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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

座談会
就労支援政策の検証と課題

叶義文(かのうよしふみ)
全国社会就労センター協議会(セルプ協)副会長
久保寺一男(くぼでらかずお)
就労継続支援A型事業所全国協議会理事長
斎藤なを子(さいとうなをこ)
きょうされん副理事長
宮坂勇(みやさかいさむ)
全国精神障害者地域生活支援協議会事務局次長
山内桂子(やまうちけいこ)
株式会社ヤオコー人事部人事サポート担当
松井亮輔(まついりょうすけ)
日本障害者リハビリテーション協会副会長
司会 藤井克徳(ふじいかつのり)
日本障害者協議会代表、本誌編集委員

藤井 障害者権利条約(以下、権利条約)が2014年1月20日に批准され、障害分野をめぐる状況は新たな段階に移行しつつあります。本日のメインテーマである労働・雇用の分野でも、第27条を中心に新たな方向が示されました。その影響を受けながら、就労分野を含む障害者総合支援法(以下、総合支援法)の見直しのための審議が行われ、障害者差別解消法(以下、差別解消法)に基づいた雇用政策の改正が図られました。しかしながら、現状では条約の本質に迫るような審議や水準にはなっていないようです。権利条約が繰り返している「他の者との平等を基礎として」からはほど遠く、障害種別間の政策格差是正の行方も不透明なままです。

本座談会では、まずは現状を明らかにし、問題点の背景と解決へ向けての政策のあるべき方向を探ります。後半では当面の改善策に加えて現場の皆さんへのエールも送ってもらおうと思います。最初に、松井さんから、基調的なお話をお願いします。

権利条約のポイント

●差別の禁止、固有の尊厳、インクルージョン

松井 権利条約のポイントは、障害あるいは障害者をどう捉えるかです。これまでは、手が不自由、耳が聞こえない、目が見えないという機能障害に焦点が当たっていましたが、権利条約ではむしろ社会側の障壁が、障害をもった人たちの教育や職業への参加の大きな妨げになっているという現状を踏まえて、社会の側に障害者が対等に参加できるための条件整備、合理的配慮を求めています。また、従来は、障害者は弱い立場だから救済する、つまり「保護の客体」という観点が強かったのですが、権利条約では、障害者を「権利の主体」という観点から、合理的配慮、アクセシビリティの確保が求められる。それによって、合理的配慮をしないことが差別であるという位置づけが明確になったことが大きなポイントだと思います。

第3条「一般原則」から分かるように、権利条約は障害者だけではなく、すべての人にとって意味があるもので、最初に「固有の尊厳」を掲げています。障害のあるなしにかかわらず、すべての人に尊厳があり、個人の自律、つまり、自ら選択する自由の尊重などが謳(うた)われています。

また、特別支援学校、就労継続支援A型事業所(以下、A型)、B型事業所(以下、B型)など、障害者を特別の場に分離するのではなく、すべての人々が社会に完全かつ効果的にインクルージョンされることを掲げています。ここで注意しなければならないことは、障害者を一般の学校や職場に必要な支援なしで、投げ込むのではなくて、合理的配慮、アクセシビリティなど、必要な支援をきちんと提供できるような環境整備を前提としたインクルージョンということです。さまざまな人たちが生きやすい、住みやすい社会を作ることがインクルージョンなのです。

さらに第27条「労働及び雇用」の冒頭で、「締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として、労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して、開かれ、インクルーシブで、かつアクセシブルな労働市場及び労働環境において障害者が自由に選択し、又は引き受けた労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。」と謳われています。そのような労働市場をどうつくっていくかが求められています。また、あらゆる形態の雇用にかかるすべての事項に関して、障害に基づく差別を禁止すること、職場において合理的配慮の提供を確保することがあげられています。

●障害者雇用促進法の改正

松井 これを受けて、障害者雇用促進法(以下、雇用促進法)が改正されました。障害者基本法では権利条約を受けて、障害の定義に機能障害と社会的障壁の関係が明記されていますが、雇用促進法では、社会的障壁には触れていません。それ故、職場において合理的配慮の提供を義務づける根拠はどこにあるのか、同法では明確ではない。合理的配慮で差別を受けた場合の苦情処理や紛争解決援助については、雇用促進法ではきちんと位置づけていますが、差別解消法では既存のものを活用するということで、はっきりしていない面があります。精神障害者に関しては、2018年4月から雇用義務化がされます。

