好きの方もいらっしゃいますが、ほとんどは発達障害の当事者の方です。診断を受けている方も、もしかしてと不安に思っている人も、家族や恋人が発達障害なんです、と相談に来られる方などさまざまです。ピアサポーターのスタッフが、初めていらした方には必ずお声をかけるようにしています。

ゆあフレンズ

3階の就労継続支援B型のメインの仕事はIT関係です。インターネットを通じてやってくる方が多いせいか、はては発達障害の特性のせいか、ITに強い人が多くいます。パソコンも12台設置されていて、受注したホームページ作成をしている人、ポスターやチラシを作っている人、もちろん、初心者には職業指導員が丁寧に電源の入れ方から指導しています。ワード、エクセルの勉強会も随時行われています。

新宿区緑化事業と西早稲田商店会

私たちの仕事の中で幸せなことは、もちろん毎日仲間と一緒に活動できることなのですが、何よりもこの幸せな環境を地域の方々が温かく受け入れてくださっていることです。新宿区より委託されている緑化事業は、子育て地蔵尊の中の植栽です。私たちも商店会の一員として班長にもなり、役員会にもかかさず出席させていただいています。商店会のイベントのお手伝いをしてお役に立てることはうれしく思います。

その他の活動など

ビーズのアクセサリー、封筒などいろいろなものを作成しています。今はTシャツから紐を作る仕事を楽しくやっています。編むと素敵なバッグが出来上がります。

その他、当事者研究会、各種勉強会、各種相談会、親の会、親が当事者の会、ひきこもりの会、LGBTの会、アナログゲーム会、音楽の会、朗読会など数えきれません。

Neccoでは誰も排除しないことをコンセプトにしています。スタッフも同じ目線を保てるように全員が当事者で運営しています。ですから、みんなちょっと変わった仲間たちですが、「お互いさま」って思えるから、素の自分で自然にいられる場所なのだと思います。

(かねこまやこ 一般社団法人発達・精神サポートネットワーク理事長)