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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

2020年東京大会を展望する

山脇康

2012年8月に開催されたロンドンパラリンピックは、270万枚を超える大会観戦チケットを売り上げた。この数字は、パラリンピックは、オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ、世界第3位の観客数を誇る一大イベントに成長したことを意味している。

各会場は連日満員の観客の大歓声に包まれ、最高の環境を得た史上最多164か国を代表するアスリートたちは最高のパフォーマンスでこれに応えた。251の世界記録が誕生した大会の模様は、イギリス国内では延べ150時間以上のライブ中継を含め民間放送により放映され、イギリスの人口の約69%に相当する、4000万人近くが視聴した。閉会式を前に行われた調査では、81%のイギリスの成人が「ロンドン大会は、障がいのある人に対する世間の見方によい影響がある」と答えた。

今年3月に開催されたソチ2014パラリンピック競技大会は、世界55か国でテレビ放映され約21億人が視聴した。開催国ロシアでは、バリアフリーに対応したインフラ作りのための法律が作られるとともに、ソチ大会のために新設されたすべての施設がアクセシブルな形で整備され、31万人以上の観客のソチでの活動を支えた。これを青写真に、ロシア国内の200の都市がすでに、アクセシビリティ向上の取り組みを始めている。

2000年シドニーパラリンピック大会の期間中に、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)は、オリンピックとパラリンピックの開催に関して協力する合意に達した。これ以降、オリンピックの開催国はパラリンピックも開催することが制度化されるとともに、大会の開催・運営準備や計画において、オリンピックの基準や手法がパラリンピックにも用いられることとなった。その結果、パラリンピックはその大会の規模、大会運営手法、参加選手の競技パフォーマンスにおいてわずか10数年の間に大きな飛躍を遂げ、先に挙げた直近の夏・冬両大会のように、開催都市、開催国および世界にスポーツ以外の面でも多大な社会的影響をもたらす一大イベントとなった。

2013年9月7日、アルゼンチン・ブエノスアイレスでの第125次IOC総会において、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催都市として東京が選定された。東京大会では、7月24日から8月9日まで16日間で開かれるオリンピックに続き、パラリンピックは8月25日から9月6日までの13日間に、22競技527種目を実施する計画となっている(表)。

表 競技日程  競技日       決勝 金メダル数 

競技/種目 8.25
(火)
8.26
(水)
8.27
(木)
8.28
(金)
8.29
(土)
8.30
(日)
8.31
(月)
9.1
(火)
9.2
(水)
9.3
(木)
9.4
(金)
9.5
(土)
9.6
(日)
金メダル数計
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
開会式/閉会式                           0
アーチェリー                 4 3 2     9
陸上競技       9 18 21 17 17 24 20 17 23 4 170
ボッチャ       3       4           7
カヌー                     6 6   12
自転車競技(ロード・レース)                 18 4 6 4   32
自転車競技(トラック・レース)     5 5 5 3               18
馬術       2 3 2 4             11
脳性麻痺者7人制サッカー                       1   1
視覚障害者5人制サッカー                         1 1
ゴールボール                   2       2
柔道       4 4 5               13
パワーリフティング       2 3 3 3 3 3 3       20
ボート         4                 4
セーリング                 3         3
射撃   2 2 2 1 1 1 1 2         12
水泳   15 15 15 14 14 15 15 15 15 15     148
卓球         11 10     4 4       29
トライアスロン         6 6               12
シッティングバレーボール                   1 1     2
車椅子バスケットボール                   1 1     2
車いすフェンシング                 4 4 2 1 1 12
ウィルチェアーラグビー                       1   1
車いすテニス                 1   2 3   6
金メダル数計 0 17 22 42 69 65 40 40 78 57 52 39 6 527

前回1964年以来50年ぶりとなる二度目のオリンピック・パラリンピック開催、とりわけパラリンピックに関しては、同一都市で2回目が開催される世界初のケースであり、国際パラリンピック委員会(IPC)をはじめとする障がい者スポーツ関係者から大きな注目と期待を集めている。

6年後の祭典は、スポーツイベントであることはもちろん、競技会場や選手村等の施設、それらを結ぶ交通などのインフラ、安全対策、教育、文化等あらゆる要素がからんだ一大プロジェクトであり、政・官・産・学・民が英知を結集した「オールジャパン」体制なくして成し遂げられない。不安定・不確実・不透明な時代といわれる現代において、6年後に必ずやってくるオリンピック・パラリンピックという、多くの人にとって夢があり、わくわくさせる「目標」を得た。

パラリンピックには特に、人々の「気持ち」と社会を変える力がある。苦難を乗り越え、残された機能の最大限のパフォーマンスで競い合うパラアスリートたちの発想は「いま何ができるのか」にある。常に挑戦し前向きに生きる彼らの姿は周囲を勇気づけ、社会を動かす力をも持つ。このスピリット(精神)は、東日本大震災から立ち上がろうとしている被災地とも相通じるだろう。

2020年の日本は、3人に1人が65歳以上になると想定され、皆が何らかの形で助け合う「共生社会」に進んでいかなければならない。その来るべき共生社会への第一歩として、東京パラリンピック大会を位置づけたい。日本人の持つ助け合いの精神を、もう一度見つめ直し、大会に訪れる海外の選手や観客等を迎える7万人を超えるボランティアや大会関係者を通じて世界に発信していきたい。大会に向けたこの6年間をかけて助け合いの精神をしっかりと根付かせていくことが、東京大会のレガシー(遺産)となる。

(やまわきやすし 一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長)