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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

40歳問題(特定疾病に該当する2号被保険者たち)

青木志帆

1 40歳でも高齢者と一緒にデイサービス

介護保険法が対象とする「要介護者」の大部分は、「要介護状態にある65歳以上の者」である(7条3項1号)。ただ、同条には2号があり、そこには「要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって」政令で定める特定疾病によって要介護状態になった者も介護保険の対象になる。前稿で65歳問題を紹介したが、障害が特定疾病該当疾患に起因する場合、40歳を境に同じ問題が発生することになる。それだけではない。比較的若年であることから来る福祉サービスの深刻なミスマッチという、40歳問題特有の論点も生じる。

たとえば、脊髄小脳変性症という運動失調を主な症状とする神経疾患がある。介護保険法の特定疾病であり、発症年齢も比較的若く、20代でも罹患する上、進行は緩慢であることが多い。そうすると、治療と並行して生活支援が必要となる。ところが、比較的軽度の者が、日中の活動場所としてデイサービスを利用しようとした場合、利用できる施設は介護保険法に基づく施設、つまり利用者の大半が65歳以上の高齢者施設である。それまで障害福祉サービスである生活介護を利用していた者が、40歳を境に高齢者用のデイサービスに通うことを強制されることになる。

補装具の問題もある。関節リウマチの患者は、歩行時の足の痛みを緩和するため、フルオーダーの介護靴を作ることがある。総合支援法上の補装具の扱いならば、所得次第で全額公費負担も可能だ。しかも総合支援法が改正されたことにより、関節リウマチは支援の対象疾患として政令で指定されている。このため、身体障害者手帳がなくとも補装具を利用できるようになった。ところが、介護保険法の特定疾病にも該当するので、40歳になると介護保険が優先する。介護保険法の福祉用具だと貸与になってしまう上、補装具のように細かい改造などが利かない。無論、基本的には個別ニーズに基づく支援、という制度趣旨だが、そのニーズが細かい上に対象者も極めて少ない。

明石市も、市の人口は約29万人、うち高齢者の人口は約73,000人(平成27年度)だが、2号被保険者特定疾病件数は、わずか250人程度である。支援の困難性と当事者の少なさゆえ、いざ顕在化すると65歳問題以上に行政窓口で混乱し、結果的に必要なサービスを受けることを妨げてしまう。

2 今回の改正で

今回の総合支援法3年後見直しにおいて、65歳問題に対しては1.低所得者に対する負担軽減策、2.介護支援専門員(介護保険法)と相談支援専門員(総合支援法)との連携促進が対策として盛り込まれた。65歳問題に関する支援とニーズのミスマッチは、一定程度解消するであろう。しかし、40歳問題の原因は介護保険法が、若年の要介護者のニーズにあまり配慮しない制度設計になってしまっていることや、疾病という極めて個別性の高い原因による障害である点をほとんど考慮していないことにあるため、今回の改正によるインパクトはそれほど大きくないだろう。

3 特定疾病制度の制度趣旨と今後の方向性

介護保険法7条1項2号によると、特定疾病とは「加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病」とのことである。介護保険法が成立した平成11年ころは、こうした疾病を65歳よりも早く発症した際、介護などの支援を行う制度は他になかったことから設けられた制度であると考えられる。

しかし、手帳制度を前提とする自立支援法の時代であればまだしも、総合支援法は部分的にも手帳を前提としない「障害者」の定義を採用し、さらに骨格提言や権利条約の水準を目指し、社会モデル化しようとしている。そうであれば、特定疾病が対象としている「加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病」により「要介護状態にある者」も、本来は介護保険法ではなく、総合支援法によって支援が構築されるべきものであろう。

(あおきしほ 明石市障害者・高齢者支援担当課長、弁護士)