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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

障害福祉サービスから介護保険に切り替わる際の現状と課題

新井仁子

障害福祉サービスの利用者が65歳に到達すると、介護保険が優先される。障害福祉サービスから介護保険へ切り替わる際の現状と課題を述べる(表1)。

表1

  項目 障害者総合支援法 介護保険制度
ホームヘルプサービス内容 ・障害支援区分による上限あり
・必要な量の支給決定
・社会参加や余暇活動も範囲
・要介護認定による上限あり
・日常生活に必要な支援のみ
・制約が多い
ケアマネジャー ・計画相談支援 ・介護支援専門員
ホームヘルパー ・ガイドヘルパー等を除き、ほとんどヘルパー2級以上で可能 ・ヘルパー2級以上
・軽度者には簡略化した資格へ
事業所 ・障害福祉サービス特化が多い ・介護保険制度特化が多い
利用者負担 ・応能負担(負担能力に応じる)
(負担能力に応じて支払う)
・応益負担(原則1割負担)
(原則1割負担・負担軽減あり)
自立支援 ・「ヘルパーと共に行う家事」はなく、「家事代行」のみ(横浜市では、精神障害者は「共に行う家事」が可能) ・「自立支援」の考え方から、「ヘルパーと共に行う家事」が主流
インフォーマルサービス ・地域で暮らすための活用が多い ・介護保険サービスに偏っている

1 サービス支給量・サービス内容の違い

介護保険で不足するホームヘルプサービスは、障害福祉サービスで上乗せされるが、支給量は障害支援区分ごとに市町村が定めることとなっているため、実際は自治体の裁量に任されている。

A市からB市へ転居してきた利用者は、ホームヘルプサービスの支給量が減り、ヘルパーに調理してもらうこともままならず、配食サービスと外食で体調を崩した。

介護保険にはない障害者固有のサービスについては利用できる。介護保険にはない「社会参加」や「余暇活動」のための「移動支援」の利用が多いが、市町村事業のため地域間格差が大きく、外出機会を減らさざるを得なくなるケースもある。さらに、介護保険のホームヘルプサービスについては、障害福祉サービスと比較すると制限が多い。

通院介助における院内介助については、院内のすべての時間を算定することはできず、自費で対応することが多い。一方、障害福祉サービスではそこまで厳格に切り分けられているわけではない。

同居家族がいる場合の家事援助は原則利用できない。障害福祉サービスでは、本人に着目するため、介護保険ほど厳格に同居家族のいる家事援助を制限しているわけではない。

他のサービスでは、

  • リハビリ:高齢者に多い生活不活発病(廃用症候群)の予防が主のため、障害特性に合ったリハビリとは言い難い。
  • 福祉用具:貸与へ移行するため、汎用型が多く、障害特性に合う車椅子などがない。

障害福祉サービスでデイサービスに通っていたが、介護保険への切り替えで介護保険のデイサービスしか利用できなくなった。高齢者のデイサービスは平均年齢も80代前後と高齢のため、結局、デイサービスを諦(あきら)めた。

2 ケアマネジャー・ホームヘルパーの資格の違い

ケアマネジャーやホームヘルパーは、各々の資格取得の過程では障害全般の研修について十分とは言えない。「精神障害者ホームヘルパー養成特別研修」が平成18年に廃止されたため、ホームヘルパー2級でもサービス提供できるようになっている。介護保険法改正では、規制緩和して2、3日程度の簡易な研修で軽度者へのホームヘルプサービスができるようになる。

事業所においても、障害福祉と介護保険のどちらかしか実施しない事業所が多いため、介護保険へ移行した途端、慣れ親しんだ事業所から、障害者へのサービス提供経験の少ない事業所へ移行することになる。

3 利用者負担の違い

ほとんどの障害福祉サービスは利用者負担がないが、介護保険では原則1割となる。本年5月、65歳になるまで一定期間、障害福祉サービスを利用していた低所得高齢者の介護保険の利用者負担を軽減する改正案が成立した。具体的な要件は今後、政令で定めることになっているため、現時点では「40歳以上で介護保険と障害福祉サービスを併用しているALS患者などは軽減を受けられない」などの課題が残されている。

介護保険を利用すると生じる1割負担を避けるために、介護保険を申請しないケースもある。介護保険は申請主義であり、利用者が介護保険を申請しなければ介護保険を利用することはできないという矛盾もはらんでいる。

4 自立支援の考え方の違い

ヘルパーと一緒に家事をしたいという知的障害者がいるが、障害福祉サービスにはヘルパーが代行する制度しかない。逆に、介護保険は法第1条で「自立支援」を掲げ、「自立支援のためにヘルパーと一緒に家事をしましょう」と言われ、無理をしてしまうケースもある。

5 インフォーマルサービス活用の違い

ケアマネジャーは、介護保険のサービスのみのケアプランが多いことが課題として挙げられている。

厚生労働省は、自治体に対して「個別の状況に応じて、介護保険サービスだけでなく、障害福祉サービスも受けることができる」ことを通知したが、実際の対応は自治体の裁量に任されており、サービスの地域格差が生じているのが現状である。

5月、障害者の高齢化に対応して改正障害者総合支援法が成立した。制度のはざまで、自立への意欲や生活の継続性が阻害されないような改善に期待するところである。

(あらいじんこ (社福)横浜市福祉サービス協会 神奈川介護事務所所長)