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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

大学生とつくる地域福祉
~NPO法人み・らいずの取り組み~

阪口杏実

NPO法人み・らいずができるまで

今から18年前、み・らいず代表理事の河内崇典が学生だった時、重度の障がいのある男性と出会いました。河内が友人に誘われて気軽な気持ちで引き受けたアルバイトが、その男性の入浴介助でした。身近に障がいのある方もおらず最初は戸惑いましたが、その男性やご家族が自分の訪問を楽しみにしていることや、介助の経験がほとんどない自分でも人の役に立てることに喜びを感じるようになりました。

一方で、外出や入浴など、障がいのある方が普段の生活に多くの困難を抱えていることを目の当たりにし、河内は、何も知らずに生きてきた自分に腹立ちを覚えました。困っている人がたくさんいるのに何もしないままでいいのか。自分たちにできることがあるのでは、と介助を通じて知り合った他の学生たちとボランティアサークルをつくり、外出などの余暇支援を中心に、たくさんの学生を巻き込みながら活動を展開していきました。

卒業後の進路を考え始めた頃、ある壁にぶつかりました。卒業とともに活動を終えてしまうことはできない。この活動がなくなったら、利用者さんたちの生活はどうなってしまうのか? それならば、会社を立ち上げてこの活動を仕事にすれば良いと考え、2001年に特定非営利活動法人み・らいずを設立し、河内が代表理事に就きました。サークル時代の仲間4人でのスタートでした。

み・らいずの活動の広がり

み・らいずとしての活動は、障がいのある方へのガイドヘルパー派遣、障がいのあるお子さん方への家庭教師派遣、地域でのイベント企画事業からスタートしました。その後、高齢者事業や子どもたちの放課後等デイサービスなど、目の前にいる人たちのニーズの変化に合わせて必要な事業を展開してきました。

たとえば、発達障がい児の学習支援「ラーンメイト」は、ある小学生の女の子の声から生まれた事業です。彼女は生まれつき歩くことができず、足に装具をつけていました。はじめ相談を受けた時、親御さんも私たちも自宅への家庭教師派遣を想定していました。しかし、彼女の「私も他の子みたいに習い事や塾に通ってみたい。けど足に装具がついているからみんなみたいに習い事できない」という声を聞き、事務所の2階で個別対応の塾を始めました。

今では、発達障がいのお子さんやコミュニケーションが苦手なお子さん、さまざまな理由で学校に行くことができないお子さんなどが通ってきています。勉強のほか、協調性やコミュニケーション能力の向上を目指して集団での宿泊体験や野外活動などのイベントも行なっています。

み・らいずで大切にしているのは、目の前にいる人を何とかしたいという思いです。この14年間、利用者さんや関わる方たちから「何歳になっても好きなことをしたい」「自分の居場所ってどこだろう」「障がいがあっても働きたい!」など、たくさんの声が出てきました。何とかするために福祉の制度を使ったり、制度がなければ自分たちで独自の活動を作ったり、社会や地域全体を変えるような活動を行なったりしながら、ニーズに応えるために事業の数や内容を広げています。

現在、み・らいずで行なっている活動は、障がいのある方や高齢の方への生活・余暇の支援や相談支援、障がいのある方の就労支援、発達障がいのある子どもさんへの学習支援、不登校の小中学生の居場所支援、高校生の中退予防、ニートやひきこもりの状態にある若者への相談・居場所・就労支援、0歳~2歳児の保育など多岐にわたります。

その他、災害復興支援の活動も行なっています。東日本大震災が発生した直後から約3年間、宮城県石巻市を拠点に置き、主に子どもたちへの支援活動を行いました。現在は、被災地から大阪へ避難されている方への支援を行なっており、先日の広島県大規模土砂災害の際には、現地での支援活動を約1か月間行いました。

み・らいずと大学生

また、大学生を地域福祉の支援の現場につなげる事業も行なっています。設立当初から、み・らいずの活動を支えているのはたくさんの大学生です。必要な資格を取得し(資格取得講座もみ・らいずで開講しています)、ヘルパーやラーンメイトの講師などとして活躍しています。

元気のある大学生たちが必要とされる場面が、み・らいずの活動には多く存在しています。支援の内容について一緒に考えたり、発達障がいのある子どもたちの学習の教材をチームで考えて作成したり、キャンプやイベント等の企画を一緒に考える等の活動を通して、大学生が利用者さんの生活全体を知り、さまざまなことを感じ、そして考えます。スタッフと夜な夜な支援について熱く語りあうこともしばしばです。

大学生に深く関わってもらう理由は、誰もが安心して暮らせる社会を創る一員となってほしい、と考えているからです。大学時代に障がいのある方や高齢の方、生きづらさを感じている子どもたちや若者が置かれている状況や実際の思いを知ったことで、他人事としてではなく、自分事として物事をとらえ行動できる社会人となった卒業生がたくさんいます。

スタッフの成長

4人だったスタッフも現在70人。それぞれのスタッフの成長が今後の課題と考えています。スタッフが地域の方々や学生と一緒になって、目の前にあるニーズに熱意をもって向き合っていける人材に成長することが今後のみ・らいずには必要です。与えられた課題ではなく、自分自身が出会った人たちとの関わりの中で実感した課題に対して、やらされるのではなく、自分から解決のために行動を起こしていく、その思いに共感した大学生等の仲間が増えていき動いていく、そんなメンバーが集まったチームを目指し、1年目の新入社員から15年目のスタッフまで、一丸となって成長していきます。

み・らいずが目指していること

み・らいずは「み・らいずに関わるすべての人を幸せに」という理念を掲げています。すべての人が幸せにとはどういうことか、そもそも幸せとは何なのか。み・らいずは、幸せとは「支援を必要としていてもしていなくても、誰もが当たり前に地域で暮らすことができる社会」と考えています。社会にどんな生きづらさがあっても、地域を巻き込みながら、目の前の人の生活をお手伝いさせていただくという姿勢は法人を設立した頃から変わっていません。

「誰もが当たり前に地域で暮らすことができる社会」。当然のことに思えるかもしれませんが、それが今の社会では少し難しい。利用者さんはもちろん、み・らいずに関わる学生や地域の方々、そしてスタッフやその家族にとっても「幸せ」とは何か、その行動は常に「最善」なのか?と、スタッフ一人ひとりが自分自身に問いかけ続けながら、み・らいずは活動しています。

今後の展開

今後も、かゆいところに手が届くようなさまざまなニーズに対応していけるチームでありたいと思っています。その一方、現在の利用者さんに対しての支援の整理も必要となっています。その支援は「最善」なのかどうか、再度しっかりと振り返る時期だとも考えています。

また、み・らいずだけの成長を目指すのではなく、日本の各地で同じように活動している団体とネットワークを作り、「福祉」という言葉の持つイメージを変えていこうという活動にも取り組んでいます。それらすべての活動を通して、この社会を現在、生きづらさを感じている方々にとって暮らしやすいものに変えていき、福祉がもっと身近になるような活動を今後も続けていきます。

(さかぐちあずみ NPO法人み・らいず)