音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

フォーラム2015

便利な情報をすみずみまで
ウェル★ラボ~みんなで解決!福祉機器アイデアポータル~

硯川潤

1 ググる

微妙な距離感の友人の結婚式に呼ばれたけど、ご祝儀はいくら包めばいいだろう?お中元を贈る時期が過ぎてしまったけど、表書きはどうすればいいんだろう?

こんな疑問が生じたとき、皆さんはどうやって解決するだろうか。周りの知り合いに聞いてみる、本屋でマナー集を立ち読みする、とりあえず親に電話する、などなど。しかし近年、従来の相談相手に勝るとも劣らない強力な助っ人が現れた。米国のGoogle社が提供するインターネット検索エンジンである。

「微妙 友人 結婚式 ご祝儀」「お中元 時期 過ぎた」などの検索ワードを入力すると、たちどころに含蓄あるアドバイスが提示される。微妙な距離感の友人、などという微妙なニュアンスの含まれた文章がこんなに存在するなんて、と筆者も驚きを禁じ得ない。研究室の会話でも「それくらいググれよ」などと、Googleから知識を引き出す行為はもはや一般化し、検索すればわかる程度の質問で相手をわずらわせないための大人のたしなみといった感さえある。ラ行五段活用の動詞となったのは日本だけの話ではなく、「Google it!」と、こちらも本家米国からの輸入品である。

しかし、本当に頼りになるのは検索エンジンではなく、インターネットの向こう側にいる書き手である。おそらく、マナー集の著者よりも一般人に近い無名の情報提供者だ。グーグル先生(動詞化では飽き足らず、擬人化されもしている)の貢献は、公共図書館○○館分という、もはや多いのか少ないのかさえもわからないカウントの文字情報量を誇るインターネットから、所望の情報の在(あ)り処(か)を瞬時に提示してくれるという類稀(たぐいまれ)な交通整理能力にある。

忘れてはいけないもうひとつの功労者は、国内の検索・ポータルサイト大手が運営する「Yahoo!知恵袋」や「教えて!goo」に代表される、日常の疑問解決のための知識共有サイトであろう。尋ねればかなりの確率で誰かが答えてくれる、というポイント制プラットフォームのおかげで、日々の疑問と回答が文章化され、検索可能な状態でインターネットに収載されたのである。確かに、パソコンのソフトウェアに関する専門的な情報などは、セミプロが発信するブログやコミュニティサイトの記事が検索の上位に提示されることも多い。だが、ブログにして発信することもはばかられそうな日々の些細(ささい)な疑問に関しては、これら知識共有サイトの問答集が圧倒的な地位を占めている。

2 福祉機器版の知識共有サイトとして

本稿で紹介する「ウェル★ラボ Welfare Lab. ~みんなで解決!福祉機器アイデアポータル~」は、こういった日々の疑問を解消する知識共有サイトの福祉機器版としての役割を狙って開設したウェブサイトである。

障害者の日常は、聞くに聞けない疑問で溢(あふ)れかえっている。筆者はここ5年ほど、福祉機器の当事者参加型デザインワークショップを運営しているが、多くの参加者が「誰に聞いたらいいのかわからない」福祉機器の悩みを抱えていた。一応筆者は福祉機器の専門部署で仕事をしているが、こういった疑問に明確な答えを提示できたという誇らしい記憶はあまり多くない。大体の場合が、「○○という業者に聞いてみたらわかると思いますが」と、know whoをお伝えするのが精一杯である。

「ググってみれば」と気軽に言えない理由は2点ある。一つは、インターネット上に存在する情報量が圧倒的に少ないということ。積極的に、ご自身の福祉機器について詳細を発信されている方が増えてきたものの、やはり十分な量には程遠いと言わざるを得ない。もう一つは、キーワード検索の難しさである。前述のワークショップ参加者の中には、「自助具」という言葉をご存じないがゆえに、所望の情報をGoogleから引き出せずに苦労されていた方がおられた。確かに、自助具という言葉はどこかで教えてもらわない限り、知ることはなさそうな単語である。ある専門用語の定義を調べるために、「○○とは」と、助詞も含めたキーワードを設定するというよく知られたコツがあるように、検索ワードの良し悪しで、グーグル先生の助言には大きなばらつきが生じてしまう。

