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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

かるたを通したコミュニケーション
点字付き百人一首~百星の会

関場理華

「目が見えなくても百人一首を楽しむことはできないかしら?」という全盲のお母さんの問い掛けから私たちの試行錯誤は始まりました。

百人一首に点字を付ける試みはそれまでにもありましたが「点字を読もうと札に触れただけで位置がずれてしまう」「百枚使うため競技時間が長い」等々改善すべき点が多く、一般的に普及はしていませんでした。

そんな時に、メンバーの一人が「五色百人一首」という学習教材を見つけたのです。子どもたちが古典に親しめるよう、百枚の札を五組に分け、20枚だけで対戦します。競技に掛かる時間も5分の1になるため、学校生活の休み時間でも気軽に楽しむことができると、全国の小中学校に普及していました。

「これだ!20枚だけなら、位置を固定する用具さえあれば、視覚に障がいがあっても場所を記憶し、その場所にスッと手が伸びて、札を取ることができるのでは…!」とひらめいたメンバーが、早速手元にあった厚紙を切って枠を作りました。次に、実際に全盲の人に、点字を付けた札を、好きな位置に嵌(は)め込んでもらって、試合をしてみたのです。

結果を見て驚きました。歌を読み上げられると、正確に20枚の中から選んで、札を取ることができています。暗記している歌であれば、晴眼者よりも早く取ることもできて、勝負の結果も互角でした(※ハンディ付き)。

「目が見えなくても、『五色百人一首』と枠を使えば、百人一首はできる!」と、確信を持った私たちは、その後、点字サークルの集まり等に持っていっては紹介し始めました。どこでも評判は上々です。

しかし、「どこで手に入るんですか?」と聞かれると、返事に困りました。すべてメンバーの手作りで、家事とパートに追われながら、空いた時間に眠い目をこすって作成していた用具なので、量産することができません。「点字付き五色百人一首」はその性質上、選手一人ひとりに必ず1セットが必要で、その1セットを作り上げるためには、1か月の時間が掛かるとなると、試合も成り立たないのです。いつしかこれら試作品は、メンバーの家の押し入れの片隅に追いやられるようになりました。

再び光を当てたのは、東京都新宿区社会福祉協議会の職員でした。「これは面白いですよ!目が見える人も見えない人も、一緒に楽しむことができます!」。でも、私たちの力では無理なので…と告げると、「それでは、社協に登録しているボランティアの力を借りましょう!」と、すぐに呼び掛けられ、点訳・音訳グループや木工製作のボランティアの方々が集められて、半年後には、新しい立派な枠(「かるた台」と命名)と点字札が、選手10人分も作成され、社協の「視覚障害者交流コーナー」に常備されたのです。

普通ならここで、メデタシ、メデタシ…となるところなのですが、また新たな問題が発生しました。日本で初めての試みなので、誰もやり方が分からず、手に取る人も無いまま、棚に置かれたままになってしまったのです。

ガッカリする私たちを前に、社協の職員はさらに「知られていないのなら、助成金を申請してさらにセットを増やし、盲学校や施設に紹介しに行ってはどうでしょう?」と提案しました。ええい、こうなったら乗り掛かった舟だ!と腹を括(くく)ることにしました。

助成金で再度、ボランティアの方々に増産していただいたかるた台を100台と、点字付きの札を持って、大阪・埼玉・千葉・神奈川・京都・静岡・愛知・福岡等で、体験会や用具の電話説明、そんな不眠不休の普及活動(!?)の甲斐あって、全国に散らばる百人一首のファンと繋がることができました。

特に用具類は好評で、軽くて丈夫なかるた台も、点字のレイアウトに工夫を凝らした札も、多くの人に「これがあれば百人一首ができる!」と自信を持ってもらえるものばかりでした。札は点の高さにまでこだわり、中途失明の方に分かりやすいようにと、「点字サークル トータス」が、タックシールを点字プリンタに2度通すという手間を惜しまず掛けて、ハッキリした点を出現させたのです。こうしたボランティアの方々の心配りが細部まで行き届いている用具なのです。

心配されていた東京のかるた会の参加者も徐々に増え、活動もだんだんと軌道に乗ってきた時に、またまたピンチが訪れました。「このやり方じゃあ、どちらが勝ったのかが分からない!」という不満の声が出始めたのです。

もともと「点字付き五色百人一首」は、選手の数だけ札があるため、誰がどのタイミングで札を取ったか、審判に判定してもらわなければ勝敗が決まらないジレンマがありました。一般の百人一首のように、1枚しかない札を取り合うのであれば勝敗は明白なのですが、数人の選手の声が重なり合うように響いてほぼ同時に札を持った手が上がる「点字付き五色百人一首」では、審判がよほど耳を峙(そばた)たせ・目を走らせていないと、選手のスピードアップとともに、判定がどんどん難しくなってくるのです。そして「同時」と判定が下れば、勝敗はじゃんけんで決めるため、「この百人一首は暗記力よりも、じゃんけんの練習をした方が勝てるんでしょうね」と嫌みを言われたこともありました。

その状況に一石を投じたのが、現・全日本かるた協会の松川英夫会長です。初期の頃より、主宰されるかるた会「東京・東会(あずまかい)」の先生方と審判・読み手・かるた指導をかってでてくださっていた松川会長は、ある日、一般の練習会に私たちを招待し、選手たちのすぐ後ろの畳に座るよう勧めてくれました。

そこは、札を取る際の畳をこする音や、取れなかった選手の舌打ちまで聞こえてくるような、目が見えなくても試合の臨場感が感じられる場所でした。さらに、札が1枚1枚読まれるたびに刻々と変わる戦況を、会長が解説してくれたのです。試合終了後、気分が高揚する私たちに向かって会長は「どうです?百人一首って面白いでしょう!じゃんけんで勝敗がついたって、つまらないでしょう?」

帰り道、私たちの間からは自然に「点字付きの札で、今日のような試合ができるようになりたい!」という声が出始めました。それからさまざまなアイデアが出され、またそれをすぐ形にして、みんなで使ってみて改善する日々が続きました。点字を日常的に使っている当事者が揃(そろ)っているので、より使いやすいアイデアが生まれ、また、それらをすぐに手作りできるところが、既製品を使っていない私たちの会の強みです。

そうして「相手と一組の札を取りあえる札=相対札」は生まれました。その試合は、札が読まれた瞬間、相手の陣地まで札を取りに行こうと手と手が交錯する迫力が「一般の百人一首とほぼ同じ」と評価されています。

私たちの会では百人一首だけでなく、点字が苦手な弱視者も触れて分かりやすい「坊主めくり」や、「おやじギャグかるた」等々も点字札を作って、かるたを通したコミュニケーションの場の創設を目指しています。

視覚に障がいをもつ皆さん!なんでもパソコンで終わらせてしまって、ついつい外出が億劫(おっくう)になってしまっていませんか?私たちと一緒にかるた取りを楽しんで、人と人との生のコミュニケーションを復活させましょう!

(せきばりか 点字付き百人一首~百星の会)