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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

1000字提言

福祉先進国は本当?:バリアだらけの町

石田由香理

2014年9月から1年間、私はイギリス南部の町、ブライトンにあるサセックス大学の修士課程に在学しています。

イギリスと言えば、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?何だか気品があって、制度や設備が整ってる先進国、きっと日本より暮らしやすいんだろうな…、そんな理想を抱いている人は今すぐ考えを改めたほうがいいです!これから3回に渡って、私が現地で体験している「制度はあれども機能せず」の福祉状況をお伝えしていこうと思います。もちろん、私が見ているものはこの国のごく一部に過ぎないのでこれがすべてだとは言いません。首都であるロンドンに行けば状況は違うかもしれません。でもとにかく、イギリスの福祉状況に以下のような一面があるのは確かです。

日本のほうが知らない人に声をかけにくい文化のような気がしていて、イギリスに行けば白杖をついて歩いていれば気軽に声かけてくれるだろう、人に聞きながら出歩けばいい…、そんな気楽な気分でいました。でも実際に一人で通学し始めて、むしろ日本以上に誰一人として声などかけてくれない国だということに気づきました。たぶんここは、「自己責任」の国なのです。一人で出歩いてるってことは大丈夫なんだろう、他人のことは他人のこと。だからたとえば、「ここへはどうやって行けばいいですか?」とか「ヘルプが必要です」などと声をかければとても親切に面倒は見てくれるのですが、こういうふうにヘルプが必要だという意思表示がされない限りは、周囲から「手伝おうか」と声をかけることはないのです。自分から人を探してヘルプを求めることが難しい全盲にとっては、かなり不便な習慣です。

そもそも視覚障害者が単独で出歩くことが想定されていないような気がします。キャンパス内や町中の道路は、私でさえこれは難易度が高いと思ってるような道路ですし、車内放送など無いバス、音声の出ないATM、裏表の分からないカードたちなど、どう考えても視覚障害者単独での利用は不可能に思えます。

またイギリスの電車は、たとえば上りと下りの2本しか無かったとしても、ホームが5番線くらいまであったりします。そして、次は何時にどのホームにどこ行きの電車が入ってくるか、その直前に改札口付近の掲示板に表示されます。したがって、人々は改札を入ったところで立ち止まって掲示板を見ていて、次に来る電車とホームが分かった瞬間、一気に人が動き出します。

次回で紹介するように、確かに福祉の制度は整っています。しかし、イギリスの物理的なバリアのレベルはフィリピンとたいして変わらないというのが私の見解です。


【プロフィール】

いしだゆかり。1989年生まれ。1歳3か月で全盲となった後、高等部卒業まで盲学校に在学。国際基督教大学在籍時代に1年間フィリピンに留学。2014年9月より英国サセックス大学国際教育開発研究科(修士課程)在籍。