「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年1月号
列島縦断ネットワーキング【岩手】
「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」をつくるために
―陸前高田市の挑戦―
村上清
はじめに
平成23年3月11日の東日本大震災において壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市は、まちの復興目標として「世界に誇る美しいまち」を掲げ、「誰もが住みやすいまちづくり」を目指すことにしました。それを説明する言葉として、戸羽太陸前高田市長は「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」をこれからの復興計画の基本にすることを明言しています。今回は、陸前高田市の被害状況並びに現状、復興計画、被災弱者への取り組み、障害者と防災シンポジウム「誰もが住みやすいまちづくりに向けて」の報告、今後の挑戦を紹介します。
筆者は、陸前高田市出身で両親と兄弟の住む実家が津波に流され、両親は市内の仮の住居にて生活しています。震災前より、陸前高田ふるさと大使として市長のアドバイザー役を務めていました。震災直後から、在京の陸前高田市出身者を中心に、特定非営利活動法人陸前高田市支援連絡協議会AidTAKATAを設立し、その代表として「陸前高田さいがいFM放送」や陸前高田市公認キャラクター「たかたのゆめちゃん」の企画運営を行い、陸前高田市にとって必要な施策を行政と連携しながら遂行しています。
3.11東日本大震災で陸前高田市は壊滅的被害
壊滅的被害を受けた陸前高田市は、人口の約10%弱にあたる1800人もの方が亡くなり、いまだ行方不明の方が200人以上になっています。市内中心部の市街地はもとより公共施設、商業施設、すべての住居、ありとあらゆるものが跡形もなく消えてしまいました。2年9か月経った12月11日現在でも、2200世帯、約5千人余りが仮設住宅に住んでいる状況です。
○復興プラン・主なスケジュール
陸前高田市では平成30年度までを復興期間と位置づけ、復旧・復興を進めています。被災者の多くは現在も仮設住宅での生活を余儀なくされていることから、暮らしと生業の場所を確保することが急務となっています。そのため、以下の3事業を軸に、生活再建を目指す事業に取り組んでいます。
(1)被災市街地復興土地区画整理事業
旧市街地の半分程度を10~12メートル程度にかさ上げするとともに、山林等を切り開いて新たな居住区域を整備します。現在、計画区域の一部で事業認可を受け造成工事に着手しています。高台は早いところでは平成27年度から、かさ上げ地では28年度から住宅建設ができるよう事業を進めています。
(2)防災集団移転促進事業
区画整理区域外の地域では、防災集団移転促進事業で宅地を確保しようとしています。
(3)災害公営住宅整備事業
多くの市民が家屋を失いましたが、高齢化が進んでいる本市の場合、自力で自宅を再建できないケースも想定されることから、災害公営住宅の建設も進めています。
○復興までの課題や問題点
復興事業を進める上で重要なのが、地権者の理解と協力です。宅地を造成する場合も、造成した土を仮置きする場合も常に地権者の同意を得なければなりません。土地区画整理事業では約3千人もの地権者から協力や同意をいただく必要があり、その点で苦労をしているところです。国に対しても、できるだけ早く事業を進めることができるように現行制度の改正などを求めていますが、制度改正は難しい状況です。また、震災で多くの市職員を失いました。現在、全国の自治体から88人もの応援職員の協力を得て仕事を進めていますが、まだまだ足りない状況です。
身障者における被害と防災
陸前高田市では、今回の震災の被害者の中で身障者は124人と、身障者手帳所持者の7.1%の方が犠牲になりました。市内全体の犠牲者も7.2%とほぼ同様になっています。また、岩手県内での犠牲者の割合よりは非常に少なくなっていますが、いずれにしても犠牲者を出していることには変わりません。
陸前高田市では、今回の震災により、7か所あった知的・精神障がい者向けグループホームが全壊し、震災直後から復旧への努力がなされ、市内で開催されるさまざまな復興イベントに積極的に関わっています。
障がい者手帳等所持者の死亡者数
全体に占める割合 | ||
総人数 | 1,368 | 5.6% |
行方不明者数 | 0 | - |
死亡者数 | 124 | 7.1% |
(参照:陸前高田市)
「障害者と防災シンポジウム」を開催
2013年10月29日、日本財団、日本障害フォーラム(JDF)等の主催により、再建されたばかりのキャピタルホテル1000において、「障害者と防災シンポジウム」が開催されました。およそ200人を超える参加者で会場が埋め尽くされ、大変素晴らしい内容でした。
主催者側として、日本財団の笹川陽平会長、JDF幹事会議長の藤井克徳氏が挨拶され、また海外からは国連欧州本部のあるジュネーブから、国連事務総長特別代表(防災担当)のマルガレータ・ワルストロム氏が主催者として出席され、「防災の観点から考えた時に、防災計画を策定するすべての段階において、女性や子どもの状況、障害の多様性等を包括することが重要である」と挨拶されました。
また、車いす通学者で市立第一中学校の鈴木拓郎君は、協力者の同級生3人と一緒に壇上に上がり、メッセージを読んでくれました。障害者就労継続支援事業所あすなろホームの皆さんによる手話コーラス(世界に一つだけの花)は、地元の公認キャラクター「たかたのゆめちゃん」と一緒に歌い上げました。
シンポジウムのクライマックスは、市内障がい者の代表が、誰もが住みやすいまちづくりに向けて、以下の3点について提言し、ワルストロム国連事務総長特別代表に手渡しました。
1.防災に関わるあらゆる政策、計画、取り組みに、障がい者を明確に位置付けること
2.防災の計画や取り組みに、障害者とその関係者が参加すること
3.防災に関わる計画の作成や取り組みを、障害者権利条約に基づいて行い、差別や格差を生まないインクルーシブなものにすること
この素晴らしいシンポジウムを通して、戸羽太市長が就任して以来主張してきた、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」づくりに向けて、ステップを歩み始めました。
今後の挑戦―陸前高田市の取り組み―
こうした動きを受けて、 陸前高田市を「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」にすべく、日本国内だけではなく世界のモデル都市としての位置を確立したいと願い、これからの都市設計の過程には、このコンセプトを反映することはもちろん、それを推進するためには、具体的な流れを作る必要があります。
今回、陸前高田市を訪問していただいたワルストロム氏に、戸羽市長は公式の場において、2015年3月に仙台市で開催予定の第3回国連防災世界会議の関連部会として、「高齢者・障がい者の防災」をテーマに陸前高田市での国際会議の開催を要請しています。
また先日、陸前高田市を訪問していただいた駐日米国大使キャロライン・ケネディ氏は、懇談の席上、自ら陸前高田市が「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」づくりを目指していることに言及し、ケネディ家として、また、米国としてもこの陸前高田市の将来に対して協力をしたいと申し出てくださいました。
このように、国連や米国など国外からも大きなご支援をいただいております。今後、そのようなご厚意をどのように国内の勢力に反映していけるかが大きな挑戦となります。
現在は、市中心地域のかさ上げ工事や高台移転の工事が行われており、まちの姿のイメージがつかめていない状況です。こうした中で、陸前高田市民や各種団体の代表で組織している「まちづくり市民会議」においても、市の将来像の中に「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」づくりが大きく取り上げられております。日本で初めてとなるゼロからのまちづくりの中に、バリアフリーのコンパクトシティーを構築し、誰もが住みやすいまちが現実のものになりますよう、政府からの資金的、人材的な全面協力を期待したいと思います。
(むらかみきよし 陸前高田ふるさと大使、希望郷いわて文化大使)