また、雇用促進法の改正によって、従来の「量としての雇用」に加えて、「質としての雇用」の確保が求められています。雇用率制度では、ダブルカウントに象徴されるように障害そのものが強調され、その対応にコストがかかるなど、マイナスの側面が注目されてきました。(欧米の)差別禁止法では、合理的配慮をすれば、障害をもっている人たちが労働市場で対等に競争できる能力があるということを前提としています。ただし、今回の法改正で対象となる障害者は、「長期にわたる職業生活上の相当な制限」がある者とされていて、誰がどのようにして同法の対象に該当するかどうかを客観的に判断するかがあいまいです。

現在の雇用率制度では、原則として障害者手帳を持つ身体・知的・精神の障害者が対象で、対象となる民間企業は、常用労働者数50人以上規模のところです。しかし、同改正法の差別禁止規定では手帳の有無は問わず、すべての障害者であり、事業所の規模は問わず、すべての事業主です。その辺りを今後どうクリアしていくかです。

また、日本の障害者の労働及び雇用施策は、雇用促進法に基づく一般就労施策と総合支援法に基づく福祉的就労施策の2本立てできています。雇用促進法では官庁・民間とも差別禁止と合理的配慮を義務づけていますが、差別解消法では、総合支援法に基づく、就労継続支援事業所などは、差別禁止は求められていても、合理的配慮は努力義務にとどまっています。

さらに、権利条約実施状況にかかる政府報告案の第27条労働及び雇用の項目では、雇用率制度に基づく雇用状況に関わる記述だけで、福祉的就労の状況については言及されていません。第27条第1項の「あらゆる形態の雇用」は、日本政府は一般就労に限定して理解していますが、国連障害者権利委員会の見解では、日本でいうところの福祉的就労もそれに含まれています。また、A型、B型とも最終ゴールは、一般就労で、それに向けた訓練は職業リハです。国際的には職業リハは原則無料で提供されていますが、総合支援法に基づく障害福祉サービスとしてのA型、B型は、原則1割負担となっているため、第26条ハビリテーション及びリハビリテーションの項目ではなく、第28条相当な生活水準及び社会的な保障のところで言及されているにすぎない。これも国際的な常識からは、おかしなことです。

それぞれの現状報告

藤井 第27条をベースに、あるべき方向を探っていきたいと思います。それに先立って、それぞれの現状を一言ずつお願いできますか。

久保寺 私は社会福祉法人でA型、B型の施設長をしていましたが、「悪しきA型」問題が表面化してきて、危機感を持った有志でA型の全国組織「全Aネット」を立ち上げました。悪しき事業所も一部あるかもしれませんが、ほとんどは真摯に取り組んでいます。企業の参入はよくないという風潮がありますが、むしろ企業のエネルギーが就労支援をダイナミックに変えていく予感がします。

 セルプ協には、A型、B型、就労移行支援、生活介護等の約1600の施設・事業所が加盟しており、障害者の「働く」と「暮らす」を支えることに取り組んでいます。一般就労の推進とそれが難しい人たちの働く場である福祉的就労の両面の充実が必要であるという立場で活動しています。働く場の提供だけではなく、工賃・賃金と年金と手当等を組み合わせて、地域で自立して暮らしていけるような水準の収入をと考えています。働いているにもかかわらず訓練生であり労働者として位置づけられていない、低工賃・賃金であり社会保険の対象にもなっていない等の問題について、何とか解決したいと思い続けています。B型で働く約20万人の人たちが地域で暮らしていけるような状況をつくっていくことが、目指すべき大きな方向性だと思っています。

宮坂 私が所属するNPO法人全国精神障害者地域生活支援協議会(通称「あみ」)は、精神障害を対象とした地域の小規模作業所やグループホームの集まりで、地域で生活をしていく中に就労があるという考え方を持っています。暮らしながら働くことをどう支援していくか。今の就労ありきの制度に問題を呈していくことが意外と多いと感じています。2018年の雇用率の改定を見定めて、精神障害の方々の雇用契約を結んだ雇用が増えているという実感があります。ハローワークを通じた障害をもった方の就職は14年度は8万6千人が就職していますが、その中で福祉・医療の現場に就職された方が3万人弱います。

精神障害の方たちにA型の存在は大きいと感じていますが、B型は雇用契約に基づく就労が困難な者という前提があることで、以前の作業所のイメージから離れている感じがします。作業所が担っていた居場所の提供は地域活動支援センターがカバーしていますが格差が大きく、いかに居場所を確保するかの悩みを抱えていると思います。

