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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

わが国の障害者就労問題
―福祉的就労分野を中心として―

岩田克彦

1 はじめに

近年、障害者就労への取り組みが積極化し、障害者の雇用は増加傾向にある。2013年11月に実施された「平成25年度障害者雇用実態調査」では、前回調査(2008年度)と比較し、総計で雇用者数がかなり増加し1)、特に、知的障害者と精神障害者については、週20時間以上30時間未満の雇用者数の伸びが大きいことが分かる。毎年公表される、障害者雇用率対象民間企業(従業員50人以上規模)での雇用障害者の増加も堅調である。また、就労系障害福祉サービス施設から企業等への一般就労への移行も増加しており、2013年度(平成25年度)には年間1万人に達した。

しかし、1.雇用率未達成企業割合は半数以上を占めていること、2.中小企業での雇用が進んでいないこと、3.精神障害者の雇用に苦労していること、等一般就労での問題も多い。

このような中で、福祉的就労から一般就労への一層の移行の実現と並んで、一般就労が難しい障害者の量・質が伴う就労をいかに実現するかが大きな課題となっている。

2 障害者の就業類型と日本

障害者の就業類型は、国際的には、1.企業等での特段のサポートなしに働く、一般労働市場での就業(一般就労)、2.一般労働市場での就業を実現ないし維持するための何らかのサポート(ジョブコーチ、賃金助成等)を伴う、「支援付き雇用・就業(supported employment)」、3.一般労働市場での就業が難しい者に、保護的な環境の下、リハビリテーション・プログラムと就業ないし就業関連活動を提供する「保護就業(雇用)(sheltered work and employment)」、4.デイアクティビティ・センター(重度障害で、最低限の作業活動しかできない者に対する作業活動の提供)、に分類されることが多い。

2009年秋のリーマンショック以降、一般労働市場への統合が一段と重視されるようになり、雇用・就業上、何ができないか(ワーク・ディスアビリティ)から、何ができるか(ワーカビリティ)への政策転換が各国で起きている。そして、一般労働市場への統合を目指し、対象者・サポート内容を明確にした支援付き就労(サポーテッド・エンプロイメント)が非常に重視されている。

他方、保護雇用・就業は、「より一般的な就労(一般就労ないし支援付き就労)への移行の過渡的な就業形態とみなされるものでなくてならないが、同時に、多様な理由から一般就労ができない者に対する継続的なサポートを提供するものでなくてはならない。」とされている(国連人権理事会に対する国連人権高等弁務官事務所報告「障害者の就業・雇用に関するテーマ別研究」、2012年12月)。

日本においては、生活介護施設が「デイアクティビティ・センター」、就労継続支援A型・B型が「保護就業(雇用)」、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所、ジョブコーチ、トライアル雇用、賃金助成等のサポートを受けている間の一般企業等での就労が「支援付き雇用・就業」に相当する。就労移行支援事業所での活動も、基本的には、「支援付き雇用・就業」に入るものと考えられる。このように、日本でも、支援付き雇用・就業が近年重視されるようになっている。

但し、一般労働市場での就業には適応が難しい障害者も多い。一方で、福祉的就労での就労環境の改善はなかなか進まない。となると、「より一般的な就労(一般就労ないし支援付き就労)への移行の過渡的な就業形態であり、かつ、多様な理由から一般就労ができない者に対する継続的なサポートを提供する」、国連障害者権利条約の趣旨に沿った保護雇用・就業を育成していく必要がある。また、図1にある各就労形態間の移行を促進する必要がある。

図1 日本における障害者の就労制度間での移行(概念図)
図1 日本における障害者の就労制度間での移行(概念図)拡大図・テキスト

3 今後の政策方向と就労継続支援A型事業所への期待

国連障害者権利条約の趣旨に沿った保護雇用・就業は、1.企業等一般就労への移行促進と、2.多様な理由から一般就労ができない者に対する就労の場の提供、の二兎を追うものでなくてはならない。

ドイツの保護就業ワークショップは、1.職業教育訓練部門(2年以内)、2.就業部門(職業教育訓練修了者対象で、一般就労への移行助長が求められている)からなり、通常、3.デイケアセンターが併設されている。スウェーデンのサムハルも、レストラン等での現場就労等の常用雇用を提供するとともに、一般就労、支援付き就労への移行も重視されている。日本の場合、ドイツのワークショップ機能の1が就労移行支援事業所、2が就労継続支援A型ないしB型事業所、3が生活介護施設に相当する。

