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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

知り隊おしえ隊

身近な素材で車いすシーティング

小林博光

1 どうして?

車いすに長時間座っていると痛みを感じたり、体を動かしにくくなったりします。それをできるだけ回避し、安楽に座り、快適に移動するためにシーティング調整を行うわけです。しかし、市販の高機能、高性能な座位保持装置や姿勢補助具を気軽にいつでもどこででも試せる環境は少ないと思われます。

そこで、手軽に簡単にシーティング調整するために、今そこにあるモノや近所で安価に購入できるモノを工夫し活用する必要性が出てきます。身近なモノの工夫の例とその限界についてお伝えしたいと思います。

2 探そう!

バスタオルやフェイスタオル、段ボールや新聞紙などを使う場面をよく見かけますが、しばらく時間が経つと、押しつぶされたり、反発力が低下したり、湿気を帯びたり、汚染されたりして使えなくなります。タオルは洗えばきれいになりますが、微妙に厚みや大きさが個々で異なります。洗濯前後で変わることもあります。

そこで、もう少し長く使える、価格面や流通経路から見ても比較的入手しやすいモノを探してみました。

・洗車スポンジ(自動車用品)(図1)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

自動車を洗車するときに使うスポンジです。適当にカットして使うことが前提なので、かなり大きめです。写真のもので200円程度。食器洗い用の同種の商品もありました。大きさや厚み、反発力や柔らかさなどはさまざまですので、使う場所によって素材を変えるのも良いでしょう。

・水道管カバー(水回り用品)(図2)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

冬に水道管の中の水が凍結しないようにするためのパイプカバーです。2センチ厚程度のウレタンの筒の中にパイプを通す穴があいています。外側はフィルムで覆われています。車いすのフレームなどにも装着できそうです。大きさはさまざまあるようです。100センチで600円程度。

・戸当たりテープ(建具用品)(図3)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

襖(ふすま)や障子などを閉めるときに大きな音がしないようにするためのクッションテープです。すき間を無くす目的でもあります。かなり柔らかい材質なので、座シート面など大きな力に対して使うことは避けた方が良いでしょう。アームサポートやフットサポート、サイドサポート付近に使うと良さそうです。幅1.5センチ、厚み1センチ、長さ2メートル程度で100円程度。

・キャンプマット(アウトドア用品)(図4)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図4はウェブには掲載しておりません。

写真のものは片面にアルミ蒸着加工された、ウレタン製の厚さ10ミリ程度のマットです。値段は90×180センチで800円程度。地面の小石で生じる凸凹を軽減させるのが本来の目的なので、車いすの座シート面の形状補正や、サイドサポートと体幹の隙間を埋めるためには都合が良いと思います。座シート面のクッションとしては不向きでしょう。同じ目的で、お風呂の洗い場用のマットを使う方も多いようですが、表面の凹凸が大きかったり、水抜き用の穴がたくさんあったりして、利用しにくいものもあるようです。

・シュレッダーダスト(図5)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図5はウェブには掲載しておりません。

個人情報保護法の施行により、少しでも氏名や住所などが記載された書類は、ことごとくシュレッダーにて粉砕されるようになりました。IT化によってペーパーレス化が進みつつあると言われていますが、まだまだ紙は減りそうもありません。多くの病院や施設で大量にしかもタダで入手できる素材といえます。工業系の製造現場では、このシュレッダーダストを製品搬送の衝撃吸収材として利用するところも多いようです。

シュレッダーダストそのままでは使いにくいので、ポリ袋で覆うことを考えました。紙の種類や切断方式、ダスト片の大きさや形はそれぞれ異なりますので意識して使い分けると面白い効果が得られるかもしれません。

・ポリ袋(日用品)(図6)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図6はウェブには掲載しておりません。

ポリエチレンの袋も、多くの病院や施設に存在する素材だと思います。大きなものでは一般の燃えるゴミ袋用から、小さいものでは処方薬用まで、さまざまなサイズがあります。また、傘袋(図7)という特殊な形状の袋も見つけました。細く長いので、おもしろい利用ができそうです。200枚入りで500円程度のようです。ここで気をつけたいことはポリ袋の摩擦抵抗です。滑りやすいものとそうでないもの、水分や汗の有無で滑りやすさが大きく変化するものなどあります。この特性を活かすことも面白そうです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図7はウェブには掲載しておりません。