山内 ヤオコーは、埼玉県を中心にスーパーマーケット144店舗を展開しています。私は現職に就いて12~13年になりますが、知的を中心に精神の方を本社所属で雇用して、1店舗に1人配属を始めています。現在、120店舗を超えて165人が働き、そのほかに店舗で障害をもって働かれている方も合わせると、210人ぐらいになります。人件費は本社でみていますので、店舗は「働いてくれて助かっている」というスタンスです。採用は、実習を行なってから関係機関、親御さんにお集まりいただいて、本人の意思を確認して決めていますが、定着率はよく、勤続10年を超えている人が5~6人います。

社内では障害特性についてなかなか理解が進まないことがありますが、最近は親御さんも理解が進んでいないことが分かってきました。知的、身体の障害で就職した人たちの中に、発達障害系の課題が多くなってきています。また、生活の乱れ、衛生面とか、家庭環境で本人が継続できなくなるケースもあり、そこは私たちが支援できないところです。

斎藤 特別支援学校卒業後の進路問題や教育権保障がなかった在宅生活の人たちなどの働く場、社会参加の場としての作業所づくり運動が全国各地で取り組まれて40年近くになります。障害の重い人たちや「谷間の障害」といわれる人たちも作業所に通うことによって働く喜びを得たり、地域に密着して小回りが利く小規模作業所の良さを活かして、さまざまな可能性を作り出してきたと思います。

障害の重い人たちが何らかの社会的な価値を見い出す活動を通して、人としても豊かになっていくことを実証してきたと思いますが、工賃や移行率の低さなどが長期に固定化して、障害のある人たちの貧困さ、その暮らしぶりにほとんど変化がないところが、権利条約のもとで改善しなくてはいけない一番大きなテーマではないかと考えています。

総合支援法の評価と課題

藤井 労働及び雇用を本格的に考えようとすると、権利条約にある第26条のリハビリテーション、第27条の労働及び雇用、第28条の生活水準及び社会的な保障を一体的に議論すべきです。しかし、日本では労働行政、福祉行政を一体的に議論する場がなく、縦割り行政、二元政策が続いています。「福祉か雇用か」ではなく「福祉も雇用も」という視点が重要ですが、現実からして本日も区分けして論議するしかありません。

自立支援法から総合福祉法へと移り、いわゆる福祉的就労政策として、就労移行事業、就労継続支援事業のA型とB型、地域活動支援センター、一部の生活介護で就労実践が行われています。冒頭に言いましたように、現在、就労分野を含めて総合支援法の見直しが進んでいます。来年の通常国会には法律改正が予定されています。就労分野の視点から総合支援法見直しの動きをどうみているか、期待感も込めながらいかがでしょう。

●地域では多少取り組みやすくなった

 以前の授産施設では、一般就労を希望する人、しっかり働こうとする人、ゆったり働きたい人など、ニーズや状態が異なる人が施設の中に混在していました。その点では、これまでの総合支援法の見直しの検討の中で、A型、B型、就労移行といったそれぞれの事業の目標が多少明確になってきたかと思います。地域の中でA型、B型、就労移行、生活介護と複数の事業を展開できるようになったことで、ニーズや状態に合わせた働く場を選択できるようになり、比較的利用しやすくなった点はあると思います。そうはいっても、生活介護を利用しようと思っても支援区分上の制限があって利用できずにB型を利用せざるを得ないという状況、65歳を超えた人たちが介護保険のサービスに移行せざるを得ないという状況があります。いまだに本人の希望や働きたいという意向が尊重されない状況が残り続けているのは、大きな課題だと思います。

働く場における利用料についても問題意識を強く持っており、本来であればなくすべきと思っています。目指す方向性は、障害のある人たちが誇りを持って働きながら地域で暮らしていけることです。そのためには、1万5千円ぐらいの工賃しか支払えていないB型の工賃向上や、そこで働く人の所得保障をきちんとしていくことです。安定的かつ継続的な仕事の確保、障害者就労支援施設・事業所への一定規模の発注を法定雇用の雇用者数に置き換えられる「みなし雇用制度」の導入、「優先調達推進法」の一層の活用等の各種支援策を充実させることで、内職程度の仕事から脱却していくことが改革のポイントになるかと思います。

●総合支援法の見直しに期待

久保寺 正直なところ、大きく変わるような材料が出てこないのではという気持ちがあります。したがって法律の若干の変更でしばらく乗り切る。そのためには、当面A型を大きく広げていくことだと思います。長期的にはもう少し深い議論をしながら皆さんのコンセンサスを得て、法律、体制を大きく変えていくというビジョンを示してほしいと思います。

