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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

「みんなに、はたらくよろこびを!」
スワン町田店がA型事業にかける思い

天野貴彦

スワンカフェ&ベーカリー町田店は、一般社団法人ディーセントワールドが経営する就労継続支援A型事業所。東京都町田市内で2か所の店舗を展開し、パンの製造・販売とカフェの営業を行なっている。駅から15分ほどの住宅地にあるスワン町田1号店は平成19年1月に、郊外のショッピングセンターの中にあるスワン町田2号店は平成24年5月にオープンした。

現在は、2店舗で約40人の障害のある人と約20人の職員が働いている。利用者の障害種別は知的、精神、発達、聴覚、難病などさまざまで、療育手帳A2(愛の手帳2度)相当の比較的障害の重い人も数人いる。働く時間帯や仕事の内容は、一人ひとりの希望や状況、適性を考慮しながら、よく話し合い決定している。製造しているパンの種類は約50種類。毎月4~5点の商品が入れ替わる。生地を分割する人、成型する人、オーブンに入れる人、トッピングをする人、焼きあがったパンを「○○が焼きあがりました」と品出しする人、店頭に立ち、呼び込みをする人、レジを打ち、袋詰めする人、カフェのドリンクを作る人、洗い物をする人、外販に出かけていく人、一人ひとりが自分の仕事に誇りをもち、元気いっぱいに働いている。先輩利用者が、新人利用者に手取り足取り仕事を教えている光景も見られる。

スワン町田店の利用者は、ハローワークに求人を出し、募集している。応募の際には、履歴書と併せて、作文の提出を求めている。作文の題は「働くことでかなえたい夢」。「働いて得た給料で家族にプレゼントしたい」「旅行に行きたい」「自立したい」「将来は、自分でパン屋を開きたい」などたくさんの夢が記されている。採用の第1条件は、「本人に働く意志と意欲があること」。作文は、本人たちの「はたらきたい」気持ちが本物であるかどうかを確認する不可欠の材料となっている。

就労継続支援事業A型(以下、「A型」)は、障害福祉サービスの中で唯一、サービスを利用する障害のある人と雇用契約を結ぶことが義務付けられている。そのため、労働基準法などの労働法規の適用を受け、障害のある人に労働の対価として原則、地域最低賃金を支払わなければならない。1号店を開設したときの東京都の最低賃金は時給719円。最低賃金は毎年引き上げられ、平成27年10月現在は、907円となっている(全国加重平均額は798円)。

スワン町田店では、すべての利用者に減額特例の制度を適用することなく、最低賃金以上の賃金を支給している。パンの販売による売上が、利用者賃金の原資となるため、就労支援事業の売上を確保することが毎年度の重要課題となっている。平成26年度の年間売上実績は約6300万円。平成27年度は7200万円の売上目標を立てている。1個100円~200円のパンを売って、6000万、7000万の売上を上げるのは実際、大変なことだ。数字を追うあまり、福祉のサービスが疎かになってしまうことは許されない。

スワン町田店で働く職員には、福祉サービスの向上と売上アップの二兎を追うことが求められている。すなわち、福祉のプロであると同時に、製造や販売、営業のプロでもなければならない。職員は27年度に明文化した「職員行動指針」に基づき、セルフチェックを常に心掛けている。

一般社団法人ディーセントワールドは、平成25年10月にそれまでの経営主体であった社会福祉法人からスワン町田店の経営を受け継ぎ、A型の経営に特化するために設立した法人である。「なんでまた全国一最低賃金の高い東京で、経営の厳しいA型を、社福から独立してまでわざわざ行うのか」と問われることがよくある。答えはこうだ。「一般社団法人ディーセントワールドは、障害のある人のディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)を実現するために、その『手段』としてA型に取り組んでいる」

ディーセントワークとは、ILOが21世紀の全世界全労働者の実現目標として提唱した理念。全世界全労働者の中には、もちろん障害のある人も含まれる。ディーセントワークが目標として掲げられる背景には、当然、ディーセントワークから程遠い状況にある現実がある。障害のある人の状況は障害のない人よりも殊更厳しい。スワン町田店では、ディーセントワークを「みんなに、はたらくよろこびを!」とわかりやすく訳し、スローガンに掲げている。

A型はディーセントワークの舞台であるとともに、「(国連・障害者権利条約の根幹を成す)『合理的配慮』が標準装備された障害のある人の働く場」でもあると考えている。今後、ディーセントワークや合理的配慮の考え方が世の中に広く浸透し、A型の存在意義がなくなり、消え去っていくことが私たちの(矛盾する)思いであり、願いでもある。いつか、その日が訪れるまで、懸命に障害のある人の働く場を守り、彼らの夢を応援し続けながら、みなさんのご来店をお待ちしております。

(あまのたかひこ 一般社団法人ディーセントワールド代表理事)