音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

フォーラム2014

2013年UNISDR実施「障害と共に生きる人々と災害」に関する調査報告

松岡由季

1 はじめに

防災・減災を世界共通の文化として広めることを目的として、国連は10月13日を国際防災の日と定めている。毎年テーマを決め、多くの国々やパートナー機関とともにそのテーマに沿った活動を行なっている。

2013年の国際防災の日のテーマは「障害と共に生きる人々と災害」であった。2011年3月11日に発生した東日本大震災において、障害者の死亡率は住民全体の死亡率の約2倍であったとの報告があるとおり、災害時における障害者の脆弱性は高く、より大きなリスクにさらされている。しかしながら、災害リスク軽減やレジリエンス(災害への抵抗力および災害からの回復力)構築のための計画策定や意志決定プロセスにおいて、このような人々の参画は概して十分とは言えない。

国連国際防災戦略事務局(UNISDR)は、障害そして災害と共に生きる世界中の人々のニーズを知るため、「障害と共に生きる人々と災害」と題した世界規模でのアンケート調査1)を実施した。22の設問から構成されるこのアンケート調査は、障害をもつ当事者および介助者・支援者を対象として、2013年7月29日に多くのパートナーの協力のもとウェブサイト上に公開された。この調査は、災害における障害者のニーズに基づく議論を活性化させるとともに、障害者および介助者・支援者の災害リスク軽減に関する意見、関心事項、ニーズ、提言を表明する機会を提供することを目的に実施された。

この調査は、国連6公用語(英語、アラビア語、ロシア語、中国語、スペイン語、フランス語)に加え、イタリア語、インドネシア語、日本語などにも翻訳され実施された。日本語での調査は東日本大震災の経験を汲み取るという重要な役割を持ち、災害における障害者の脆弱性を明らかにし、教訓を共有することにも資すると考えられる。この調査は当初、結果を国連国際防災の日に合わせて公開するために9月25日までの実施予定であったが、世界中から多くの関心が寄せられたため、実施期間が2013年11月末まで延長された。

本調査から得られた結果、そして2013年国連国際防災の日に関連して集められた情報は、2015年に期限を迎える兵庫行動枠組2)のさらなる実施推進、また2015年以降の国際的な防災枠組策定に向けたコンサルテーションに反映するためにも活用される。

中間集計を行なった2013年9月25日時点で、「障害と共に生きる人々と災害」アンケート調査は、126か国の約5,450人から回答を得た。この回答者のうち、最も多く見られたのは、アジア圏の障害者とその介護者・支援者であり、そのうち約1,800人の回答がバングラデシュから、約750人がベトナム、そして約200人がタイからの回答であった。全回答のうち日本からの回答は、ほぼ2%であった。2013年12月4日時点での日本からの全回答者数は115人であった。UNISDR駐日事務所では、この調査に対する日本からの回答分析を中間報告書として発表した3)。この報告書の中では世界中からの回答との比較分析も示すことで、日本における傾向や特有の課題も明らかにすることを試みた。

2 調査への回答者の傾向

全回答結果4)から、回答者の抱える障害の種類としては、聴覚障害(39%)もしくは視覚障害(54%)のいずれか、また歩行や階段の上り下りなどの困難(68%)、コミュニケーション上の困難(45%)などが多くみられた。障害の種類に関する項目への日本の回答結果(12月4日時点)は、聴覚障害26.9%、視覚障害14.9%、歩行や階段の上り下りの困難33.3%、コミュニケーション上の困難21%となっており、世界全体の回答と比較し、それぞれ低いことから、日本の回答者は障害をもつ当事者のみならず、介助者・支援者からの回答も多いことがわかる。

日本の回答者のうち、男性の割合が61.9%、女性の割合は38.1%であった。日本の回答者においては男性の割合が高い。全体結果においては女性回答者が52%、男性回答者が48%であり、日本の結果とは逆となった。日本の回答者に最も多く見られた年齢層は、50歳から59歳の50歳代で26%、次いで40歳から49歳が23%、60歳から69歳が19%、30歳から39歳が17%となった(12月4日時点)。

3 日本からの回答結果における主な考察と明らかになった課題

日本からの回答結果(12月4日時点)における分析から、特筆すべき項目がいくつか明らかとなった。それぞれの抱える困難や障害はさまざまであるため、それぞれのニーズも異なることが指摘された。さらに、聴覚障害や視覚障害などのいくつかの障害は目に見えないこともあり、見落とされる場合もしばしばである。したがって、防災に障害の観点を包摂するためには、あらゆる障害を考慮する必要性があるということが、多くの回答において強調されていた。

災害時に必要な支援を確実に行うためには、コミュニティ内において事前に支援体制を確立しておくことが重要であり、これには、コミュニティ内や近隣における結びつきや意識向上、また、日常的なコミュニケーションが必要である。

障害者を包摂する防災対策の促進のためには、障害者やその介助者をコミュニティの重要な一員とし、計画プロセスや議論への参加の機会を促すことが重要である。さらに本調査を通じ、障害をもつ人々はこれらのプロセスに対し強い参加意志があることも明らかになった。日本からの回答結果のうち69.3%、全回答結果のうち50%が参加したいと回答した。日本の調査結果において、防災に関する計画策定や意志決定プロセスへ実際に参加していると回答した人の割合は19.5%であり、全回答者のうち参加していると答えた割合(14%)を上回るが、同時に、参加方法などに関する情報の不足が課題であるとの回答が多く見られた。

