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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

「共に働き、ともに生きる」共働学舎の40年

宮嶋望

就労支援の二つの側面

心身に負担を抱えた人たちの就労を考えると、二つの方向があると思う。現在の社会に合わせた仕組みの中で、障がい者に就労の機会を提供する事業主体の考え方と、現状ではあまり見受けられないが、各々の障がい者が持っているだろう可能性を引き出し、仕事を構築し、社会の中にビジネスとして成立させ、就労の形を作る考え方とがある。

共働学舎では、40年を超えて心身に負担を抱える人たちと生活を共にしてきたが、その構想に書かれている宮嶋眞一郎(共働学舎創立者)の考え方からいくと、事業の仕組みに合わせ働いてもらうのではなく、それぞれの人の可能性を引き出す形で生産・生活の仕組みを考え、その活動が生活を成り立たせ、生産物なりサービスがビジネスとして成り立つよう昇華させていくことを目指している。

手づくり生活でコストを下げる

まず、生きていくことをお金で考えるのではなく、生きていくのに必要な事柄をできるだけ手づくりで行うことで生活コストを下げる。不器用な人でも薪(まき)を割ったり、掃除をしたり、料理の手伝いはできるので生活を支える重要な仕事になる。

食品の品質の向上

その生活の中で牛を飼い、搾乳し、チーズを作り、有機栽培の野菜を育て、肉牛を育て、牛肉として販売する。食品として商品を販売する場合、絶対的に安全性と美味しさを持っていなければ、モノのあふれている日本では売り続けることは難しい。

しかし、ゆっくりな人の能力を活かそうと機械を外したところ、食品材料の持つ食べ物としてのエネルギーを劣化させないために美味しさと安全性を確保することができることが分かった。

チーズの本場のコンクールで金賞・グランプリをいただけたことは皆のモチベーションを上げ、それぞれが行なっている仕事に自信を持つようになった。そのために炭を使い、水を整え、自然素材で建物を作るという環境設定は、人間をも含む生き物たちの可能性を引き出すには重要なことが分かった。

自ら意思を持ち働くことが可能性を引き出す。

商品の裏に潜む社会的価値を伝える

また、羊から羊毛を刈り、カードをかけ(ごみ取り)、紡いで織り、さまざまな製品を作る。手作りだと確かに時間はかかるが、作品には温かみがあり、個性が感じられ、お客様が手に取ってくれる。その作品の裏には社会で認められなかった人が、ゆっくりだが丁寧に気持ちを込めて作っている姿があることを知ると、感激をもって購入してくださる。このような作り手と買い手をつなげることができれば、ビジネスとして成り立つのではないだろうか。

このような思いで共働学舎は40年以上活動を続けてくることができた。そこには、共働学舎の趣旨を理解し支援してくださる人たちがいたことが大きいが、「自労自活」という言葉を掲げ、自らの生活を自らの働きで成り立たせようとしたことから可能性が見えてきたように思う。

1日何をするかは自分で決める

労働基準法には填(はま)らないが、皆自分の意志で仕事を選び、働いている。その結果、生活するための金銭は少ないが、結構豊かな生活をしている。

朝食の後、皆「今日は○○をします」と自己申告をし、それぞれの行動がとれるようになっている。仕事をするものは自分で決めたことができるし、休みたいものは休める。このようにしていて、牧場が動いていることが不思議に思われるが、「周りに認められたい」と思っている人は結構仕事をしている。繰り返し行なっていれば、ゆっくりだができるようになってくる。自分に合わないと思えば、別の仕事を選ぶようになる。

皆が仕事をすると言っている中で、今日は休みますというのは、結構度胸のいることだ。もちろんアドバイスをすることもあるが、基本的に本人の意思を尊重する。それで必要な事柄が片付くのか心配されるが、責任を感じるものが皆の嫌がることをしていれば一応すべてうまく動くことになる。それを阻害するのは下手なプライドや権威的な思考だろう。

最も難しいのは、ある程度能力があると自負している人が、何かでコンプレックスを持ってしまうと、それを払しょくするのはなかなか難しい。自分で積み上げた経験からの価値観から抜け出せなくなり、価値観を固定してしまい、固い箱に閉じこもってしまうようになる。

それを打ち砕いてくれるのは明らかに障がいを持ち、不自由な体で不可能なことに挑みながら仕事をしている姿だろう。障がい者がいつも世話される立場だと思っていると大間違いだと気付く。能力のあるものの能力を発揮させているのが、不自由な体を持ちながら働く意思を示している人たちだろう。そのような人たちが隔離され、特別な生活の場や仕事場に押し込められているのはとてももったいない気がする。

雇用という言葉にはそぐわないかもしれないが、それぞれが持つ能力を活かす仕組みをつくれば、結構、豊かな生き方ができると確信する。

(みやじまのぞむ NPO法人共働学舎副理事長、(農事)共働学舎新得農場代表)