「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号
見直しに向けた提案
障害者総合支援法見直しに向けて
藤堂栄子
見直しに向けた提案
日本発達障害ネットワークでは会員団体にアンケートを取り、下記のような提言をする。
見た目では分かりにくい発達障害はいろいろな制度の狭間(はざま)で埋もれがちである。これまで福祉の対象となってきていない、通常学級に通っていたり、通常の企業で就労したりしている発達障害の人たちへも、少なくとも「合理的な配慮」が行き届くような方向での見直しをお願いしたい。また、一人ひとりのニーズに応えるべく制度設計をお願いしたい。
検討課題の提言は、項目別には、以下のとおりである。
(1)常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方
・移動支援事業や同行援護事業を通勤・通学(通級)にも適用してほしい。
・発達障害の仲間で出かける時にも対応してほしい(利用者と支援者が複数対1)。
・発達障害者の生活援助を利用しやすくしてほしい。常時必要なわけではなくても、調子が悪くなった時に柔軟に対応できる生活支援が望ましい。
・発達障害児に対する福祉サービスの提供事業所を需要に応えられるように増やす。
・増やすだけではなく、発達障害の特性に応えられる職員の質の確保が望まれる。
・就労時の支援も障害者枠での就労だけではなく、通常の就職であっても使えるサービスを構築してほしい。
・治るわけではないが、適応をして学ぶことができる発達障害の人のために「できるようになるため」の指導や訓練の用意が望まれる。
(2)障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方
・障害の特性は多様なので、きめ細かい認定調査を実施してほしい。
・障害の多様な特性、その他の心身の状態に応じた認定がされるようにシステム構築。また、本人の体調だけではなく、職場の上司が変わる、仕事の内容が変わる、新しい機材を取り扱うことになるなど、環境の変化などによって支援の必要度は変化するので、それに対応できるような柔軟な制度が望まれる。
・認定調査員の質の確保:見た目で分かりにくい、本当に感じていることと口から出てくる言葉の不一致などもありうるので、発達障害の認定調査委員は質の高い研修と経験を有する人材が必要である。
・発達障害ゆえに就労が困難であることの調査項目を設定してほしい。
・手帳を取得していない(できない)大多数の発達障害の人も「合理的な配慮」が活用できるような判定基準を設けてほしい。
・たとえば、読みや聞き取りが困難な学習障害(LD)のためのICレコーダーなどのアシスティブテクノロジーの使用を進めてほしい。
(3)障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方
・障害福祉サービスを利用する際にアシストできる人材の確保。
・発達障害の特性に応じた意思決定の支援の在り方を十分に検討する。
・サービス内容の提示の方法を検討する。
・意思表示の仕方を選択できるよう職員、窓口などで対応をする人材の研修が望まれる。
(4)手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方
・視覚的な支援、タブレットによる意思疎通など本人たちの意向を汲んで発達障害の特性に応じた支援を検討してほしい。
・読み書きに困難がある場合や思い込み、聞き間違えなどの状況理解や意思表示に錯誤がないか確認するような支援が望まれる。
・支援機器の支給。
(5)精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方
・地域移行の人材育成において、職種横断的な研修を必修化してほしい。
・精神障害者の雇用を促進するシステム作りが望まれる。
・発達障害は精神障害者の中に含まれることになるが、特に、雇用の場面で障害者手帳を持たずに就労している人たち(つまり障害者雇用率2%の枠に入らない人たち)へもジョブコーチや、各種「合理的な配慮」が行き渡るようなシステム作りが望まれる。
・高齢化した障害者が不利益を被らないシステムの構築。
以上簡単であるが、所属団体の意見をまとめた。アンケートへの回答の中に多く見られるのは、外観からは理解してもらえない困難さを理解してもらえる方法についての要望であった。ぜひ、この観点をすべての点で含んだ見直しに向けた検討を進めていただくようお願いしたい。
(とうどうえいこ 一般社団法人日本発達障害ネットワーク副理事長)