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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

障害者権利条約「言葉」考

「搾取、暴力、虐待」

山本眞理

障害者権利条約第16条は搾取、暴力及び虐待からの自由を掲げている。障害者が障害のないものに比べて、搾取、暴力及び虐待にさらされ続けている実態があるからといえよう。

今年になって、テレビなどでの虐待や暴力・搾取について見てみよう。

下関の通所施設「大藤園」の虐待事件では、たとえばこんな場面が流れていた。作業中の部屋で、いきなり「バカタレ!」「飯くわさんぞ」という罵声、平手打ち、胸ぐらをつかんで怒鳴りつける、段ボール箱を投げつける、ハサミを持って振り回して脅す。

また、千葉県の石郷岡病院では、2012年1月に保護室で看護人に暴行を受けた患者が首の骨を折られ植物状態となり、さらに2年後に死亡した事件がある。警察は事件後の家族の訴えにもかかわらず動かず、ようやく死亡後に動き始め2人の看護師を傷害致死で逮捕した。

榎本クリニックという東京のクリニックが、生活保護受給者を劣悪な住宅に囲い込み、あるいは生活保護を停止するという脅しで彼らを管理していたことが暴露された。毎日10時間の意味のないデイケア・ナイトケアに強制的に通わせ、生活保護費もクリニックに送らせ、本人にはデイケア・ナイトケアに参加したら少額の小遣いを渡す、あるいは現金を一切もたせずプリペイドカードのみで職員と一緒にしか買い物もさせない、などという搾取である。

マスコミでは報道されていないが、特別支援学級や特別支援学校での教師による虐待も訴訟となっている例がある。

こうした暴行・虐待あるいは搾取は、障害者が分離・隔離されている状況のもとで行われていることが特徴である。障害者の言うことだからと誰にも相手にされない、あるいは表現を理解されない、密室ゆえに証拠がないなどもあるが、それだけではなく通常の場での虐待暴行は犯罪となるのに、施設・精神病院では犯罪とすらならない、警察が動かないという例は石郷岡病院の事件のみならず、あまりに多すぎる。障害者は犯罪被害者にすらなれないという差別である。

日本には障害者虐待防止法があるが、有効に機能していない。一つは学校や病院が通報義務の対象外になっていること、さらに予算措置が不十分であり、通報があったとしても有効に動ける調査解決のための機能が存在しないという問題、独立した監視機関が存在しないことがある。国連拷問等禁止条約委員会・人権委員会が求めるように、独立した監視機関が精神病院及び施設などに対して必要である。今年は障害者虐待防止法改正の行われるべき年であるが、いまだ厚生労働省にその動きもない。

(やまもとまり 全国「精神病」者集団会員)


【参考資料】

1)全国「精神病」者集団サイトhttp://www.jngmdp.org/→虐待防止法

2)「賃金と社会保障」No1638 2015年7月下旬号「障害者虐待防止法改正に向けて」山本眞理