避難所運営に関する課題としては、多くの回答者が障害者にとっての利便性が考慮されていないことなどを指摘しており、避難に関する計画が障害者への配慮や障害者の包摂が十分になされた上で実施されているとは言い難い結果となった。

個人的な災害への備えに関し、「何らかの備えを行なっている」と答えた割合は、日本の回答結果の方が全世界の回答よりも高い割合を示した。日本からの回答結果における割合は47%、全回答における割合は29%であった。これは、日本において個人レベルでの防災意識が高いことを示す。しかし同時に、回答者が実施している対策の多くが、防災訓練への参加や非常用グッズの常備など緊急対応のための備えに集中していた。

回答のうちのいくつかは、レジリエンスの構築のための個人投資を通した(耐震化やソーラー発電の設置など)、より具体的な対策例を挙げた。防災訓練や備蓄品といった緊急対応を越え、障害者と彼らの住むコミュニティが協働して行うリスク軽減や、レジリエンス構築の促進や具体的な活動がより必要と考えられる。

設問19は、新しい防災枠組に期待する重要事項について質問している。この回答により、検討すべきいくつかの重要な課題が浮き彫りになり、特に知識と情報に関する課題が強調された。

障害者にとって、災害に関する情報の入手を確保することが重要である。視覚および聴覚によるコミュニケーション方法など、それぞれの障害に対応したコミュニケーション方法の活用は、情報不足や情報アクセスに関する課題改善のために必要不可欠であることが明らかになった。障害に配慮した業務実施のための訓練、特に政府職員や医療従事者、消防隊員や救助隊員に対する訓練は、災害における障害者のニーズに関する知識格差の解消のために必要であることが示された。

障害者や彼らの家族および介助者・支援者の災害に関する課題への意識や知識にも大きな格差があることが調査により明らかにされた。障害者のニーズへの対応力向上のために、ハザードマップ・リスクマップの作成や、障害者の住む地域を地図などに示すなどといった技術的な知識が必要であることが強調された。

災害時の避難行動に関する支援者についての設問では、周囲に支援者がいないと答えた割合は日本の結果において23.6%と、全回答の結果の13%と比較し非常に高い割合となり、日本の回答結果で最も特筆すべき懸念事項と考えられる。災害時の避難行動は、避難に掛けられる時間、避難支援の有無、安全な避難経路と避難方法など、多くの要素への考慮が重要となる。これらの要素の改善が障害者避難の成功へつながると考えられる。さらに、避難場所への障害者のアクセスのしやすさも重要であることが示された。

個人レベルでの防災意識が高いという前述の結果とともに、日本の回答者の大多数が少なくとも一つの障害者に関連した何らかの組織に所属していた。これらの組織は、障害者を包摂した防災における取り組みの基盤になり得ることから重要であり、これらの組織とコミュニティや自治体との協働に潜在的な可能性があると考えられる。

4 日本での国際防災の日イベント

2013年国連国際防災の日の記念イベントが、10月29日に岩手県陸前高田市にて開催された。このイベントは、UNISDRのヘッドである国連事務総長特別代表(防災担当)マルガレータ・ワルストロム氏の訪日中に行われ、日本障害フォーラム、日本財団、そして陸前高田市の協力のもとUNISDR駐日事務所が主催した。障害をもつ当事者を含め200人が集い、東日本大震災被災地の経験から学ぶ障害インクルーシブな防災とまちづくりについてのディスカッションなどを行なった。

このイベントは戸羽太陸前高田市長と日本財団の笹川陽平会長による開会挨拶から始まり、障害者団体による手話コーラスの後、視覚障害者でもある日本障害フォーラムの藤井克徳幹事会議長が議長となり、パネルディスカッションが行われた。参加パネリストたちはそれぞれの経験を語るとともに、改めて、障害者を包摂した防災の必要性に対する認識を共有した。

さらに、参加者たちが自ら作成した「被災地からの提言―誰もが住みやすいまちづくりに向けて」がワルストロム特別代表へと手渡された。ワルストロム特別代表は「障害をもつ人々をコミュニティの重要な一員として包摂し、インクルーシブな防災の促進のため、計画や意見交換において彼らの参加機会を提供することは必要不可欠である」と述べた。これは、ワルストロム特別代表が世界に向けて発信しているメッセージでもある。

5 2015年第3回国連防災世界会議に向けて

昨年、第68回国連総会において、第3回国連防災世界会議の開催地を仙台市とし、会議日程を2015年3月14日から18日までとするなどの詳細が決定した。同会議は、兵庫行動枠組実施の10年間を総括的に評価し、2015年以降の国際的な防災枠組を採択することを目的としている。

国際社会は、将来の災害に備えるため、またより災害に強い社会を構築するために、日本からの経験や教訓を学ぶべきである。そのような観点から、UNISDRとしても日本政府ならびに多くの関係機関と引き続き協力し、「インクルーシブ」な防災・減災を目指している。防災と障害者に関する観点がより国際社会に認識されるよう、2015年に向けたプロセスに日本の関係者の積極的な参加を期待したい。

(まつおかゆき UNISDR駐日事務所代表)


【注釈】

1)http://www.unisdr.org/2013/iddr/

2)2005年1月開催の第2回国連防災世界会議で採択された成果文書「兵庫行動枠組2005―2015:災害に強い国・コミュニティの構築」(http://www.unisdr.org/we/inform/publications/1037

3)http://www.unisdr.org/files/35445_japaniddrsurveyreport.pdf

4)プレスリリース 2013年10月10日―UNISDR 2013/29(www.unisdr.org