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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

難病等の対象疾患は大幅に広げて

はむろおとや

制度の谷間のない支援を提供する観点から、「障害者総合支援法」は、障害者の定義に難病等を追加し、障害福祉サービス等の対象としている。それまでも、一部市町村では補助事業として、難病等に対するホームヘルプサービスなどが提供されていた。全国的に展開されたのは2013年4月1日からである。総合支援法で追加された難病等の内容は、「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者」だ。この追加の意味は大きい。

これまでは、少なくない難病等の患者は、症状が固定・永続しないことを理由に、身体障害者手帳を取得できなかった。難病等は、症状の変化が起きやすい。進行性の症状を有するものもある。一日のうちに変動するものもある。大きな周期で変わるものもある。合併症や薬剤による副作用、二次障害が起こりやすく、生活の質が損なわれやすい特徴もある。

それが「難病等」に該当すると、身体障害者手帳の有無にかかわらず、障害支援区分の認定などの手続きを経た上で、障害福祉サービス等を利用できるようになった。病名が手帳代わりになって、患者が支援策の入口に立てるようになった、ともいえよう。

旧制度は市町村への補助事業だった。利用できるサービスは、ホームヘルプサービス、短期入所および日常生活用具給付の三つであった。今後は、全市町村に広がる。それとともに、内容も、総合支援法に定める障害福祉サービス等に広がりを見せる「はず」である。「はず」と書いたのは、利用者が少なく、他の障害者と比べて、福祉・介護・年金など、いずれの課題も未開拓に近いからだ。総合的な難病対策の実現が必要である。

「難病等」は、他の障害者からみて、周回遅れのランナーのようなものであろう。医療費補助の対象である「指定難病」を参考にしながら、総合支援法の対象要件等を検討しているのである。

当初は、患者数の多い団体などから、福祉の対象が広がらない懸念が表明されていた。総合支援法の施行令別表には、対象となる「難病等」として、関節リウマチを含め130疾病が並ぶ。関節リウマチは患者数が多いが、難病法には希少性要件が書き込まれたため、対象疾患が狭められることを警戒したのである。痛みや疲れを伴う病気のなかには、常時寝たきりになるなど、在宅療養を支える必要性が高いにもかかわらず、対象とならないものがある。

たとえば、線維筋痛症のステージ5は、激しい全身の痛みとともに、膀胱や直腸の障害、口の渇き、目の乾燥、尿路感染など全身に症状がでて、通常の日常生活は不可能だとされる。患者数が多いからといって、「難病等」から除外していいはずがない。

来年1月から施行される対象は、総合支援法対象疾病検討会(第2回、10月6日)で議論された。第1回(8月27日)では、参考人として、難病のこども支援全国ネットワークの小林信秋会長が「(20歳を超すと支援されなくなる)トランジション問題解決への方策の一つとして、小児慢性特定疾病となる705疾病をすべて総合支援法の対象疾病にすべきだ」と主張していた。対象は、社保審障害者部会で審議予定だが、来年1月時点では、大幅な対象拡大は見送りになりそうである。

同じく第1回では、JPA伊藤たてお代表理事が「対象疾病については、難病法における『指定難病対象疾病』にとどまらず「難病」の定義に含まれるすべての疾病を対象とすべきではないか」「検討要件として『希少性』は問わないこととすべきではないか」と意見を述べた。

第2回検討会では、医療費助成の対象となる指定難病と「難病等」は、支援の観点等を考慮して検討する必要が強調された。調査研究の推進という要素は必ずしも含まれないため、難病の要件である「発病の機構が明らかでない」「患者数が人口の0.1%程度に達しない」は、要件に含めないことになった。

指定難病における「重症度分類」は適用しない扱いになった。特定の疾病名に該当すれば、「障害支援区分」の認定は二重になり、重症度分類の意味をなくすからであろう。すなわち、病名さえリストに入っていれば、軽症の方であっても、手帳非所持でも福祉サービスを申請できることが鮮明になった。すなわち、病名が身障者手帳の代わりをなすのである。

「指定難病」と「難病等」が連動せず、希少性要件もなく、必要性に応じて、対象の病名が選ばれるのは、公平性から大きな意義がある。ただ、対象リストに多くの疾患が選ばれてこそ意味をなすシステムであって、選ばれない病気の当事者からみれば、病名による選別は「排除の壁」であろう。来年1月以後、医療費助成のある「指定難病」は、約300疾患まで増える方向で議論される。福祉に関しても「難病等」対象疾患の大幅拡大は、避けられない課題として注目される。

2014年3月現在で、難病患者等の障害福祉サービス利用状況は月に延べ822人、実数776人である。他の障害に比べると、身体障害者19.9万人、知的障害者33.5万人、精神障害者14.4万人、難病等対象者0.08万人であるから、桁違いに少ない。手帳を取得するほうが、交通費補助などさまざまなサービスを受けられるから、使い勝手はいい。

まだ、患者にとって福祉は縁遠い存在だ。そんな事情が垣間見える。居宅介護の利用者は全国で481人。闘病しながら一般就労を支える就労継続支援A型117人、福祉的就労支援のB型71人、就労移行支援46人と続く。いずれも全国の実数だ。まずは患者自身が福祉を権利としてとらえ、使ってみる。課題が浮き彫りになるのは時間がかかるかもしれない。

(JPA理事 下垂体患者の会理事)