自立支援法になって10年ですが、総合支援法は自立支援法とほとんど変わっていない。就労でいえば、就労移行支援、A型、B型のそれぞれの事業の多様性が表面に出てきて、法律が対応できなくなってきているのではと思います。そういう意味では、権利条約批准に伴う今回の総合支援法の見直しに期待したいです。個人的には、大きく変わるチャンスではないかと思っています。

福祉工場制度の受け皿としてA型ができましたが、福祉工場制度の総括が十分なされた上でのものではありませんでした。福祉工場は社会福祉法人しか運営できませんでした。ある意味、善意の制度を作り上げたとも言えますが、想定外の運営ケースが出てきて、一部、悪質なコンサルタントが絡んで「悪しきA型」が一気に増えたということがあります。ただ、長いスパンで見た時には、企業の参入でA型が爆発的に増えたことはプラスになると思っています。

藤井 いわゆる「悪しきA型」を許さないような方策は何か考えられますか。

久保寺 暫定支給決定の場合は、特定求職者雇用開発助成金(特開金)が使えなくなるとか、短時間利用の減算措置は一定の効果はあると思います。ただ、まじめにやっているA型が割を食うところもあります。本来は当事者のための暫定支給決定も、特開金が悪用されています。介護保険制度でも問題になりましたが、過渡期ではないかと認識しています。全Aネットを立ち上げた理由は、よきA型がいっぱいあると社会に示していくことが、悪しきA型を少なくする一つの方法だと思ったからです。

藤井 今のような政策審議スタイルだと、初めから福祉は福祉で、雇用は別の土俵となっていると思いますが。

久保寺 将来的には、ヨーロッパで「社会的企業」と言われるソーシャル・ファームのスタイルが理想だと思いますが、財源の裏付けと社会の許容が必要です。社会的連帯経済というようなレベルになればいいなと思います。そのような過程を経るには、福祉サイドだけではなく、民間企業も参入し、経済界も含めた各方面の方たちと大きな議論をしなければいけないと思います。

●総合支援法だけでは変わらない?

宮坂 A型に関しては、厚労省が9月8日に都道府県・政令指定都市宛に、「就労支援A型における適正な事業運営に向けた指導」という文書を出しました。このタイミングで出ることは、今回の改正では大きく変わらず、この形の指導を徹底していくのではとみています。A型、B型、就労移行支援事業所のジョブコーチが、就職後も支援を継続するケースがポツポツ出てきていますが、精神の場合は定着が問題です。

B型の利用率は知的障害はほぼ100%だと思いますが、精神の方は50~70%の現状です。たとえば登録者数が38人、1日の平均利用者数が15~18人で、欠席者へのフォローをしつつ、来た方々の日払い給付事業費で運用している。作業所のころの居場所の提供や余暇活動を手弁当でやっていた風景に重なる部分があります。制度としては固まってきたかもしれませんが、みんなが難しいと思い始めて、できることを模索している最中ではないかと感じています。

精神の方は一般雇用されていても、日々の病状の変化があります。働くことに関しては、雇用・労働でしっかりやっていただいて、当たり前に働いてもらう。同時に、生活を支援する人間が連続性・継続性を持つことが必要だと感じています。当たり前に働ける環境を生活面からサポートするのは福祉で、会社との連携は地域に根ざした実践家がやっていくのが望ましいのではと思います。

また、A型を福祉行政で抱えていくことがいいのかの議論も起きています。B型で経営ができるのかと考えている方も多いです。一般企業の参入は、悪くない側面が大きいのではないか。福祉の考え方も変わっていかないといけないと思います。希望としては、雇用や一般施策と連携してほしいです。ジョブコーチや就業・生活支援センターは、総合支援法ではない分野で行われていますが、現実には連携をとっています。大きく変わるチャンスという話もありましたが、総合支援法だけでは変わらないと思っています。内閣府の社会保障審議会障害者部会での検討がありますが、もっと積極的に声を上げるべきだという思いがあります。今の審議システムでは、福祉も労働もという方向は出にくいのではないかと思っています。

●権利条約を出発点に議論を

斎藤 自立支援法から10年ですが、私は率直に言って、この法律になじんだという感覚が一度もありません。さきほど利用料の問題が出ましたが、働く場や生活の場に利用料が必要なのは障害を自己責任とする考え方がベースになっています。また、就労経験がなければB型を利用できないという利用要件があることなど、働く願いやニーズに沿っていない制度設計はいかがなものかと思います。特別支援学校を卒業して、生活介護事業を利用したら、次にB型を利用したくても生涯利用できないのが今の構造です。

