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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年1月号

フォーラム2016

精神科病院への訪問活動から考える権利擁護

山本深雪

認定NPO大阪精神医療人権センター(以下「当センター」)は、1985年11月に任意団体として設立して以降、「精神病院に風穴を開けよう」をスローガンに、精神科病院に入院中の精神障害者からの人権侵害の訴えを受け止め、実態改善に導く活動を続けてきた。

諸外国の多くでは、治療を終えた患者は退院をして地域で暮らすべきだという方針に対し、日本では30万人を超える精神障害者が精神科病院に入院し続けている。また精神科病院は、本人の意思に因らない強制入院や隔離・拘束があるにもかかわらず、他科より職員数は少なく抑えられており、閉鎖病棟が6割を超える状況が虐待の温床となっている。当センターでは、安心してかかれる精神医療の実現に向け、患者の立場の第三者機関として下図の活動を行なっている。


図1拡大図・テキスト

2015年11月発行の「扉よひらけ7~大阪精神科病院事情ありのまま2015~」は、この中の「病院訪問」の報告が中心となっている。

精神科病院への訪問活動について

(1)訪問活動開始のきっかけとなった大和川病院事件

当センターは、入院患者への暴力や搾取等、数多くの人権侵害を起こし続けていた安田系3病院事件(いわゆる大和川病院事件)に1993年から関わり続けてきた。病院側による数多くの面会妨害や告訴等の圧力を受けながらも患者の訴えや職員の内部告発等に耳を傾け続け、行政やマスコミに訴え続けた。

その結果、大和川病院に「収容」されていた多数の患者が退院あるいは他の病院に転院できたとともに、同病院は、1997年大阪により病院開設許可が取り消され、廃院となった。

当センターの代表及び事務局長は、大和川病院事件の再発を防ぐために、1998年3月以降、大阪府精神保健福祉審議会に委員として参加し、当センターで取り組んでいた病院訪問活動と退院促進事業の制度化を提言した。その結果、病院訪問活動は2003年に大阪府で制度化された。退院促進事業は2000年に大阪府で制度化され、2006年に自立支援法で全国レベルの制度となった(現在の制度名称は、「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」)。

(2)精神科病院への訪問活動の必要性

現在も、訓練を受けた当センターのボランティアが、大阪府内にある精神科病床のある全病院(59病院、約2万床)への訪問活動を実施している。患者の意見を病院に伝え、改善を見届けてきた。入院患者は、患者という立場の弱さから感じていることを病院職員に伝えられないことが多い。当センターが訪問することで、患者は間接的に病院に伝えることができ、病院は市民の視線を浴びることで閉鎖性を減らし、風通しを良くすることができる。全国に同様の活動を行う団体が複数あるが、すべての病院を訪問しているのは大阪の当センターだけである。

2015年6月には千葉市の石郷岡病院、9月には、新潟県立精神医療センターの隔離室での看護職員による患者への暴行事件が報道された。精神科病院における虐待事件は後を絶たない。第三者による入院中の精神障害者に対する権利擁護の仕組みは、大阪だけでなく全国に必要である。

(3)訪問活動によって改善された例

これまでの訪問活動で、病院に対して改善や検討をお願いした項目と病院からの回答の一例を紹介する(詳しくは「扉よひらけ7」に掲載している)。

●トイレ個室についている鍵が高い位置にあるため、鍵をかけにくい

病院の回答:鍵を多くの患者が使いやすい位置に早急に変更します。

●トイレ個室にトイレットペーパーが設置されていない

病院の回答:設置しました。/今後、病院の経費として購入を検討します。

●隔離室内のトイレに囲いがなく、職員用通路から患者がトイレを使用する姿が丸見えになる

病院の回答:格子側の通路にまわる時は、必ずトイレ使用中でないことを出入口の窓から確認することを職員へ徹底させる。格子側の通路についたてを置き、患者が外部から見られることに対する不安を少しでも解消する。

●病棟の窓に鉄格子がついている

病院の回答:撤去することを検討する。/撤去した。

●薬は患者が詰所やデイルームに取りに行く

病院の回答:病室で薬を渡すことを原則とし、デイルームで配薬する場合は座って待っていただくこととした。今後改善していく。

●使用後のポータブルトイレの処理について

病院の回答:使用後、速やかに処理を行うようにする/運ぶ際には蓋(ふた)をするようにスタッフの教育を行う/排泄物は患者にとっても他の人に感づかれることは恥ずかしいものであり、看護者としては細やかな気配りをしなければならないと思っている。改善する。

●公衆電話の設置場所が詰所前や人通りの多い所にある

病院の回答:パーテーションを設置する/電話の移設により、周りの環境から電話のスペースを独立させ、周囲を気にせず電話が利用できる環境を整備する。

●権利擁護機関連絡先の掲示が高い位置で見にくい・掲示がない

病院の回答:車いす利用者からも見やすい位置に貼りなおした/男子トイレの便器の前の壁に立てかけられていた。そこは本来の場所ではないため、公衆電話の横に置き直した/通常は掲示しているが、剥(は)がされることもある。今後は剥がされないような枠を設置し、掲示するよう検討している。早急に取り組む。

●退院のための相談・情報提供について

病院の回答:掲示されている精神保健福祉士の業務内容を入院時の案内や病棟に掲示するようにしたい。常勤精神保健福祉士の増員を図る/地域の社会資源についての情報提供ができるよう努める/将来的に数値目標を掲げて退院に向けての取り組みを行なっていきたい/退院の話を「はぐらかされている」という患者の声をすくい上げる看護、生活支援を検討し、周知の機会を持つようにする。

(4)安心してかかれる精神医療にするために

訪問活動で聞かれた患者の声、病棟の様子、病院との意見交換の内容などをまとめ、ニュースレターやインターネット、冊子等で公開している。患者・家族や市民の方々が、これらの情報をもとに病院を選ぶことができるよう、「患者の視点に立った情報」の提供に努めている。その一つが今回発行した「扉よひらけ7」である。どうか全国の各地でも「扉よひらけ7」を手に取っていただき、精神科病院の実情を知り、入院中の精神障害者の権利擁護活動の参考としていただきたい。

(やまもとみゆき 認定NPO大阪精神医療人権センター副代表)


※「扉よひらけ7」(2,000円)のお申し込み・お問い合わせは、認定NPO大阪精神医療人権センターまで。
〒530-0047大阪市北区西天満5ー9ー5谷山ビル9F
電 話:06-6313-0056
FAX:06-6313-0058
メール:advocacy@pearl.ocn.ne.jp
お名前、郵便番号、住所、電話番号と必要な冊数をご連絡ください。ホームページ(http://www.psy-jinken-osaka.org/)からもお申し込みいただけます。

扉よひらけ7表紙拡大図・テキスト

目次

  • 大阪における精神科病棟への訪問活動のうつりかわり
  • 療養環境サポーター制度とは
  • 各病院の訪問報告
  • 各病院の職種別職員数一覧表
  • 精神科病院訪問ボランティアへのインタビュー
  • 入院中の精神障害者の権利に関する宣言