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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

分野別課題

交通バリアの除去に期待
―視覚障害者の移動・歩行の安全性を保障するために―

大橋由昌

1 差別事例集発行の狙い

2014年(平成26年)1月20日に、わが国は国連「障害者権利条約」を批准し、政府はこれに先立ち、批准に向けた国内法の整備を行い、障害者基本法の改正、障害者差別解消法の成立など、制度改革を実行してきました。これまで私たち視覚障害者は、日常生活上のさまざまな不便さや、法制度上の不備などに加えて、偏見による心無い人の言動に傷つけられたり、悔しい思いをしたりしてきたのです。盲導犬を傷つけた事件や、JR川越駅前での全盲女子高生の傷害事件などは、まだ記憶に新しいところでしょう。差別解消法の成立により、私たちの間ではひたすら忍耐を強いられてきただけに、社会のさまざまな障壁が取り除かれていく、と期待感が高まっているのです。

日本盲人会連合では、視覚障害当事者の「差別と感じる事例」を集め、「文字の読み書き」と「交通バリア」を中心に小冊子をまとめることにしました。見えない・見えにくい者にとって視認できないことからくる物理的な不自由さは、墨字処理と歩行・移動の2分野に集約できるからです。また、権利条約の目的である、すべての人々と共に障害によって分け隔てられることのない、誰もが住みやすい社会の実現に向けた取り組みの一つとして、視覚障害者の生活実態を社会に伝えたかったからです。以下、事例集に掲載できなかった問題を主に、できる限り具体的に紹介してみます。

2 公共施設や公共交通バリア

◎エスカレーターは危険?それとも便利?

日頃、駅や建物内で見かけるエスカレーターを例に挙げても、さまざまな問題があります。鉄道事業者には、視覚障害者に対してエスカレーターは危険、という誤解があり、誘導用ブロックをエスカレーターの出入り口まで敷設していないのです。音声での情報提供にしても、「ベルトにおつかまりください」などの注意喚起が多く、私たちが知りたい行き先や運転方向の情報が得にくいのです。指向性のあるスピーカーであっても、アナウンス方向の調整が悪く、乗る直前にしか聞こえないなど、配慮にかける敷設が多いといえます。

音声以外の情報提供については、見やすい電光掲示や看板も少ないうえに、出入り口足元の赤いLEDの矢印が、色覚障害者の一部には見にくい、といった実態が知られていません。手すり(ベルト)に白い模様などを付けて、上り下りの見やすさに配慮したところもありますが、まだまだ少数派といえる現状です。

◎ホームドアは増えてきたけれど

国土交通省がバリアフリー整備の政策を推進してきた結果、以前に比べてずいぶん歩きやすくなってきたとはいえ、設備は施されていたとしても、不便さの解消につながらない事例をよく体験します。駅のアナウンスを例に挙げれば、車両の到着前や到着と同時に流れるため、ドアの開く音で聞き取れないことが多いのです。車内アナウンスもまた、ガード上通過時などと重なり聞き取れず、不慣れな路線の場合は「乗り過ごすのでは」と不安感でパニックに陥ることがあります。たとえ「バリアフリー整備ガイドライン」に規定されていても、実際的には役立っていない現場が多すぎるのです。事業者側には、障害当事者の検証の必要性を認識してほしいと感じます。

3 移動・歩行における政策的課題

◎トンネルを抜けたら歩きにくい国だった

視覚障害者の移動・歩行には、何よりも安全性が求められます。雪国の交通問題は、そうした観点からは俎上に上ることが少なかったように思います。晴眼者でもただでさえ歩きにくい雪道を、全盲者が杖を頼りに歩くのは大変です。低視力の弱視者にしても、銀世界では高低差や距離感が分からず、車道のわだちに沿って歩くのがやっとなのです。

同行援護事業の実施以後、地方都市において全盲の利用者がガイドの自家用車で移動するケースが増えて、安全性・利便性が増したといわれています。しかし、ガイドの運転中の時間は、同行援護の時間に算定されません。いわゆる「白タク行為」とみなされるからです。半面、福祉有償運送の指定を求められますが、実施するには、市町村が主催する運営協議会で合意がなされ、国交省の登録が必要なのです。タクシーやバス業界の意向もあって、実際には簡単には認められない、というのが現状だといえます。

◎馬車の時代に逆戻り?

最近、視覚障害者の間で問題視されているのは、去る9月1日から道路交通法の改正・施行により実施された「ラウンドアバウト(円形交差点)」です。信号のない交差点で、右回りに低速走行を行い、進みたい道路を左に曲がって抜け出る、というもの。警察庁では、信号機の設置費用や維持管理コストの縮減、そして、災害による停電時等の緊急時においても有効、と強調していますが、視覚障害者にとっては、極めて危険であると指摘せざるをえません。この方式は、ヨーロッパにおいては馬車の時代から続く方式ですが、地下道等の代替手段も講じられているようです。停電時の対応としては、たとえば蓄電設備の設置を推進すればよいのであって、ここにも経済優先の政策を読み取ることができるのです。

結局、差別解消法を実のあるものにするためには、安全で便利な交通環境の整備においても、障害当事者の「声」を反映する必要がある、といえましょう。

(おおはしよしまさ 社会福祉法人日本盲人会連合情報部長)