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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

見直しに向けた提案

辻川圭乃

1 はじめに

「私たち抜きに私たちのことを決めないで!“Nothing about us, without us !”」をスローガンとして2006年12月13日、「障害者の権利に関する条約」(「権利条約」)が国連において採択された。同条約は、障がいのある人を「保護の客体」ではなく「権利の主体」と位置づけて、障がいのある人の権利を保障するものであった。係る権利条約を日本において批准するためには、障がいのある人の実感と実情に基づく当事者自身の声を最大限尊重して国内法整備が図られる必要があった。

そこで、「障がい者制度改革推進本部」や障がいのある人を半数以上の構成員とする「障がい者制度改革推進会議」が設置され、当事者を多数構成員とした55人からなる「総合福祉部会」において、障害者自立支援法に代わる新たな総合的な法制について精力的な議論がなされた結果、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」がまとめられた。ところが、新法につきかかる骨格提言の内容が十分に反映されない状況となってきた。

2 第54回人権擁護大会決議

そこで、2011年10月7日、日本弁護士連合会は、第54回人権擁護大会において、「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意見を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」を採択した。同決議は、障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意見を最大限尊重し、日弁連の提言に沿った、障がいのある人の権利を保障する新たな総合福祉法の制定を強く国に対して求め、自らも積極的な役割を果たしていくことを決意するものであった。

同決議の中で、国に対して求めた事項は次のとおりである。

1 障害者自立支援法の2013年8月までの確実な廃止

2 同法廃止後に向け、次の(1)から(6)までの事項を満たす、障がいのある人の権利を保障する総合福祉法(新法)の制定・施行

(1)障がいのある人の「完全参加と平等」の理念の下、障がいのある当事者が多数構成員となっている推進会議及び総合福祉部会が、新しい法律の骨格について提言している意見を、最大限尊重すること。

(2)権利条約、憲法に基づく障がいのある人の基本的人権を具体的に保障する規定を明確に設けること。

(3)発達障がい・難病等が法の対象となるよう障がいの範囲を広げることなど制度の谷間を作らないこと。

(4)障がいのある人の地域での自立生活を実現可能とするための支援を量的にも質的にも保障すること。

(5)応益負担を撤廃し、障がいゆえの特別な負担を障がいのある当事者に強いないこと。

(6)「支援のない状態」を「自立」と理解する現行の介護保険制度と障がいのある人の権利保障制度とを統合せず、現行の「介護保険優先原則」を廃止すること。

さらに、2012年2月15日には「障害者自立支援法の確実な廃止を求める会長声明」を公表した。

3 「障害者総合支援法」成立に際しての会長声明

しかし、障害者総合支援法の内容は、障害者自立支援法の一部改正に留(とど)まり、障がいのある人の基本的人権を具体的に保障する規定が設けられていなかった。また障がいの範囲についても、権利条約が求めている「障がいが個人の属性のみではなく社会的障壁によって生じる」とする社会モデルの考え方が採用されず、そのために新たな制度の谷間を生む内容となっているものであった。また、自己決定権に基づき個々のニーズに即して福祉サービスを利用できる制度にもなっていなかった。係る総合支援法は、日弁連が従来提言してきた内容とは相容れないものであった。

そこで、2012年6月20日、「障害者総合支援法」成立に際して、改めて障がいのある当事者の権利を保障する総合的な福祉法の実現を求める会長声明が出された。

4 第57回人権擁護大会決議

2014年1月20日、日本は、権利条約の批准書を寄託し、同年2月19日、同条約は日本について効力を生ずることになった。そこで、日弁連は、2014年10月3日、第57回人権擁護大会において「障害者権利条約の完全実施を求める宣言」を満場一致で採択した。その中で、国に対して、権利条約の完全実施に向けて、さまざまな施策を行うことを強く求めているが、そのうち、障がいのある人の尊厳が尊重される生活を確保するための施策として、総合支援法を障がいのある人が個別事情に即した支援が受けられるものに改正すべきであることを求めている。権利条約19条が保障する障がいのある人の地域生活を実現するために、個々の支援の必要性に即した十分な支援を受ける権利が保障される法制度に改めるべきであるからである。

5 まとめ

附則に定められた、施行後3年を目途としての見直しに際しては、当事者参画のもとで総合福祉部会が取りまとめた骨格提言の内容が実現されるべきであり、障がいのある人の基本的人権を真に保障する福祉法制の実現に向けた検討が行なわれるべきである。

よって、3年後見直しの際には、附則に例示された項目に限定されることなく、第54回人権擁護大会決議にあるように、骨格提言を最大限尊重し、骨格提言に基づく内容が実現され、何人も障がいの有無により分け隔てられることなく地域で暮らせる権利が保障されるような見直しがなされることを強く求める。

(つじかわたまの 弁護士)