日本では、各施設類型が区分けされすぎていて、かつ小規模事業所が多いので、就職者を輩出すると即事業所運営に影響が出てしまう等の事情から、一般就労への移行促進と直接の就労の場の提供両面を実現ないし目指している事業所は非常に少ない(ドイツ、スウェーデンも、実際は、一般就労への移行促進に苦心している)。

筆者は、就労移行支援事業所、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、生活介護施設は、将来的には統合が求められると考えている。

日本の福祉的就労分野の今後を占う大きなポイントは、就労継続支援A型事業所が、国連障害者権利条約の趣旨に沿う二兎を追う事業所になれるかどうかである。A型事業所は、従来の「保護就業」の枠内だけでなく、「支援付き就労」(生活困窮者自立支援法に基づく就労訓練事業、いわゆる中間的就労を含む)の取り込み、就労継続支援B型事業所からの移行促進、中高年齢期において就労能力が低下した障害者の一般就労、特例子会社等からの受け入れ等多様な事業に積極的に取り組んでほしい。

最近、「悪しきA型事業所」が増大していると指摘されることが多い。斉藤懸三氏は、悪しきA型を、「給付金や助成金を得ることを目的に設立され、その金の一部で障害者の最低賃金を支払い、経費を切り詰めて金儲けを企む、障害者福祉サービス事業に巣くう悪質な貧困ビジネス」と定義する(「すべての人の社会 Society for All」2014年10月号)。悪しきA型の規制は必要である。しかし、「角を矯(た)めて牛を殺してはならない」。むしろ、良きA型モデル(複数モデルがあっていい)を積極的に確立することが急がれる。

4 障害者の所得保障―雇用就業で行うのか社会保障で行うのか?

就労関係施策と所得保障施策の一体的見直しが、近年多くの国で進められている。障害者の所得保障を雇用就業促進で行うのか、障害年金等の社会保障施策で行うのか、が問われている。多くの国では雇用就業での所得保障を重視する方向にあり、障害年金や賃金補填(ほてん)等については、就労能力の低下を補填するためのものと位置づけ、就労能力の適切な評価が重視されている。

法定雇用率を達成している企業を前提にすれば、障害者納付金制度の「障害者雇用報奨金」相当額(法定雇用率を超えた一人当たり月額2.1万円)を企業は賃金に充当できるので、「障害基礎年金」(2級は月額6.6万円)を合わせ、表1のような算式が、一つの目安になるのではないだろうか。

表1

障害者の獲得総収入

=障害者が労働で稼ぎ出す賃金+報奨金相当額を賃金として支給+障害基礎年金相当額

>生活保護の単身者基準(=国民としての最低所得水準)

国民としての最低所得水準の目安として、生活保護の単身者基準を考えると、一番水準の高い東京都では、14万円前後である(無職・無収入、住宅扶助込み)。5~6万円の賃金原資を障害者が自前で稼ぎ出すことができれば、最低所得水準を確保することができる。年金受給権を有しない者(無年金障害者)には、現在「特別障害給付金」(障害基礎年金2級相当に該当する者は、月額約4万円、1級相当に該当する者は月額約5万円)が支給されているが、その増額ないし基礎年金相当額の支給が望まれる。

なお、障害年金等の所得補填額は、20歳前障害も含め障害ではなく就労能力と連動させ、労働による収入が増加した場合には減額するが、労働時間、労働収入が増せば総所得が明確に増える仕組みとすべきである。筆者は、障害者の所得保障は、図2のような形が望ましいと考えている。

図2 障害者の就労と就労所得補填、最低所得保障(概念図)
図2 障害者の就労と就労所得補填、最低所得保障(概念図)拡大図・テキスト

5 おわりに

現在、社会保障審議会障害者部会では、障害者総合支援法施行後3年を目途とした見直し作業が進められている。福祉的就労から一般就労への移行が積極的に進み、かつ、福祉的就労分野における就労環境の改善につながる見直しが実現することを期待したい。

(いわたかつひこ 国立教育政策研究所フェロー、前職業能力開発総合大学校教授)


【注釈】

1)但し、「サンプル数が少ない2008年と2013年の『障害者雇用実態調査』の復元雇用者数を単純比較して、障害者雇用者数がかなり増加。」とは即断できない。欧米のように、労働力調査等の大規模基本統計調査による、定期的な障害者の就労実態把握が非常に重要である。