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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

セルプ協の提言から

叶義文

1 はじめに

セルプ協では、一人ひとりの人権を尊重し、利用者主体のサービス提供を理念として、活動を進めている。ここ数年は、この間の制度改革に対応すべく特別委員会等を立ち上げ議論を重ね、「『働く・くらす』を支える就労支援施策」についての提言をとりまとめてきた。ここでは、平成25年3月にまとめられた提言を中心に紹介したい。

2 就労支援をめぐるさまざまな課題

障害者の就労支援をめぐる主な課題を整理すると、以下があげられる。

1.就労継続支援B型の工賃水準が自立した生活を営むにはほど遠い水準にある。工賃の引き上げとともに年金・手当等の充実による所得の保障が必要。2.就労継続支援事業が就労の場でありながら訓練等給付に位置づけられ、働く障害者が訓練の対象とされている。3.労災保険等の適用がなく、安全で健康的な作業条件が保障されていない。4.働く場でありながら利用者負担が発生している。5.就労移行支援事業においては、就職者が増えれば利用者は減り、経営的に厳しくなる。また、定着支援の仕組みが不十分である。6.一般就労、福祉的就労など、多様な働き方の中から本人が希望し、かつ適切な就労支援を選択・決定できるアセスメントの仕組みが不十分である。7.安定、安心した「くらし」を送れる基盤整備等が不十分である。等々

3 就労支援施策改革の目指す方向

(1)基本的な方向

「一般就労の促進と働くことを希望しながらも一般就労が困難な人々や一般就労を希望しない人々が、継続的に働くことができる場(福祉的就労の場)を充実させていくこと」である。

一般就労だけに重きを置くことで、就労継続支援事業で働く20万人を超す障害者が働く場を失うことがないよう、多様な就業の機会を認め、労働施策では十分に保障されない生活面を含めた支援も含めて、税財源により継続的、安定的に行われる福祉的就労の充実が図られることが必要である。

(2)雇用実態の把握と雇用の質の向上

法定雇用率は平成25年4月から2.0%へと引き上げられたものの、いまだ先進諸国の法定雇用率と比較した場合にその水準は低いばかりか、その雇用率すら達成していない。ここ数年、就職者数は増え、解雇障害者数は過去最少と報告されているものの、助成金の支給終了と退職の関係や解雇でない退職者の実態等、明らかにされていないのが実情である。

また、ここ数年増えてきている就労継続支援A型においても、短時間労働問題や最低賃金減額特例の実態等、雇用の質が問われているところであり、指導監査の徹底も含めた検討が求められている。雇用(退職等も含む)の実態を把握することにより、雇用の質の向上を図ることが必要である。

(3)就労継続支援B型の充実と改善

全国平均工賃が約14,000円といまだ低水準にある。少なくとも工賃水準を最低賃金の3分の1以上に引き上げ、年金と工賃とその他手当等を合わせて自立した生活が送れるよう、充実・改善してくことが求められる。そのためには、昨年施行された「優先調達推進法」の充実に向け、各都道府県の「共同受注窓口」の設置・充実、さらには仕事の確保策として「みなし雇用制度」の導入や税制優遇等、民間企業等から「適正な条件による安定した」仕事が入る仕組み作りが求められる。

また、就労継続支援B型については「訓練の場」ではなく、「働く場」として位置づけ、働き方についてはいわゆる「労働者性」の問題に矛盾しない現実的な制度の運用についての検討が必要である。さらに、労災保険、休業保障、失業保障に該当するような仕組みの創設や任意保険に加入するための費用の助成等についても求められる。

(4)支給決定のあり方

就労支援事業所等の利用にあたっての支給決定の際、本人や家族、相談支援事業者のほか、多様な就労支援関係者が合議体となって、本人のニーズと支援の必要度に基づいたアセスメントや支給決定がなされる仕組みへの見直しが必要である。就労移行支援を利用しないと就労継続支援B型を利用できないことや、生活介護事業等の利用にあたっての障害支援区分による利用制限等は廃止すべきである。

(5)所得保障

現在の所得では自立した生活を営むにはほど遠い水準にあり、工賃の引き上げとともに年金(無年金障害者対策も含む)・手当等の充実が求められる。現在、グループホーム利用の際に1万円上限の家賃助成はあるものの、せめて生活保護制度の住宅扶助の水準までの引き上げ、福祉ホームや一般住宅で生活する障害者にも対象を拡大することを求めている。

(6)福祉・労働施策の緊密な連携と協働

就労支援施策をより強固にしていくために、福祉施策と労働施策を柔軟に利用できる支援体制の構築、両施策の緊密な連携と協働が求められる。

(7)その他

働く場での利用料問題、基準該当就労継続支援B型の充実、暮らしの場の充実等についても求めている。

4 おわりに

優先調達推進法、工賃向上計画、一般就労に向けた支援策など、さまざまな施策が検討されているなか、事業者自らが工賃向上や一般就労移行の実績を高めるため、変革・向上していく意識を強く持つことが必要である。合わせて、今回の見直しが就労施策改革の大きな一歩となることを願う。障害があっても、働くことを希望する人がいきいきと働くことができ、自立した生活が保障されること。その実現に向けて共に取り組みたいと願っている。

(かのうよしふみ 全国社会就労センター協議会制度・政策・予算対策委員長)