音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

3.11復興に向かって私たちは、今

故郷に帰還して

岩間英行

さる4月27日、5年ぶりに福島県広野町に戻って来ました。東日本大震災の時から、ぼくがサービスを利用していた施設のワークセンターさくらとグループホームは、法人ごと群馬県高崎市にある国立のぞみの園へ避難しました。そこで5年間暮らしました。

自然が豊かで広いしき地、目の前には高崎観音様がすぐ近くに見えました。のぞみの園の空いている施設をかりて、集団生活が始まりました。避難生活なのでしかたないのですが、個人のスペースは少なく、一人でゆっくりできない日々がとてもつらかったです。世話人さんと暮らしたグループホームをなつかしく思いました。

少しずつ高崎にも慣れて、支援者のアドバイスを受けながらバスで市内に遊びに行けるようになりました。外食や買い物、旅行など、高崎は都会なので交通も便利でいろいろなところへ行くことができました。また、富士館という建物でグループホームの生活も始めることができるようになりました。

ある時、支援者から高崎駅の近くに専門学校があるから、介護職員初任者研修(旧ヘルパー)を受けてみないかとすすめられました。ぼくは、母が福祉の仕事をしているため、介護の仕事をするのが夢だったので、ぜひ勉強したいと思いました。一人で専門学校に通い、勉強を頑張りました。おかげで介護職員初任者研修に合格して資格をとることができました。

せっかく資格をとったので、忘れないように介護技術の経験をするために、法人内の入所施設でボランティアをすることになりました。トロミで水分補給をするお手伝いやせんたく物たたみ、一緒に散歩をしたりしていました。避難中でも頑張って資格をとったり前向きに頑張っていたので、全国大会本人大会(全国手をつなぐ育成会連合会)で発表するチャンスをもらいました。島根県での大会だったので、両親も招待して一緒に島根県松江市へ行きました。今まで本人活動に参加していたので、福島県内はもちろん、全国大会などでであった仲間も応援してくれたので、心強かったです。

ぼくの発表を聞いて、両親はとても喜んでくれました。父は笑顔を見せて感動してくれました。ぼくは、父も母も大好きです。その後、松江城や出雲大社を見学して一緒に旅行もでき、親孝行できたかなと思います。

法人が頑張って福島県広野町に新しい施設やグループホームを建ててくれたので、ようやく今年の春にみんなで戻れることを、家族も楽しみに待っていてくれました。ところが、父の身体の具合が悪くなり、2月に亡くなってしまいました。急に母から「福島に戻って来て」と連絡があり、電車で戻りました。

父と会った時、福島県に帰って来ても、必ず支援者の支えを受けながら前向きに頑張っていくと約束しました。

今、福島県に戻ってグループホームの生活が始まりました。新しい建物で、一人の部屋は広くて、安心して生活を送れるかんきょうができています。広野町は自分の実家の隣町です。同じ双葉郡です。広野町にも少しずつなれて、電車やバスを利用して行動できるようになりたいと思います。

ぼくの暮らしているグループホームは、へやの窓から海が見えるとても景色のいい所です。そこからワークセンターさくらに通所して、機械でこんにゃくをつくっています。板こん、糸こん、さしみこんにゃくなどいろんな種類のこんにゃくをつくります。おいしいこんにゃくをつくって、たくさんのお客さんに食べてもらいたいです。始まったばかりだけど、震災前のようにスーパーなどにも出荷できるように頑張っていきたいです。

そして、いつかアパートで一人暮らしをして、介護の仕事をして自立したいという夢をもっています。夢をかなえ社会で頑張っていくために、母親や支援者の話をきちんと理解していきたいと思います。ぼくは、自分の意見ばかり通そうとする悪いくせがあるので、いろいろな人の意見を聞きながら冷静に考えられるようになりたいと思います。

ぼくは、全国大会で発表しましたが、本人活動を通してたくさんの支援者や仲間がいることをとても心強く思いました。避難生活中も心配やはげましをもらい感謝してます。また、自分たちの本人活動の会「ぴいす」も活動を始めて力を合わせて仲間づくりをしていきたいと思っています。熊本県の地震でぼくたちと同じ思いをしている仲間がいるのではないかと、とても心配しました。

東日本大震災と津波、原発事故で県外に避難して、家族とも離ればなれになりました。実家にはまだ帰れないけれど、5年がたって、こうして故郷に戻って新しい生活が始められました。ぼくは、グループホームでくらして10年になりますが、新しい場所でまた、ひよこからスタートしたいと思います。私は、父親を亡くしているので、母親を大切にしたいと思っています。つらい時、悲しい時もあったけど、だいじょうぶです。決して夢をあきらめないで前向きに頑張ります。

(いわまひでゆき 社会福祉法人友愛会就労継続支援B型事業所「ワークセンターさくら」)