また、日割り制度などを含めて、成果主義がベースにあると思っています。時間をかけて働けるようになっていくプロセスよりも、結果重視という仕組みがあるので、この10年の現場の中で、全体としては制度に合わせた支援が色濃くなってきてしまったのではないかと思います。

自立支援法の目玉の一つが「福祉から雇用へ」でしたが、「福祉も雇用も」という方向が必要であると考えます。今回の見直しに関しては、権利条約を出発点に議論すべきだと思っていますが、財政の問題により拍車がかかっている気がしますので、それでいいのかというのが全体的な問題意識です。

●福祉の支援は必要

藤井 総合支援法に関して意見がありましたらお願いします。

山内 一般企業で障害者を受け入れるにあたって、「障害者だから全部許していいの?」、「これも認めなければいけないの?」という話がよく聞かれます。当社では、障害をもった方も、健常者と一緒に活躍していける人材に育てようと考えています。その中で、障害であるのか、病気であるのか、性格であるのかが分かりにくくて困っているのが現状です。勤務時間や職務内容などは障害者に配慮しなければいけない。合理的配慮は必要だと思いますが、障害をもっているからと言って、「甘え」は認めずに、たとえば毎日、きちんと出勤しない人には指導してくださいと話しています。

仕事に関しては会社で指導しますが、それを支える福祉は、就労支援センターや作業所などの方がやりやすいと思っています。福祉の支援が全くない方は、雇用の安定には不安ですので、支援機関などが関わっている知的障害、精神障害の方の雇用を進めています。

●本人に必要なサービスをベースに

松井 総合支援法のどこに問題があり、どういう方向にもっていくのか、インクルージョンはどうあるべきかを、福祉サイドで説得していく必要があると思います。まだまだ既存の制度に合わせたサービス展開になっています。本来なら、A型、B型、生活介護ではなくて、本人が必要なサービスをいかにきちんと提供していくか、その費用をどうするかにベースをおかけなればいけないと思います。企業に送り込むのであれば、本人のサポートと同時に企業にも必要な支援を行なっていく。就労移行支援も含めて全体として取り組まない限りは、インクルージョンは実現できない。総合支援法の見直しの中で、何をどう変えていく必要があるかを積極的に打ち出していただきたいと思います。

藤井 今のような審議スタイルで、あるべき方向が打ち出されるかは甚だ疑問です。福祉分野と労働分野の一体的な審議方法、また、こうした分野に精通した障害当事者の参画が求められますが。

松井 それと、当事者が何を望んでいるかをきちんと言えるような審議システムが必要です。合理的配慮でも、どういう配慮が必要なのかを本人に発言してもらうことが大事ですが、聞く方も言う方もそういう実のあるやり取りに慣れていない。利害関係にある双方が、納得がいくようなやり取りができる審議の場にすることが極めて重要ですが、実際にはなかなか難しいと思います。

障害者雇用政策の評価、問題点

藤井 権利条約を批准するためには差別解消法の制定が必須であり、差別解消法との関係で雇用促進法の見直しがありました。改正は、差別解消部分に限定されたものでした。あらためて第27条に照らして現行の雇用促進法をどう見直すか、その方向性や着眼点についていかがですか。

山内 当社は、障害者もパート社員と同じ時給で賃金をお支払いしています。精神の方で最初は6時間で雇用しましたが、きついので4時間にしたケースもあります。生活が心配でしたが、障害年金を受給していて、母子家庭が暮らせる住居に入っているので、何とか生計を立てられています。短い時間しか働けない障害者の支援をどうするかが課題です。

福祉は、本人が手を上げないと支援が関われないところがあります。精神障害の方で、親御さんと一緒に国民健康保険をかけ続けていたケースがありました。本人に健康保険証を手渡して社会保険の説明をしたのですが、忘れている。健康保険料の滞納は2年間しか遡(さかのぼ)れませんから、その前の3年間分を今払っています。親御さんも絡んでいるので、福祉にどう導くかが難しいと思っています。

