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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年1月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

福祉からの脱却をめざして
―ほのぼの屋姉妹店「BONO」オープン―

内海あきひ

あゆみ

社会福祉法人まいづる福祉会は、その前身である「まいづる共同作業所」の設立から39年目を迎えました。養護学校卒業後、在宅を余儀なくされていた人たちを含めて、障害者が働ける場所として開所したプレハブの小さな作業所。職員は来る日も来る日も仕事探しに明け暮れたと聞きます。ただ、長い間内職的な下請け作業が中心でした。いろいろ仕事を模索し続けても支払える給料は1~2万円がやっとだったそうです。

もっと給料保障をしていきたいと、1998年に、西澤 心(にしざわしん)氏が施設長となり、小さな古本屋をオープンします。これが、まいづる福祉会のお店屋さん第1号になりました。内職的な作業ではなく、工務店の下請けの仕事や市のゴミ選別作業など施設外就労もコーディネートし、4~5万円の給料を支給できるようになりました。そして、2002年に本格的なフレンチレストラン【CAFE RESTAURANTほのぼの屋】のオープンにこぎつけます。

あれから14年目。お客様からの要望でブライダルも手がけ、すでに300組を超えるカップルの新しい門出をお手伝いさせていただいています。その様子は、2008年6月号『ノーマライゼーション』のグラビアにおいて紹介していただきました。

ほのぼの屋のメンバーから学んだこと

私たちにとって、この本格的なレストラン事業の経験は、本当に大きな大きな宝物になっています。当時、精神障害者の授産施設としてスタートしたほのぼの屋でしたが、専門家も含めて周囲の人たちからは「障害のある人にとって、特に精神に障害がある人にとって、接客業は無理なのではないか…」という不安の声が多く聞かれたのを思い出します。私たちスタッフにも不安がなかったわけではありません。ただ、『どうしても彼らに給料保障をしたい!ノーマライゼーションと言える生活に少しでも近づけたい!』その一心で大きな一歩を踏み出しました。西澤 心(当時施設長:現在病休中)を先頭に無謀とも思える挑戦でした。

私は西澤 心という存在がなければ、『ほのぼの屋』は生まれていないと思っています。無謀と思われたこの計画も、実は西澤氏の中では、緻密な計画とそれまでの経験から裏打ちされた確かな自信があったのかもしれません。もちろん、多くの協力者の力をお借りして成し得たことは言うまでもありません。あの頃、西澤氏に「障害のある人への一番必要な支援は何ですか?」と聞くと、彼は「お金!(給料)」と迷わず答えていました。世の中、お金じゃないと言う人もいますが、1か月2万円で生活できますか?障害基礎年金だけで暮らしていけまますか?障害があるから仕方がない…そんなことは許されることではないということです。そういう強い思いは、私も含め他のスタッフにも当然伝わり、スタートすることができました。実際にお店がオープンすると、途絶えることのないお客様に、うれしい悲鳴をあげながら、息衝く暇もない日々の中で一緒に働く障害があるメンバーたちは、確実に変わっていきました。

最初は一人ひとりが点でばらばらの働き方だったのが、チームワークが生まれてきました。お客様が喜んで帰って行かれる様子を身をもって感じ、「もっと良い仕事をして満足してもらいたい」というプロ意識が芽生えるほどになりました。もちろん、これは一朝一夕でできることではありません。毎日毎日、職員もメンバーも一緒になって、ひたすらお客様の満足を目指して仕事をしてきた結果です。

「働く中でたくましく」という言葉があります。これは共同作業所運動の原点です。ほのぼの屋のメンバーたちは、まさに働く中でたくましく、障害があっても働けるということを証明し、障害があるからと、周りが勝手に諦(あきら)めてはいけないことを突き付けてくれました。あるメンバーが「生まれて初めて自分の仕事に誇りが持てた」と言いました。本当はみんな働きたい!役に立ちたい!と思っています。問題は支援する側にあると言えます。障害があるからできないと障害のせいにせず、どう工夫するかを一生懸命考え、実行することだと思います。

ほのぼの屋メンバーの給料は、現在平均8万円。多い人は15万円を超えています。年金を合わせると何とか自立し一人暮らしが可能になる額です。十分ではありませんが、経済的な基盤ができると彼らの夢や目標がより現実のものとなり、おしゃれを楽しむ、休日に誘い合ってお出かけ、一人暮らし、恋愛、結婚、子育てと夢をどんどん実現していきました。

働くってしんどいことだ

楽しく働く…という言葉も福祉の分野ではよく聞きます。また、障害があるからしんどい仕事はかわいそう~障害がある人に夜、働いてもらうのはよくない。そういう考え方がまだまだあるように思います。でも、本当にそうでしょうか。仕事はしんどいものです。しんどい仕事を本当にやりきった後の達成感は、やりきった人でなければ分からないものです。その経験は自信となって表れます。忙しければ忙しいほど生き生きと働く姿を私たちは見てきました。時には、くたくたになるまで働いて「忙しいなぁ!」と言いながら顔は笑顔です。

念願の姉妹店【cafe/bento/marche BONO】オープン!

ほのぼの屋の実践から、私たちは障害がある人たちの働く場づくりにこだわりたいという思いがさらに強くなりました。まいづる福祉会の中にももっと給料がほしいと願う人たちがたくさんいました。また、支援学校卒業生や、働く場所がなく在宅を余儀なくされている人たちもまだまだおられます。そのため、新しい事業を興すことは急務でした。

いろいろな困難を乗り越えて、4年の準備期間を経て2014年12月5日、ほのぼの屋姉妹店と言える『BONO』(ボノ:ほのぼの屋のボノです)をオープンさせることができました。クールな墨色の外壁…店内に入ると、舞鶴湾が見渡せる明るく開放的なカフェスペースが広がります。コンセプトは『快活な大人の空間』。ワンプレートランチやパンケーキ、スムージーが評判です。明るく誰もが利用しやすいカフェやマルシェでは、障害あるメンバーが心を込めて接客します。しっとりと落ち着いた雰囲気のほのぼの屋とはイメージをガラリと変えています。

しかし、変わることなく大切にしていることがあります。それは徹底した掃除です。開店前の1時間、BONOでも全員で念入りに掃除をします。厨房での鍋洗いや皿洗い、料理補助もメンバーの仕事です。ゆっくりでも丁寧に。いくら忙しくてもあわてません。それが、お客様に迷惑をかけない最善の方法だからです。

現在、BONOのメンバー(利用者)は23人(カフェ18人・米屋5人)。給料は4~6万円。まだまだ目標の自立可能な額には届いていませんが、ほのぼの屋のメンバーを目標に、きっと、BONOのメンバーたちも仕事を通して本来の持てる力をもっともっと発揮してくれると信じています。私たちスタッフは、それぞれが経営感覚を身につけ、売り上げアップを目指していきます。

私たちのこれから

給料が2~3万円しか支払えなかった時代。彼らの悩みは明日、どうやって生きていくかということでした。

今、彼らの悩みは恋愛のこと、将来のこと、夫婦の間のトラブル、子育ての悩み…。まさに、悩みそのものもノーマルになってきていることに気づきます。

でもまだまだです。全員雇用が実現しなければ、本当の意味でのノーマライゼーションはないと思っています。

(うつみあきひ ワークショップほのぼの屋施設長)