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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

障害者総合支援法3年後見直しに係る提言

大堀尚美

1.国連障害者権利条約の批准を受けて

障害者権利条約を批准した日本においては、法の理念を権利条約の理念に置くべきである。「他の者との平等を基礎として」の権利条約の中心理念については、総合支援法の中にも明記すべきである。

2.法の下の平等

難病患者等にも制度の谷間を無くし、支援を受けられるようにしてほしい。

3.自立・社会参加のための地域生活支援

いまだ就労できない精神障がい者の日中活動の場として地域活動支援センターがある。地域により設置箇所、設置数に偏りがあり、運営母体の職員数・予算等の地域格差が非常に大きい。当法人も地域活動支援センターを運営しているが、日中活動の場として通所されている方にとって、生活の場、リズムを整える場となっている。創作・学び・交流の場であり精神障がい者の社会参加、リカバリーのためにも地域活動支援センターの設置を増やしてほしい。地域活動支援センターを総合支援法に位置づけ、運営の安定化、地域格差の解消のために当事者の必要(ニーズ)を予算化してほしい。

4.介護保険法優先原則(いわゆる第7条問題)の削除

障がいの重い方にとって、重度訪問介護サービスは生きていく上でまさに欠くことのできないものである。岡山市在住の65歳の方が、65歳になると同時に重度訪問介護サービスのない介護保険制度に切り替えられ、生存権を脅かされていることについて違憲訴訟を起こした。

先般、きょうされんが全国の障がい者の方々にアンケート調査を行い、訪問支援分野などのサービスが65歳で打ち切られているケースや、65歳から応益負担が生じて不利益を受けている実態が明らかにされた。厚労省が「一律に65歳打ち切りを求めているのではなく、支給決定権を持つ市町村の裁量である」としているが、65歳になった時点で障がいの状況は変化する訳ではなく、サービスのプランも当然一貫、継続したものであるはずである。

総合支援法3年後の見直し検討規定に「常時介護を要する障害者等に対する支援」が取り上げられており、対象が知的・精神障がい者にも拡大するなら、65歳時点で重度訪問介護に相当するサービスのない介護保険法に移行せざるをえないといった状況は廃止するべきである。障害者総合支援法第7条の削除を強く望む。

5.差別・偏見の解消

平成26年4月施行分として、グループホーム・ケアホームの一元化がなされた。実態はよりサービス量の低いグループホームを基準にしているため、肝心の世話人が日中に、法人内の別の通所施設の手伝いに行かざるをえない例もあると聞く。実質的母体である医療法人のグループホームに入居している精神障がい当事者に対し「17時門限厳守」の法人系デイケアに通所が義務付けられる等、「管理」される当事者の苦しさを聞いている。

また、グループホーム入居者には家賃補助があり、一般の賃貸(アパート等)入居者にはないことは不公平である。一般の賃貸アパートに入居する時には初期費用や保証人の問題があり、「公的保証人制度」が成立しないと入居のかなわない方も数多くいる。障がい者というだけで入居を断られる場合があると聞く。就労の際、障がい者というだけで、履歴書も見てもらえないという話も聞く。官民に対し広く、障がい特性の理解推進と差別・偏見の解消のため、国が普及啓発を推進することを強く望む。所得・住居に関わる問題につき、実態を把握し総合的な施策が講じられるよう強く望む。

国が容認した精神科病棟転換型居住系施設は、地域移行・退院ではない。真の地域移行を進めてほしい。

6.精神科入院障がい者の地域移行・地域定着とピアサポーターの制度化

国・都道府県・市町村、それぞれの障害者に係る福祉計画などに「ピアサポーター当事者支援員」の重要性が取り上げられているが、ピアサポーターが制度として確立されていない。また、本人の個人的な負担(精神的、経済的)に頼ることが多く、本人の負担感が大きく、ピアサポーターになりたいと思っている人があきらめている状況と聞く。地域移行・地域定着のためには、ピアサポーターの人件費や、質の高いピアサポーター養成のための研修、ピアサポーター自身を支える体制(支援者)は必須である。

私たちは障害者年金、生活保護等を基礎として生活しているので、ピアサポーターに対して気持ちだけでは困難であり、経済的な支援も必要である。地域で暮らす当事者を家族だけで支えるのではなく、アウトリーチ(訪問型支援)により入院・入所だけが解決策とならないためにも、医療保健福祉の多職種チームで、当事者・家族を支える仕組みを医療・福祉の連携で行うように進めてほしい。ピアサポーターは共感をもとに、精神科病院訪問、相談支援、外出行動援護等に取り組むことができる。ピアサポーターに対する組織的・制度的な支援を強く求める。

7.当事者参画

今回の総合支援法見直しに際し、議論の場にはぜひとも障がい当事者を参加させていただきたい。障害者権利条約の条文策定作業に数多くの当事者が加わり、日本でも『骨格提言』を作り出す議論は過半数が当事者(とその家族)によって行われた。一方「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」には、委員25人中当事者が3人(家族を含む)しかおらず、当事者の声は反映されなかった。障害者総合支援法見直しには、多数の当事者の参画を強く求める。

(おおほりなおみ NPO法人ポプラの会事務局長)