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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

発達障害者の就労支援

野口勝則

公共職業安定所(以下、「ハローワーク」)における発達障害者の求職登録、就職件数は年々増加しており、筆者の所属する(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、「機構」)の地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)でも発達障害者の利用が増加している。本稿では、そうした状況を踏まえ、発達障害者の支援に携わる方に、主として一般就労を念頭に、発達障害者の就労支援制度の概要等について報告する。

1 発達障害者の就労支援制度

(1)障害者の雇用促進施策等

発達障害について述べる前に、国の障害者雇用促進施策を概括する。まず、事業主に対する法定雇用率制度および納付金制度がある。法定雇用率制度は民間企業および公的機関にその被雇用者のうちの一定割合の障害者を雇用する義務を課すもので、民間企業に対する割合(法定雇用率)は、平成25年4月1日現在で2.0%と設定されている。この法定雇用率未達成の企業には不足数に応じた納付金を国に納める義務がある。また、この納付金を財源にして、事業主の行う障害者を雇用するための施設の設置、介助者の配置等に対する助成金支給制度等もある。

障害者に対する支援としては、職業リハビリテーション(以下、「職リハ」)サービスが行われている。具体的には、ハローワーク、地域センター、障害者就業・生活支援センター(以下、「支援センター」)による支援が行われている。

ハローワークでは、障害者専門窓口(専門援助部門)が設置され、求職登録制度およびケースワーク方式による職業相談・職業紹介、トライアル雇用、関係機関とのチーム支援等が実施されている。また、企業への雇用率達成指導等も行われている。

地域センターでは、専門的な職リハサービス(職業評価、職業準備支援、ジョブコーチ等)が実施され、支援センターでは、就業・生活両面にわたる相談・支援が実施されている。

それ以外にも、職業能力開発(職業訓練)、就労支援に関する人材育成、職リハに関する調査研究、技法開発等が実施されている。

国の雇用促進施策以外にも、地方自治体独自の取組、企業やNPO等の取組もある。また、教育、福祉、保健・医療機関等においても就労に関係する支援等を行なっている。

(2)発達障害者の就労支援制度の概要

発達障害者についても、ハローワーク、地域センター、支援センターは利用可能である。ただし、雇用率制度については、障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)所持者が対象となっており、発達障害の診断を受けているだけでは対象にはならない。一方で、機構の障害者職業総合センター(以下、「総合センター」)の調査によると、ハローワークの紹介で就職した発達障害者のうち、76%は手帳所持者であった(精神障害者保健福祉手帳59%、療育手帳17%。詳細は(注1))。手帳要件に該当する場合には取得し、雇用率制度を利用することも発達障害者の就労支援では考慮する必要がある。

発達障害者向けの雇用促進施策としては、1.若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム(ハローワークの一般相談窓口において、発達障害等によりコミュニケーションに課題を抱えている者を対象とした支援)、2.発達障害者の就労支援者育成事業、3.発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金、4.発達障害者に対する体系的支援プログラムがある。実施機関(窓口)は、1は労働局、2は労働局および民間団体、3はハローワーク、4は地域センターである(詳細は厚生労働省HP参照。なお、4については後述)。

その他には、発達障害者相談支援センターにおける就労相談・支援、地域若者サポートステーション(以下、「サポステ」)における支援等もある。サポステでは、働くことに悩みを抱えた若者に対する専門的な相談、コミュニケーション訓練、協力企業での就労体験などにより、就労に向けた支援を行うが、発達障害の診断を受けた者、発達障害が疑われる者の利用が少なからずあるとのことである。筆者が勤務した地域センターでもサポステと協力した発達障害者への支援事例があった。サポステの中には、発達障害者への支援を積極的に取り組むところもあり(注2)、発達障害者への就労支援を考える際の社会資源として考慮すべきと思われる。

2 就労支援のポイントと具体的支援

(1)障害特性に応じた支援のポイント

発達障害者の特性は多様であり、また、同じ障害名であっても課題や支援方法は個人によって異なり、一括りにはできない。本稿で紙数の制限もあり、詳しく触れることはできないが、「社会性の問題」「コミュニケーションの問題」「こだわりの問題」等、ある程度共通する課題がある。それらが就労場面でどのような形で現れ、どのような配慮、支援が考えられるかのひとつの例として総合センターの作成資料から示す(表参照)。

表 発達障害の特徴と留意すべきポイント

発達障害の特性はとても多様ですので、その人にあった配慮が必要になります。(中略)どのような配慮が必要かを検討する際の特徴的なポイントをあげておきます。あてはまるポイントを組み合わせると配慮事項を考えやすくなります。

1.相手の立場にたって人の行動を理解することが苦手であるという特徴がある場合

…言われたことはその通りに実行できる/実行しようとする…

○職場の役割や職場のルールについては、具体的に説明する・文章化する

○前後の流れから当然わかっているだろうと思うことでも、まずは確認をする

○杓子定規な言い方や行動がある場合については、無理に直すのではなく個性と受けとめて担当する仕事を選ぶ

2.情報をまとめて状況に応じた判断をすることが苦手であるという特徴がある場合

…「経験」にてらして実行することが多く、「判断」でつまずく…

○経験のないことについて不安が大きい場合、指示や確認について時間をかける

○判断が必要な場合の報告・連絡・相談の仕方を示す

○優先順位をつけることが必要である場合には、具体的に作業手順を指示する

3.作業遂行のために、指示等に工夫が必要であるという特徴がある場合

…工程が明確でないと(説明に省略があると)、習熟に時間がかかる…

○指示や目標は明確かつ丁寧に、そして具体的に伝える

○課題の開始や終了を明確に示す曖昧な表現を避け、文章で示すなど、視覚的手がかりを活用して指示を伝える

その他に、感覚が過敏なことで、配慮が必要になる場合があります。苦手な音や光があると集中できないことがおこる場合です。音では大きさや高低、種類など、光では強さや点滅、種類など、苦手なことは人によって異なりますので、状況と対処法に確認が必要です。