藤井 福祉分野と労働分野を関連づけながら、全体的な視野での意見をうかがいましょう。

久保寺 労働と雇用の関連を考えた時、仕事の確保が大きな要素になります。官公需、民需を促進していきましょうというのですが、もっと大きく手当てをしてもいいのではと思います。在宅就業支援制度やみなし雇用の制度がありますが、民間企業が仕事を出すというインセンティブが働く制度にして、民間企業も絡んだ議論にしていかないといけない気がします。そのような意味では、総合支援法の障害者部会の議論は、就労支援制度の骨格ではなくて、細かい制度の議論をされているように思います。

松井 先ほども問題提起をしましたが、雇用率制度と差別禁止及び合理的配慮の考え方は違うので、企業サイドにどの程度理解していただけるか。特に権利条約で規定する差別禁止や合理的配慮では、「他の者との平等を基礎として」という言い方をしていますが、障害をもった人たちはパートや時給が多い。一般従業員にパートが占める割合とそんなに変わらないのであればともかく、もしそうなっていないとしたら、その理由をどう説明していくのか。働き方にしても、客観的になぜ4時間、6時間なのか。企業だけではなくて、B型で月額平均約1万4千円しか払われないのは、本当にそれしか働けないからなのか。施設側で能力を引き出せていないからなのか。障害者がその能力を十分発揮できるように、企業等だけでなく、支援団体も努力しなければならないのです。

もう一つ、完全なインクルージョンという観点からは、障害者だけを分離して処遇するといった施設があっていいのかということです。A型、B型ではなくて、通常の社会資源を活用しながら、必要な支援をすることによって働けるようにすることが目標ですから、企業サイドも施設サイドも、どうしたらそうした働き方を現実的に可能にできるのかを一緒に考えていくことが大事です。そうしたことを実現するために、今の制度のあり方が、どうなのかが問われるのだと思います。

あるべき方向性は?

藤井 あるべき方向についての「正解」は、お集まりの皆さんには見えていると思います。問題は正解にたどり着くための「方程式」をどうするかです。この点を巡って話を展開しましょう。

斎藤 雇用と福祉の橋渡しをどうやって具体化していくかが最大のポイントだと思いますが、その溝はなかなか超えられないというのが率直なところです。福祉的就労ゾーンに入るか雇用ゾーンに入るかで、将来にわたって働き方、暮らし方が変わるのは、本人サイドから見たら許し難いものだと思います。障害のある人本位でどう考えていくのかの議論をしないと、なかなかつながらないと思います。障害のある人に福祉と雇用の施策の両方からどう一体的に支援できるようにしていくのか、そこに実践家としての思考方法がないと進まないと思っています。とりわけ給料の問題は決定的です。生産能力の問題を障害のある人に負わせてしまうことは正面から考え直さなければならないと思います。

藤井 サポーテッド・エンプロイメントについては、日本の解釈は実に狭義で人的支援に限局している感じがします。本来はもう少し違う意味がありますね。

松井 日本では「援助付き雇用」と訳して、ジョブコーチによる支援という解釈がメインですが、ヨーロッパでは「支援付き雇用」です。ジョブコーチの人的なサポートとともに、賃金補填やもっと幅広い支援の提供を意味しています。ヨーロッパでは、日本でいう福祉的就労と一般雇用をつなげるための支援付き雇用制度を一体的に展開するための方法論として、サポーテッド・エンプロイメントを制度化する、さまざまな試みができてきています。日本でも通勤支援とか、職場における生活上の問題をサポートする人的配慮を合わせて考えれば、企業でも無理なく受け入れられる形になるのではと思います。

藤井 新たに生まれた全Aネットであり、政策面でも大きな抱負があろうかと思います。あるべき方向とそれを具現化していくための方法はいかがですか。

久保寺 つい先日、ホームページを開設しましたが、全Aネットの考えを発信していこうと思っています。将来のあるべき姿は、いろいろな考え方がありますので、慎重に考えているところです。当面は一つの手段として、今の制度を若干変えるだけで、A型はかなりの力になると信じています。つまり、一般就労できない人たちが非雇用という選択ではなく、福祉的就労(雇用)の受け入れの幅が広くなればとの想いなのですが、そうなった時にA型1つでいいのか、2つになった方がいいのかについての議論は、これからしなければと思います。

7月より「A型の課題と可能性についての検討会」を始めました。大きな5つのテーマを設定しました。A型の評価項目・質の保障(実態調査を含む)、制度外の生活困窮者・ニート・引きこもり等の方のA型利用、一般雇用と福祉的就労の橋渡し的な役割(移行促進・状況変化時の受け入れ)、そして一般就労に向けて、移行支援事業所と同じような取り組みをしているA型がかなりあるので、そのあり方について、さらにB型からA型に移行するのにはどういう問題があるのかも議論していこうと思っています。今のA型のままで、もう少し緩やかな労働保険だけのA型があってもいいのではないかという意見も一部に出ています。現在の利用者数A型5万人、B型20万人が、少なくても同じくらいになる制度にできたらという議論も始めました。

