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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

スウェーデンにおける高齢障害者への福祉サービス
―高齢&障害、高齢or障害?

松井芳子

重い機能障害を抱えて高齢期を送る。スウェーデンの高齢障害者はどんな生活を送っているのだろうか。ノーマライゼーションの原理には、ライフサイクルのノーマルな発達プロセス/ステージを経験する権利が提唱されている1)。今日の障害福祉政策2)においても、どの年齢の障害者も社会生活へ完全に参画するように社会を整備していくという目標が記述されてある。では、今の社会を生きる高齢障害者はどのような支援を受けているのだろうか。まず、スウェーデンの高齢及び障害福祉制度に触れ、高齢障害者がおかれている制度的背景を紹介する。

法的枠組み―高齢福祉及び障害福祉3)

現行の社会福祉制度の根幹を成す法律は「社会サービス法」4)(以下、SoLとする)で、福祉サービス全般について、そのあり方や大枠を規定している。福祉サービスの整備は、コミューン(スウェーデンの基礎自治体)5))が管轄している。コミューンには大きな自由裁量が与えられ、各コミューンがSoLに規定されている枠組みに基づいて、具体的な福祉サービスのガイドライン及び実施計画を策定し、実行する。したがって、大枠は同じでも、福祉サービスの実施状況や優先順位などに、コミューン間で違いが生じている。

高齢政策の目的は、高齢者が安心できる環境の下で自立性を維持し、周囲とつながりを持ちながら意義のある生活を営むことができるようにすることである。この目的に沿って提供される福祉サービスの原則は、高齢者ができるだけ自宅で意義のある生活をしていけるようにすることで、それがかなわない場合に、必要な支援に応じた特別住宅サービスが提供される。

障害政策の目的は、平等と連帯の理念の下に、障害者がほかの人と同じように生活できるように、平等な生活水準と社会生活への完全参加を促進していくことである。そして、福祉サービスは障害者の自己決定を重んじて、提供される。障害政策にはもう一つ大事な法律がある。「一定の機能障害をもつ人々に対する援助とサービスに関する法律」6)(以下、LSSとする)である。障害福祉は主にこの二つの法律に基づいて整備されている。

LSSには、10種の福祉サービスが規定されていて、この法律に該当する障害者にそれらのサービスを受給する権利があることも明示されている。身体、知的、精神障害のいずれの分野も対象としているが、以下に示す三つの障害者カテゴリーのいずれかに該当する人が、サービスを受けられる。

1.知的障害、自閉症、または自閉症的症状を示す人。

2.成人に達してからの外傷または身体的疾患に起因する脳障害により、重篤かつ恒久的な知的機能障害のある人。

3.その他の身体的または精神的機能障害をもち、それが明らかに通常の高齢化によるものではなく、永続・継続的で、かつ大きな障害であり、日常生活に相当程度の困難をもたらし、それゆえ広範囲にわたる援助及びサービスを必要とする人。

これらのカテゴリーのいずれにも該当しない場合、SoLの下で対応される。なお、福祉サービスの提供は、障害者の申請に基づいて、サービスの必要性を査定して決定される。査定されるのは、機能障害そのものではなく、その障害ゆえに生じるニーズがそのサービスによって満たされるかどうかである。また、福祉サービスの整備及び提供の決定を下すのはコミューンだが、実際にサービスを施すのはコミューンだけではなく、近年では、委託という形で市民団体や民間企業も福祉の担い手となっている。

福祉サービスの利用状況

高齢障害者が利用できる福祉サービスを表1にまとめてみた。さまざまな形態の福祉サービスが高齢、障害の両方から提供されている。高齢福祉サービスはSoLの下で、障害福祉サービスについては、SoLの下で提供されるものと、LSSの下で提供されるものとがある。LSSの福祉サービスは、障害者に受給権利があるので、コミューンはそれらを設置しなければならない。

表1 高齢障害者が利用する可能性のある福祉サービス

福祉サービス 福祉分野 法律  
特別住宅
高齢者用特別住宅 高齢 SoL グループホーム、サービスハウス、ケア付き住宅など
成人用特別住宅 障害 LSS グループホーム、サービス付きアパート
短期ステイ 高齢・障害 SoL・LSS 短期間のリハビリや在宅医療を特別住宅で受けるサービス。介護にあたる家族の負担軽減のため、また、退院直後の中間的施設として利用されることもある。
在宅支援
ホームヘルパー 高齢・障害 SoL 対人介助、家事援助、食事配送、緊急通報アラーム
居住支援 障害 SoL 主に精神障害者対象。日常生活のサポート
パーソナル・アシスタンス 障害 LSS 個別介助者援助
その他の援助
ガイドヘルプ・サービス 高齢・障害 SoL・LSS 付き添いサービス。社会生活に参加するために必要な支援を提供する。
コンタクト・パーソン 障害 SoL・LSS 「有償の友人」。主に知的障害者対象。
相談・個別援助 障害 LSS  
日中活動 高齢・障害 SoL・LSS  

一方、SoLの福祉サービスは、基本的にコミューンの裁量に委ねられる。利用者の費用負担にも違いがあり、LSSの福祉サービスは無料で提供されるのに対し、SoLのほうは利用者が収入に応じて費用を負担するものがある。たとえば、ホームヘルパー(SoL福祉サービス)である。

図表1は、LSSの下での福祉サービスの利用状況をサービスごとに年齢別にまとめたものである。それぞれの棒グラフの右端を占めているのが、65歳以上の利用者である。福祉サービスを1つあるいは複数利用していた高齢障害者は、2014年で5,700人7)。10月の時点で利用されていた福祉サービスは総計8,200を少し上回った。その中で、利用者が最も多かったのは成人用特別住宅(グループホームを含む)サービスで、高齢障害者の6割が利用していた。これに続いて、コンタクトパーソン8)(3割強の利用者)、ガイドヘルプサービス(18%)、日中活動9)(17%)の利用が主であった。

