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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

列島縦断ネットワーキング【岡山】

地域活動支援センタースピカ
―発達障害のある人の青年期支援

和泉元子・中島洋子

設立経緯

2011年1月15日、スピカは誕生しました。運営母体は発達障害専門の医療法人「まな星クリニック」です。クリニックの責任者は、30年以上前から、岡山県・岡山市における発達障害支援の仕組みを立ち上げ、早期介入・早期療育に始まる、医療・福祉・教育・家族・地域の連携支援を実践してきました。現在は、発達障害という用語が法的にも認知され、早期療育、教育への移行支援、特別支援教育がかなり充実してきました。しかし、未診断で経過したケースや診断されていても支援が不十分だったケースでは、かなりの人が青年期になると、二次障害として、不適応やひきこもりに陥っている現実があります。地域の発達障害支援を考える時、早期からの発達支援を充実させるとともに、二次障害支援を行うことは、二つの大きな課題です。そのような理由から、青年期支援の一部門として、地域活動支援センタースピカ、次いで就労支援部門の立ち上げが計画されました。

最初にスタートした地域活動支援センターでは、まずはひきこもり支援が中心となるため、臨床心理士が配置されました。不適応やひきこもりに陥っている場合は、医療にかかっている人やそうでない人も、何かしら生活の中で生きづらさを感じている人々です。特に発達障害の方は、能力や認知にばらつきやかたよりが大きいため、得意、不得意の差が大きく、対人関係やコミュニケーション活動の中で、「大多数の人と自分はなにかが違う」と感じることが多いようです。不登校になったり、仕事が続かなかったり、社会の枠にすんなりとおさまることが難しく、挫折感や自尊感情の傷つきを味わった若者たちです。ちなみに、日本のひきこもりの少なくとも3分の1には、発達障害があるとされています。

スピカで出会う若者たちも、そういった経験を持っていますが、一方で、とてもユニークです。個別的にはそれぞれ才能に恵まれていたり、慣れた場面、慣れた人との間では、明るく、周りの空気を察した動きもできる人たちなのです。

スピカで提供する支援の特徴

スピカでは、月の初めに「スピ会議」を月に一度行なっています。これは運営会議です。スタッフからの要望や提案、お知らせはもちろんありますが、会議の一番の目的は、利用者がスピカで何をしたいのか、したくないのかなどを主体的に考え、行えるようにするためです。そのため、提案は多岐にわたります。「複合施設に遊びに行きたい!」「買い物に行きたい」「温泉に行きたい」「仕事がほしい」「動物と遊びたい」「勉強がしたい」などなど…。もちろんすべてが叶うわけではありません。スタッフはそれを実現するのに必要なことなどを利用者と話し合いながら、彼らも協力して、みんなの要望を実現する努力をします。これは、彼らの安心した居場所となり、メンバーが他のメンバーを認める機会になります。われわれ職員は支援者と呼ばれますが、それはあくまで、彼ら自身が自分の人生のよりよい選択をする手助けにあります。

年に1回、一泊研修も行なっています。彼らの多くは、修学旅行などの集団活動にあまり良い経験を持っていないため、参加自体を避ける傾向があります。家族以外の人と食事をし、自宅以外で一泊するということは、不安も大きいことです。しかし、それを乗り越えて時間を共にできたという経験は、メンバー同士の関係を深め、世界を広げていくことになります。

特に、発達障害者にかかわらず、人との関係によって傷ついた場合、自信を失い、人との関係を築くことが怖くなります。スピカではまず、人との関係を安心して作れるようになること、そして、人の中で自信を持って行動できるようにすることにあります。もちろん、主にこれから社会に向けて旅立つ若者が中心のため、就労に向けての体験訓練や、就労に関する知識を学ぶ就労準備支援講座もあります。

思春期・青年期課題の一つである自己理解を進めるために、発達障害のことや服薬管理のことなども勉強します。これは、障害があることがすべてではなく、自分の中の一部であることを認識し、仲間と分かち合うためです。また、さまざまな情報が簡単に手に入る時代のため、きちんとした情報を提供する場でもあります。当面、就労ではなく、進学を目指すという方には、進学に向けた勉強の場を提供しています。大切なことは、自主性・自発性の回復であるため、スピカから強制することはありません。

地域との交流、スピカフェのオープン

スピカのもう一つの特徴は、ボランティアさんが多く関わってくださっていることです。外国人、主婦、専門職、職人の方等々、年齢職業を問わず、さまざまな人がスピカの活動を支えてくださっています。これらの、職員以外の善意ある人々に関わることは、メンバーが社会へ向けて出ていく上で、さまざまな観点からアドバイスを受けられたり、社会で生きていくよいモデルを見ることにもなります。

昨年末には、次のステップである就労の場の確保を考え、「Spicafe スピカフェ」をオープンしました。現在、就労前準備訓練として、外部の清掃やベッドメイクなどの仕事も請け負っていますが、地域と直接関われる就労の練習の場を経験することは、職域を広げることになり、本格的な就労支援への移行につながります。カフェオープンに向けては、メンバーが通りの通行量調査をし、カフェコンセプトの話し合い、メニュー案を考え、棚やカウンターなども手作りしました。カフェでは、メンバーがお皿を洗ったり、接客したりもできますが、スピカで制作した草木染めやアクセサリー、粘土細工なども販売しており、メンバ―が執筆している機関紙も置いてあり、彼らの創作活動の発表の場にもなっています。

本年より、スピカフェを使って、地域との交流を目的とした、スピカ交流会を行なっています。他の施設の若者支援に携わっている方、地域の方、どなたでも、カフェでワンドリンク注文していただければ、参加できます。第1回目はメイクの先生によるメイクアップ講座、第2回目は歌手の方によるアコースティックギターのライブを行いました。メンバーも外部の方との交流は緊張することもありましたが、楽しく過ごせたと思います。

次なる支援、就労と自立に向けて

彼らと関わってきて教えられたことは、人は人によって傷つき、人によって救われるのだということです。学生時代、いじめられた経験がある人が多くおられます。発達障害の中核症状によるハンディだけではなく、辛い経験による二次障害としての行動障害や、精神疾患なども彼らの社会生活の大きな妨げになっていることも事実です。人や社会に対しての恐怖感や、大きな劣等感にさいなまれ、一歩を踏み出すことができないでいます。医療や家族は、もちろん一番大きな支援の一つですが、専門家や家族ではなく、地域の人や同じような経験を持った人など、第三者の評価によって自信を取り戻すことが、彼らの一歩を後押しすることになります。それには、やはり、自分の役割を社会で担うことです。

現在、スピカでは、スピカフェでの業務のほかに、外部からの印刷業務や宿泊施設の清掃、創作活動の作品の販売などからメンバーの工賃を支払っています。しかし、彼らのニーズに合った仕事の経験を積むため、また、彼らの収入を上げるためには、より安定的な就労継続支援が必要です。彼らの自立につながるような次なる事業の展開を考えているところです。

(いずみもとこ/スピカ管理責任者、なかじまようこ/まな星クリニック院長)