 冒頭でもお話しましたが、一般就労を希望する人たちが就労できる仕組みを作っていくことと、一般就労が難しい人たちが地域で働いて暮らしていけることが必要だと思います。一般就労でいえば、厚労省の資料では、2014年度にハローワークで約8万6400件の紹介がありましたが、就職者数は約43万1000人であり、前年度から2万人程度しか増えていません。8万人以上も就職しているのに、2万人しか増えていないのはなぜか、それはかなりの数の人が辞めているからでしょう。一般就労を充実させていく意味でも、離職者や働く人たちの状況をもう少し明確にしていくことが必要です。また、A型で働く人は約5万人、B型で働く人が20万人になろうとしています。その人たちが働いて地域で生きていけるような制度をつくっていくことが、大きな目的となります。

B型で働く人たちは求人登録をしていない人が多いと思われることを考えると、民間企業の法定雇用率の2%は圧倒的に低い目標値だと思います。法定雇用率を大幅に引き上げた上で、企業が福祉的就労の機会を提供する施設・事業所に仕事を発注した場合には、先ほども申し上げたみなし雇用を認めることをしなければ、民需の仕事が入ってくることはなかなか難しいと思います。優先調達推進法もできましたが、今の状況では仕事の確保策、工賃向上にはなかなか結びつかないと思います。

藤井 重ねての課題提起になりますが、一般労働市場では福祉的要素が十分ではなく、他方、福祉的就労では労働者性が失われています。松井さん、国際的な潮流を交えながら話をお願いします。

松井 ドイツは日本と同じように作業所で働いている人たちが約25万人いますが、障害者権利委員会が、時間枠を区切って廃止する方向で検討するよう勧告しています。日本に対しても同じ勧告が出てくると思います。中長期的に、分離された働く場をなくすには、具体的にどうしたら可能なのかの議論をせざるを得ないと思います。大部分のB型事業所関係者の方は、それはあくまで理想論で、現実にはできないと言われるかもしれませんが、勧告が出ると4年後にどういう対応をしたかが求められます。行政サイドだけではなくて、受け皿となっているセルプ協などとしてどう向き合うことができるか、議論せざるを得ないだろうと思います。

 差別だからB型はなくしましょうとなった時に、働きたいという思いをもちながらもはじかれる人たちが出てきます。

松井 勧告では、最賃に満たない部分は、賃金補填等、それをクリアするための代替策を講ずるよう求めています。

 賃金補填という選択肢も含めて、権利条約で求められていることをクリアできるだけの環境を整えた上で、B型とA型を一体化していくということはあるかもしれませんが、賃金補填も仕事の確保のための支援策もなくて、B型でも最低賃金を払いなさいとなれば、ほとんどのB型は立ち行かなくなり、そこで働く人は行き場を失ってしまいます。

セルプ協では、これまでも障害があるが故にハンディがある部分にはきちんと賃金補填をして雇用することを考えてきました。本人がどこで働きたいのか、本人の意向を大事にして働く場を決めることを出発点とするべきという基本的な考え方を大切にしています。そこは決して崩せない部分です。

宮坂 経済的な補償は必要だろうということは分かりますが、精神の方々が作業所に何を求めていたかというと、収入を得る以上に自分の役割とか社会とのつながりを持つ場所だと考えていると思います。

私は以前、グループホームのスタッフをしていましたが、30年近く入院されていた方が、どうしても働きたい。なぜかと聞いたら、社会貢献したいと。社会貢献で働くというイメージはなかなか持てないのですが、私も自分の所属がなくなったら、安心していられない部分があります。働くことの意味は、所得を得るだけではなく、その人の生きがいに大きく影響を与えると思って、そこをしっかりサポートできるといいと思います。

以前は制度が後追いで、地域実践を制度化してきたと理解しています。今は制度に縛られ過ぎている気がします。打開するとすれば、自分たちがこれだという実践を制度にとらわれないでやってみることだと思います。その後に制度がついてくる、これだけやって成果が出ました。そこに評価をもらうのもありだと思います。