なお、発達障害の特性に加えて、統合失調症や気分障害の特性を併せ持っている場合があります。精神疾患やメンタルヘルス不全の背景に発達障害があるという場合です。この場合には、上記のポイントに加えて、統合失調症の人や気分障害の人に対する配慮と同様の健康管理面やストレスへの配慮が必要になります。

出典:障害者職業総合センター「精神障害者雇用管理ガイドブック」より(一部省略)

近年、発達障害者への就労支援に関する図書・資料等が多く出されている。機構でも総合センターの研究成果等をはじめとする各種の資料を提供している。また、総合センターには、職リハに関する資料を収集・提供する図書情報閲覧室も設置されているので、機構HPをご覧いただきたい。

(2)地域センター等での取り組み

地域センターでは、対象者や職場に対するアセスメントに基づき、個別の支援を行なっている。たとえば、障害特性に応じた個別支援を企業において提供する場合には、ジョブコーチ支援が有効である。また、平成25年度からは、全国の地域センターで発達障害者を対象とした対人技能や作業マニュアル作成技能、問題解決技能、ストレス対処法等の講座を受講し、社会生活技能や作業遂行力の向上を目指した発達障害者に対する体系的支援プログラムを実施している(図参照)。

図 発達障害者に対する体系的支援プログラム
図 発達障害者に対する体系的支援プログラム拡大図・テキスト

3 就労支援の課題

障害特性に着目した支援について述べた。しかし、発達障害者の職業的な課題(困難さ)は多角的に捉える必要がある。障害者、企業、就労支援機関等の支援者に焦点をあて、筆者なりに整理してみたい。

(1)障害者

障害特性、「障害」についての自己理解、職業の準備性、職業的スキル等に関する課題が考えられるが、障害特性は既述しており、それ以外について概括する。

自己理解については、発達障害者の場合には通常教育の場で教育を受け、高等教育機関まで進む者も少なくない。そのため、自己の「障害」を認識することなく過ごし、就職活動の不調、あるいは就職後の不適応に直面し、障害に向き合い、障害を関係機関での相談や自分自身の模索のなかで障害を自覚する。そして、職リハサービスの利用を選択する方がいる。一方で、家族も含め本人サイドがなかなか障害を受け止めきれず、職リハサービスの利用に至らない方もいる。就労支援に限らず、発達障害者の場合には、自己理解が支援のあり方を考える大きなポイントになると思われる。

職業の準備性は就労意欲や職業発達といった職場適応等の基盤となるものであり、職業的なスキル等は技能・資格・経験等の職務遂行上必要なものだが、そうした職業的な「強み」をどう作るかも重要と考える。

(2)企業

企業側の発達障害に関する理解と障害特性に応じた雇用管理面等での課題が挙げられる。発達障害という新しい障害、見えにくい障害への企業の理解は、身体障害等に比べるとまだ進んでいない。そして、障害に応じた採用配置、教育・訓練等の雇用管理や対人面での配慮等も同様である。

次に、企業の経営環境の変化等により、労働者に求められるものが変化してもいる。より即戦力やコミュニケーション力が求められ、発達障害者のなかには対応が難しい方が少なくない。一方で、障害者雇用に積極的に取り組む企業の増加等、プラスの変化も生じている。就労支援には企業の状況への理解・考慮が必要である。

(3)支援者

発達障害者に対する支援制度が整えられてきたとはいえ、身体障害等に比べると、制度や支援方法等はまだ整備・開発等の途上にある。また、支援者の数等も十分とは言い難く、国や機構等で研修・セミナー等を実施しているが、就労支援の人材育成も大きな課題である。

最後に、発達障害者の支援にはさまざまな機関が関わっている。障害者支援を行う機関もあればそうでない機関もある。就労支援を行う機関もあれば保健福祉の支援を行う機関もある。それぞれの考え方や支援方法等での違いがあるが、発達障害者のニーズに応えるにはそれぞれの専門性を活かした協力・連携が必要であり、そのための支援ネットワークの形成も必要と思われる。この点もまだまだ発展途上であり、取り組むべき課題である。

4 最後に

機構の宣伝のような内容になってしまったが、就労支援機関を利用する発達障害者(その疑いのある方を含む)はさまざまな困難、悩みを抱えている。地域センター等の障害者のためのサービスの利用をためらう方も少なくはない。そうした悩みに付き合いながら、本人が現実的な認識、決定ができるための支援を行うことが支援者にとって必要と思われる。小川は、「必要とされる伴走的支援」という言葉で、「発達障害のある人が自分に合った就労支援機関を探すプロセスを支える存在」の必要性を強調している(注3)。その指摘を最後に紹介し、本稿の終わりとする。

(のぐちかつのり 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構千葉障害者職業センター所長)


【注釈】

(注1)総合センター調査研究報告書No.99「高次脳機能障害・発達障害のある者の職業生活における支援の必要性に応じた障害認定のあり方に関する基礎的研究」

(注2)有吉晶子「地域若者サポートステーションが果たす発達障害者の就労支援での役割」発達障害研究、第33巻第3号、2011年

(注3)小川浩「発達障害の職業的課題と就労支援」第107回日本精神神経学会学術総会シンポジウム