「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号
社会福祉法人むそうにおける就労支援の取り組み
戸枝陽基
人はなぜ働くのか
労働は、何のためにあるのか。
暮らしに必要な対価を得るためだけにあるのではもちろんない。
対価を得るための労働であるなら、むそうにいる障がいのある人々の多くは、贅沢(ぜいたく)をしなければ暮らしていけるだけの障害基礎年金を持っているので働く必要がない。
それでも、彼らは働く。生きいきと働く。
彼らのその働く姿を見ていると、労働とは、人に認められたい、社会の役に立ちたいという無垢な思いが原点にあるべき行為なのだということを教えられる。
一人ひとりの「生き甲斐(がい)」をプロデュースする(図1)
図1 暮らしの4本柱:育む・経験する・働く・住む
(拡大図・テキスト)
生き甲斐という言葉がある。文字どおり、「生きる」意味である。
障がいがあろうとなかろうと、人にはこの世に生を受けている意味があってほしいと思う。
むそうの就労支援系サービスを利用する方は、子どもの頃からむそうの児童デイサービス、居宅介護や外出支援のサービスを利用している。
子どもの頃は、持って生まれた障がいにはリハビリを、環境が恵まれないために発達が遅れる「二次障がい」を起こさないようにする療育を徹底して提供する。【育む】
学齢になると、さまざまな社会体験を積み、夏休みなどに意識的に就労に繋(つな)がる体験もして、一人ひとりの「生き甲斐」に繋がる労働は何かを見立てる。【経験する】
企業に就労できそうな人は、企業にむそうスタッフが付き添って適応を図る。
企業が難しそうな人は、むそうの就労支援系サービスの体験をする。
むそうのどの就労支援系サービスでも生きいきと活動ができないと分かった人がいると、その人の好きなことやこだわりなどから、その人に合う就労支援系サービスを卒業までに用意する。【働く】
そうやって、むそうの就労支援系サービスは、多様なサービスメニューに育っていった。
また、就労支援を使い始めて3年ほどすると、家庭からグループホームへの自立を促していく。【住む】
生活の場の安定なくして、就労支援の継続はない。親なき後の本人の看取(みと)りまでを含めて、暮らしの継続を見通していく。
「地域密着・小規模点在型」日中活動系サービス(図2)
図2 「日中活動系サービス」運営イメージ
(拡大図・テキスト)
「ノーマライゼーションとは、普通の地域の普通の家に住むこと
知恵遅れだからといって、20人、50人、100人の他人と大きな施設に住むことはない
それは地域社会から孤立してしまうことだから
普通の場所で、普通の大きさの家に住めば、地域の人達の中にうまくとけ込める」
スウェーデンのノーマライゼーション思想の父と呼ばれるベンクトニィリエの言葉だ。
特別な建物、特別な環境は、一般市民から見れば、障がい者は、このような特別な対応をしないといけない人なのだという偏見を生むものになると彼は指摘している。
むそうでは、グループホームも、一般の建物からその外観が外れるような物にならないように配慮をしているし、就労支援の場も同じ考え方を持っている。
1人のスタッフに3人の障がいのあるメンバー、車が1台とひとつの就労支援の場。
このユニットが、むそうの就労支援の基本形となっている。
この仕組みは、相性が悪い者同士が空間を共有することで起こる問題なども切り分けることができるし、何より多様な仕事を障がいのあるメンバーに選んでいただくことができる。
障がいのある人が少ない人数でいるので、地域の一般市民からも受け入れられやすい。
(とえだひろもと 社会福祉法人むそう理事長)