当面の課題と実践へのエール

藤井 最後になりますが、現場へのエールも含めて、当座の改善課題を一言ずつお願いいたします。

久保寺 第一に、身を正しくして、よきA型のネットワークを作っていくことです。ビジネスとして成り立たせることがA型の一番の課題ですが、A型と連携したいというコンサルタントや企業があるので、ホームページの会員ページでそれらの情報を流していこうと思っています。

「一生に一度は労働者に」が、全Aネットの思いです。障害が重くても、労働者としての身分保障をしてやりがいのある仕事をしてもらいたい、そのようなA型を必要としている人たちのために、努力していきたいと思います。ぜひ、A型にチャレンジする人や事業所が増えればありがたいと思っています。

 セルプ協でもA型事業の検討のための特別委員会を作っていますが、B型からA型への移行は大事なことだと思っています。短時間利用の問題、最低賃金の減額特例の問題もありますが、大きいのは労働の質の問題です。極端にいうと、人件費をパート職員を多く雇うことで低く抑えて、報酬を横流しするような形でA型の利用者の最低賃金を保障しているところもあります。パート職員中心では、しっかりとした就労機会の確保や支援は継続できないだろうと思います。その辺は大きな課題ですので、充実したA型をつくっていかなければと思っています。

今後は、就労移行支援もA型もB型も、これまで以上に専門性が問われます。就労移行支援で就職できた人数がゼロのところが30%以上あるなかで、就職できるよう支援していくためには専門性が問われますし、就労継続支援事業にしてもスタッフがマーケティングや営業などの専門性を身に付けないと事業振興していくことは難しいでしょう。そこは、我々にとっても課題だと思っています。当事者の思いを大切にしながら、共に地域で暮らせるところを目指していきましょう。

宮坂 働きたい方が希望したところで希望した形で働ける方法をみんなで考えることがスタートしたのかという感じがしています。働きたいことを考えるきっかけが少しずつ動いている状況を大事にしたいです。もう一つは、支援側の身分保障も併せて考えていかなければと思います。自らが揺らいでいては、支援は難しいと思います。

私は30代半ばですが、これからを担っていく20~30代の方々には、今回のような話題をしっかり見てほしいと思います。私はたまたま今回お話を伺いましたが、学ぶべきことがたくさんあり、追いかける背中があることを知って、有意義な時間を過ごさせていただきました。

山内 制度に関しては詳しくなくて申し訳ないのですが、よりいい制度になれば、当社にも本人のためにもいいと思います。当社では「縁あって入社をしてくれた」という表現をよくするのですが、縁あって入社した方とはハッピーリタイアまで一緒にやっていきたいと思います。そのためには、支援してくださる福祉関係の方は非常に頼りになります。定年を間もなく迎える方が2人いますが、65歳の定年のあと70歳まではアルバイトで働けます。そこまで働けるような会社にしていきたいと思っています。

斎藤 障害のある人たちの多様な働き方、就業のあり方のバリエーションが、豊かに実現できるようにしていくこと、同時に、その生活や権利がきちんと保たれているかを追求していくことが大事だと思います。それは、障害のある方も支援するスタッフも同じだと思います。

私は、権利条約第8条「意識の向上」の項目がとても好きです。その中に働くことの肯定的な認識とか、働いて社会に参加することの意味が書かれていて、大事にしなくてはと思っています。働くことや経済活動は、社会が豊かになっていくキーだと思いますから、そこにどれだけ参画ができるか、力を合わせていきたいと思います。

松井 「質の高いサービス」を支える人たちが、労働条件が厳しくてなかなか定着しないという現状があるので、質の高いサービス提供を担う人々の労働条件をきちんと整えていくことが求められます。権利条約第27条が意図する、インクルーシブな労働市場は、障害のあるなしにかかわらず、すべての人にとって働きやすいところ。一般就労か福祉的就労かといった二分状況を解消するためにも、そうしたインクルーシブな働く場づくりを目指すことが、すべての人にとって生きやすい、住みやすい社会づくりに寄与することになるのではないかと思います。

藤井 権利条約が批准されましたが、まだまだ現実とのかい離は少なくありません。労働及び雇用の分野も例外ではありません。このままでは権利条約について無力感のようなものが生じかねません。まずは、個々の現場で第27条に照らして徹底した点検作業をするのもいいのではないでしょうか。はっきりしていることは、「労働に二つはない」ということです。労働にダブルスタンダードが定着している日本の状況は、少なくとも権利条約を含む国際規範からはおかしいのだということを認識すべきかと思います。この「労働に二つはない」をまとめにして、座談会を終了したいと思います。ありがとうございました。