このような、福祉機器に関する情報の量と検索の質の問題を解決することを狙ったのが、ウェル★ラボである。

3 フェイスブックの利用とアーカイブ

ここで一つの問題が頭をよぎる。筆者は、Yahoo!知恵袋や教えて!gooを愛用しているが、自分で質問を書き込んだことはない。回答を付けたこともない。それどころか、質問したり回答したりといった積極的なアクションをとったことのある人に会ったことさえない(会っただけではわからないので、会ったことはあるかもしれないが、少なくとも会話をする中では見当たらなかった)。さらに、それらサイトのトップページにすらアクセスしたことがない。いつもGoogle検索経由で、たまたま上位に提示されたに過ぎない。

従って、以下の2点に注意する必要がある。まず、こういった知識共有サイトの利用者は、見るだけで書き込まない人が非常に多いということ。そしてもう一つは、質問・回答が検索エンジン経由で利用者に提示されることが重要であるということだ。

そこで、ウェル★ラボは図に示したような構成になっている。質問の投稿とそれに対する回答などは、すべてソーシャルネットワークサービス(SNS)の代表格であるフェイスブック上でやり取りされる。SNS内の既存の人的ネットワークを利用することで、積極的な参加を促す狙いである。しかし、フェイスブック上の記事は一般の検索エンジンには見えない仕様となっている。そのため、そこでのやり取りは、障害種別・生活シーン・関連する福祉用具などのラベルを付けられ、検索可能な専用アーカイブサイトのデータベースに収録されていく。もちろんこのアーカイブサイト上のデータは、一般の検索エンジンからも検索可能である。

図拡大図・テキスト

このサイトは、2015年の1月にオープンした。質問と回答、というやり取り以外にも、自身が日頃取り入れている工夫の発信や、福祉機器を使ってみた感想・体験など、さまざまなアイデアが共有されていくことを期待している。まだ開設からの日が浅く、情報の質・量ともに不十分であるが、多くの方に使っていただきながら改善点を見つけていきたいと思っている。読者の皆様にも、ぜひアクセスしてご活用いただきたい。

・ウェル★ラボ フェイスブックページ:https://www.facebook.com/welfarelab2015

・ウェル★ラボ アーカイブサイト:https://wel-lab.jp/

4 使うためのイノベーションを目指して

ウェル★ラボは、(独)日本医療研究開発機構・障害者対策総合研究開発事業「支援機器イノベーション創出のための情報基盤構築に関する研究」(研究代表者:加藤誠志 国立障害者リハビリテーションセンター研究所顧問)という研究プロジェクトの一環として開設された。とかく滞りがちな福祉機器に関する情報の流れを、いろいろな仕組みを導入することでスムーズにし、知りたい人に確実に届けられるようにすることが目的の一つである。

イノベーションという言葉は、一見華々しい未来の技術を思い起こさせる。確かに、画期的なロボット技術やセンサ技術を導入した新しくて便利な福祉機器の登場は魅力的である。しかし一方で、現実問題として、今目の前にある不便を解消してほしいという声もしばしば耳にする。そのためには、今ある福祉機器をしっかりと活用できるようにすることも、一つのイノベーションであり、福祉工学者としての責任であると感じている。検索エンジンと知識共有サイトが日々のちょっとした疑問を解決してくれるように、「誰に聞けばいいのかわからない」福祉機器の悩みを、ウェル★ラボを通して少しでも解決できれば、望外の喜びである。

(すずりかわじゅん 国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部福祉機器開発室長)