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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年1月号

列島縦断ネットワーキング【千葉】

NPO法人NECST ユースキャリアセンターフラッグの発達障害者の就労支援

柴田泰臣

はじめに

ユースキャリアセンターフラッグは千葉県市川市にある、障害者総合支援法に基づく就労移行支援事業所で、35歳以下の発達障害者の就労をサポートしています。平成24年10月にオープンしました。

なぜ発達障害に特化しているのか

私たちはフラッグより以前から、主に統合失調症やうつ、神経症といった精神障害の方の就労支援をしてきました。そこに発達障害の方も少なからずいて、サポートを経て一般就労されました。一方で、一部の方からはこんな声も聞かれました。

・精神障害の勉強も参考にはなるが、発達障害の勉強や発達障害者の体験談をもっと知りたい。

・雑談が飛び交う場は辛い。もっと静かで刺激の少ない場所がいい。

・統合失調症やうつの人たちのコミュニケーションと発達障害の私のそれは違うように思える。もっとコミュニケーションの練習をしたい。

こうした声にどうすれば応えられるかと考え、私たちが出した答えは「発達障害者のためのフラッグ」の開設でした。

オープンから約1年。発達障害に特化してよかったと私たちが実感していることを3点挙げます。

1.利用者の安心感:同じような経験を重ね、苦労をしている人たちが集まるので、安心。比べられることも、批判されることもないピアの力があります。

2.ニーズにマッチした支援:社会では「少数派の特別な課題」として後回しにされやすい事象も、フラッグでは「多くの利用者に共通のニーズ」として具体的にサポートします。その積み重ねの結果が、支援力の向上につながります。

3.発達障害のための情報集約:「発達障害者のためのフラッグ」と公言することで、発達障害にマッチした情報が集まりやすくなりました。具体的には「各種講演やセミナー」「発達障害者のための支援事業者、団体」「発達障害者を採用したいという求人情報」などです。

これらのよい影響のおかげで、就労移行のミッションである一般就労の成果も出ています。最初の1年で13人が就労(一般企業12人、特例子会社1人)を果たしました。

なぜ若者のサポートなのか

現在は、ほんの数十年前と比較しても、あらゆる産業分野において機械技術やIT技術の導入、発展に伴う効率化、スピード化が進んでいます。その結果「黙してコツコツ」という仕事は(機械やコンピューターがやってくれるので)減り、「柔軟さ」「臨機応変」そして「高いコミュニケーション能力」があまねく求められています。これが発達障害の方にとっては不利です。たとえ高度な知識や技術を持っていても、柔軟性の乏しさやコミュニケーション面でつまずいて就職に至らない、あるいは就職してもさまざまな失敗体験から傷つき、挫折して離職するケースが多いように思われます。

仕事のスキルは、本物の仕事の中でこそ身につくものなのに、このように発達障害の若者が仕事の機会から遠のきがちになる状況は問題です。フラッグでは利用対象を「35歳以下」とすることで、仕事経験がない、あるいは少ない若者が集まります。そのため「今さらこんな基本的なことは恥ずかしくて聞けない」という雰囲気がありません。基本的なことこそが重要です。安心できる場でそれらを学び、遠慮なく質問し、不足した経験を補って自信をつけています。

また、若者同士が「互いに似たような経験を持つ、安心できる仲間」として自主的に余暇活動を始める様子が見られました。私たちは「彼らのコミュニケーションスキルを高めるもの、また自分と人をより好きになれるきっかけ」と捉えてこれを歓迎しています。

フラッグの特徴―サポートの内容と工夫

フラッグでは、3つのサービスで就労をサポートしています。

(1)個別面談

スタッフと一緒に、フラッグ内の落ち着ける個室や、必要に応じてフラッグの外で個別に面談します。仕事に関する相談はもちろん、人間関係や健康面、金銭面などの生活相談にも応じます。就職活動においては職業の検討、ハローワークへの同行、履歴書等の作成、面接練習、面接本番の同行、企業等の事業所との連絡調整などが主な内容になります。

(2)プログラム

日替わりのプログラムを実施しています。半分はパソコンや簿記などの「スキル獲得」のためのプログラム、残り半分はキャリアデザイン、認知行動療法講座、社会生活技能訓練(SST)などの「自己理解とストレス対処」のためのプログラムです。また、月に1回、東京都成人(大人)発達障害当事者会イイトコサガシさんの協力を得て、コミュニケーションのための「イイトコサガシワークショップ」を実施しています。こちらも好評です。

(3)仕事体験

「仕事の経験がないので、就職前に体験したい」「だいぶ仕事から離れているので勘を取り戻したい」という方のために「有料老人ホームでの洗濯業務」と「パチンコ店の開店前の清掃業務」および「パソコン中心の事務的業務」があります。これらは工賃が支払われます。また、工賃は支払われませんが、就職活動の一環として内定前の企業で実際の仕事を体験してみる「実習」を行う場合もあります。

フラッグのサポートの工夫を一言で表現するなら「臨機応変」という言葉が浮かびます。一口に発達障害と言っても、個性も障害特性も、またこれまでの経験も一人ひとり違います。したがって、画一的な支援では不十分で、その人がその時必要としているサポートを「臨機応変」に提供しています。

たとえば、フラッグでは「週5日通所すること」「6か月安定して通所したら就職活動を開始」といった基準を設けていません。利用の仕方も就職活動のタイミングも個々の希望と状況に沿って、本人と一緒に決めています。「就職先は必ず障害者雇用で」という決まりもありません。事情でプログラムに参加せず「一人でパソコンの勉強をしたい」という方がいれば、できるだけスペースを確保して環境を調整しています。すべてのニーズには応えられなくても、できる限り知恵を絞って工夫します。

このようなサポートの根幹には、利用者のストレングス(強み、長所)を重視して、可能性を信じるスタッフの姿勢が存在します。個々のストレングスが、仕事を通じて社会で発揮されるサポートをするのが私たちの役割です。

就職後の継続的サポート

就職はゴールではなく、その後に続く職業生活のスタートです。フラッグが力を入れているのは、安心して仕事を続けるための継続的なサポートです。定期的にフラッグで本人と面談し、職場を訪問するだけでは足りません。電話もメールも活用して必要なその時に迅速に、困り事が生じている場に駆けつけます。それは職場だったり、その方のお住まいだったり、医療機関かもしれません。具体的なサポートの例を挙げます。

◇職場に相談すべき内容か否かを整理。相談したくても適切な表現が見つからない時は一緒に言葉を考えたり、相談場面に同席したりします。

◇自身の疲労や体調を正しくチェックできていない時は、さまざまな行動を観察して客観的なアドバイスをし、必要であれば休息を促します。

◇主治医に不調をうまく相談できない時は、困り事を整理して主治医あての手紙を書いたり、通院に同行したりします。

他にもサポートの例は枚挙にいとまがないですが、フラッグではこのようにして利用者とスタッフが二人三脚で、日々就職と仕事の継続に向けて奔走しています。

(しばたやすおみ NPO法人NECSTユースキャリアセンターフラッグ)