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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

さいたま市条例の取り組みから障害者差別解消法を見据えて

宗澤忠雄

さいたま市の現状

さいたま市は、平成23年4月、障害を理由とした差別を禁止する「さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」を施行した(平成24年4月完全施行)。この条例に基づく障害者差別解消の取り組みは、次の三つを主要な柱とする。

1.障害者差別に関わる身近な相談窓口・対応機関を各区の支援課・障害者生活支援センターに置くこと、2.差別事案の問題解決に向けた助言・あっせんを担保する仕組みとして「障害者の権利の擁護に関する委員会」(以下、「障害者権利擁護委員会」と略)を設置したこと、3.医師や弁護士などが専門的見地から相談機関に助言等を行う「さいたま市高齢・障害者権利擁護センター」を整備したこと、である。

しかし、相談窓口に寄せられる障害者差別の相談は、平成23年度5件、24年度7件、25年度2件と極めて少ない件数となっている。条例づくりの取り組み中でわずか2か月ほどの間に600を超える差別事例が市民から寄せられた事実とは、あまりにも乖離している。地域には大小さまざまな障害者差別が存在するにもかかわらず、差別解消のための対応システムにはなかなか入ってこない。ここに、差別解消のための取り組みについて改めて検討すべき課題のあることは明らかである。

障害者権利擁護委員会差別解消部会の設置

そこで、障害者権利擁護委員会に差別解消部会(障害者差別解消支援地域協議会)を設置し、市内の行政機関・当事者団体・サービス提供事業者を対象とする差別に関わる取り組みの実態調査を実施し、障害者差別の現状とその解消に向けた課題と方策について議論を重ねてきた。

まず、現在の障害者差別の特徴についてである。障害に関する基礎的な無理解や誤解に起因する差別や不当な取り扱いが数多く発生している点である。この問題は、企業によるサービス提供、公共交通機関の利用、そして障害者雇用など、広範囲な領域において確認された。

次に、障害者差別に関わる相談が相談機関に結びついていない問題である。差別を受けること自体が屈辱的で個人の尊厳を引き裂くような出来事であり、それをさらに、第三者的な立場に映る相談機関や行政機関に申し出ることによって、問題解決に向けた展望が速やかに開かれるよりも、さらなる辱めを受けるのではないかという強い不安から、相談することを躊躇(ちゅうちょ)しあきらめてしまうという運びになっているのではないか。普段は相談機関に縁遠い障害のある人であれば、なおさらである。差別を被って嫌な思いを強いられた障害のある人の多くは、家族や身近な友人にだけ差別体験を打ち明けて受け止めてもらうことによって、何とかやり過ごしているという現実がある。

さらに、知的障害や精神障害のある人などの多くは、差別や不当な取り扱いを受けたことを認識し辛い状況にあるし、合理的配慮の否定については、過剰な負担に関する判断基準の難しさにも起因して、多くの人にとって差別や不当な取り扱いだと確信することは困難である。仮に、差別を被ったことの認識はあっても、その場の状況に応じて冷静に対処することは、多くの人に共通する難しさである。

今後の課題

障害者差別解消法が施行される平成28年4月に向けて、さいたま市の差別解消のための取り組みをより適切で効果的なものとするための課題は次のとおりである。

1.相談しやすい窓口づくり

地域のあらゆる支援サービスや取り組みにおいて、障害のある人の差別体験等に対するエンパワメントをこれまで以上に重視し、地域の障害のある人と行政・支援職員との顔見知りの関係づくりを日常的に育むように努める。この土台の上に、相談機関の入口の敷居を下げ、福祉・介護問題にとどまらず、消費生活や職場での差別問題に係わる相談機関の紹介にも力を入れるなど、差別問題の解決に向けた相談機関の役割の周知を徹底していく。

2.速やかな対応と機関連携

障害者差別解消支援地域協議会は、個別の機関では対応しきれない問題に対して、適切で迅速な対応を図ることのできる連携ができるよう、連絡や召集の責任の所在を含めた体制整備をしなければならない。また、合理的配慮の否定に関わる的確な対応を進めるためには、土木・建築、ICT、医療、司法等の多様な分野の専門家からなる技術的・実務的な助言を行う支援チームの設置も必要不可欠である。

3.差別解消の好事例の収集と啓発

障害者差別の解消に資するさまざまな領域の事例はこれから蓄積され、高齢化社会の進展とともに拡大するビジネスモデルの中にも、障害のある人の差別解消につながる取り組みの増えることが予想される。これらの多彩な取り組みを地域の共有財産としていくために、好事例の収集とそれに基づく周知・啓発活動を進める。

4.事後的な権利救済システムの構築

個別の差別事案の解決に向けた取り組みが暗礁に乗り上げた場合、障害のある人の権利救済の手立てが、最終的には裁判に提訴する以外にないというのは、障害のある人にとっての負担があまりにも大きいと言わざるを得ない。そこで、障害者差別の問題解決においても、職場で発生したパワハラ等の問題解決システムとして、すでに定着している裁判外紛争解決手続き(認証ADR)の構築を強く国に望みたい。

(むねさわただお 埼玉大学教育学部准教授、さいたま市障害者の権利の擁護に関する委員会委員長)