図表1 LSSの福祉サービスごとの年齢グループ別利用者数(2014年10月1日時点)
図表1 LSSの福祉サービスごとの年齢グループ別利用者数(2014年10月1日時点) 拡大図・テキスト

福祉サービスの年齢制限

SoLの福祉サービスについては、高齢障害者の利用状況は把握できなかった。それは、他の高齢者もその福祉サービスを利用していて、両者の区別がなされていないからだろう。65歳を迎えたら誰もが高齢福祉の対象になり、「高齢者」となる。同時に、次のような誤った理解がなされてきたようだ―「LSSは64歳以下の障害者が対象である」10)と。そのような利用年齢の上限は法文のどこにも設けられていないのであるが。但し、パーソナルアシスタンスは例外になるが。実際、いくつかのコミューンで、LSSの福祉サービスの一部に年齢制限が設けられていたり、利用者に費用の負担が課せられていた、ということが報告されていた11)。この誤った理解は、どうやら、パーソナルアシスタンスに設けられた制限が拡大解釈されたことによるようだ。

また、SoLの福祉サービスの中にも似たようなことがみられる。精神障害者に提供される福祉サービスで、居住支援サービスである。これは、精神の病や薬物依存などに起因する認識障害をもつ人に提供されるもので、障害者の日常生活をいろいろな形でサポートするものである。家事の手伝いをすることもあれば、障害者が家事に取り掛かれるよう働き掛けたり、また、家に一人でこもりっきりにならないように外に連れ出すこともある。ホームヘルパーの業務内容と重なる部分もあるが、居住支援はもっと外向的な性格を帯びている。65歳未満の精神障害者に最も利用されている福祉サービスである12)

社会庁の報告によると13)、この福祉サービスもまた、本来は、年齢制限はないのに、65歳未満が対象だと認識される傾向にある。そのため、高齢の精神障害者に対しては、居住支援サービスの代わりに、ホームヘルパー・サービスを提供するコミューンが多いのではないかと、社会庁はコメントしている。

障害福祉サービスに65歳のラインが引かれる傾向があるようだが、その根底には、障害福祉は65歳未満まで、65歳以降は高齢福祉という暗黙の線引きがまだ残っているのではないだろうか。

終わりに、福祉サービスが施されている現場に目を向けてみる。

グループホームに暮らす高齢の知的障害者

10数年前に、高齢の知的障害者のグループホームを訪ねたことがあった。高齢住宅の中に統合されていて、日中活動の場や集いの場も別のフロアに置かれ、周辺の高齢者の行き来もあって、活気があったように思う。だが、知的障害者を支援する職員の方々に戸惑いがあるように感じられたことを覚えている。職員にとっても新しい環境で、動き方を模索されていたのかもしれない。

職員の力量はグループホームの住人の生活に大きく作用する。グループホームに住む高齢の知的障害者が、「年老いる」ということをどうとらえているのかについての研究があり、そこでも職員の力量が問われている14)。調査結果によると、グループホームの職員は、そのテーマは住人たちにはたいして重要ではなく、住人たちと話す必要は特にないと思っていることがわかった。これに対して、このまま住人たちの「高齢」に目を向けないでいると、彼らが日常生活で必要な支援を得られない危険がある、ということが指摘されていた。

高齢であること、年老いることは、ライフサイクルのノーマルなプロセスであるから、本人らしい高齢期を送れるよう、必要な支援が提供されるべきだろう。

(まついよしこ ルンド大学社会福祉学科研究課程)


【注釈】

1)Nirje, Bengt (2003). Normaliseringsprincipen. Lund: Studentlitteratur.

2)Regeringen (2011). En strategi for genomforande av funktionhinderpolitiken 2011-2016. Socialdepartementet.

3)ここに記述する福祉支援・サービスの概要および法文に使われた表現の訳語には、以下の文献を参照した。河東田博&松井芳子(2009)第2節スウェーデン。障害者自立支援調査研究プロジェクト(編)『障害者の福祉サービス利用の仕組みに係る国際比較に関する調査研究事業 報告書』東京:日本障害者リハビリテーション協会

4)Socialtjanstlagen (SFS 2001:453).

5)便宜上、市に相当するものとする。

6)Lagen om stod och service for vissa funktionshindrade (SFS 1993:387).

7)Socialstyrelsen (2015). Personer med funktionsnedsattning - insatser enligt LSS ar 2014. Sveriges officiella statistik, Socialtjanst.

8)主に知的障害者への相談・余暇などの個別援助サービス。友人のような存在で、社会との橋渡し役。手当が支払われるので、「有償の友人」とも説明される。

9)LSSの障害カテゴリー1及び2のみ対象。原則、就労可能な年齢にある人々のためのものだが、その年齢を超えての利用もみられる。

10)Aldre i Centrum (2014). ”Har aldre personer ratt till LSS?” Nr 3/2014.

11)Lansstyrelserna (2006). Riktlinjer - till hjalp eller stjalp.

12)Socialstyrelsen (2016). Statistik om socialtjanstinsatser till personer med funktionsnedsattning 2015.

13)Socialstyrelsen (2016). Vard och omsorg om aldre: Lagesrapport 2016.

14)Kahlin, Ida (2015). Delaktig (aven) pa aldre dar. Aldrande och delaktighet bland personer med intellektuell funktionsnedsattning som bor i gruppbostad. Linkoping: Linkopings universitet.