3 作ってみよう

ここでは一例として傘袋(細長いポリ袋)とシュレッダーダストを利用した、姿勢補正のための補助クッションを作ってみました。

用意する物はシュレッダーダストと傘袋、台ばかり、計量用コップ(調理用ボウルでも代用可)です。

今回のシュレッダーダストは、クロスカットタイプで9割程度がコピー用紙、残りが封筒やパンフレット類です。厚紙・段ボールの場合や、新聞紙・雑誌の場合など、素材の違いで、できあがりの性質も異なると思います。

傘袋は、デパートや飲食店などの入り口でよく見られる細長いポリ袋です。ミシン目から切り取るタイプや、ヒモを通す穴から抜きちぎるタイプなどがあるので、大きさはさまざまあるようです。病院や施設にもほぼ置いてあると思います。濡れた傘を入れる袋ですが、大きな負荷がかかった場合は破れることを前提に考えます。

台ばかりは、調理用のもので十分と思います。計量用コップはシュレッダーダストを台ばかりで測るときに使います。ほどよい大きさであれば、調理用のボウルなどで代用しても良いでしょう。

台ばかりの数値を見ながら、計量用コップにシュレッダーダストを70g入れてみました(図8)。今回使用した計量カップでほぼすり切れいっぱいです。入れる量は目的に応じて調整してみてください。重さを量るのは、実際に試してみた後、量を調整する際に利用するためです。70gでなくてももちろんOKです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図8はウェブには掲載しておりません。

測ったシュレッダーダストを傘袋に詰め込みます。今回利用した傘袋では半分程度の量が入りました。

傘袋を横に寝かせて、手のひらを押し当ててある程度空気を抜き、空気量を調整します(図9)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図9はウェブには掲載しておりません。

その後、開口部の端を結び、手のひらで押しつけて、空気の漏れがないことを確認します(図10)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図10はウェブには掲載しておりません。

4 使ってみよう

今回は車いすの座面に置いてみました。置く場所によって適宜、傘袋を折り曲げています。

傘袋単体では、車いすクッションとしての役割を果たしていないことをここで改めてお伝えしておきます。しかし、それぞれの種類や配置の仕方、組み合わせによって、接触する部分をさまざまに変化させられる(図11)ことは感じていただけると思います。このことから、他のクッションとの併用(図12)により、座骨付近や大腿部、臀部の形状調整を行うことはできそうです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図11、12はウェブには掲載しておりません。

車いすの座シート面にそのまま傘袋を置いていると、使っているうちにズレが生じます。滑り止めシートなどを間に敷き込むとある程度、防ぐことができると思います。背シート面に取り付ける場合は、両面テープや接着剤で固定すると、シート面に粘着素材が残ってとれなくなりますので避けたい方法です。前述のキャンピングマットなどに貼り付けて固定し、それを背シートに立てかけるようにベルトや紐で固定すると良いでしょう。

タオルでも同様に、ポリ袋や傘袋に入れて利用できますが、シュレッダーダストと異なるところは、中身の量を微調整することが難しい点です。さまざまな大きさや素材のタオルがありますが、車いす上に配置する際に、形や厚みの調整が思い通りにいかないこともあるでしょう。スポンジであれば微調整もある程度できますが、一度短く切ったスポンジを全く元の状態に戻すのは難しいと思われます。また、タオルやスポンジは失敗したとき気軽に廃棄できないほどの価格ですね。

5 工夫と限界

ここではあえて、実際に人が座ってシーティング調整した場面は提示していません。

今回、紹介した方法はあくまでも、「本格的にシーティング調整はしてみたいが、まずはどの程度の効果があるか、とにかく気軽に試したい」とか、「緊急時で、今すぐある物だけでなんとか車いすに座らせなければならない」ような場面でのみ使ってほしいと思います。

これらは、さほど耐久性がありませんので、しばらく時間が経過すると、製作直後の性能を発揮しないことが多いでしょう。ポリ袋に入れたシュレッダーダストもあまり長期間の対応は難しいと思いますが、紙片の状態が外からよく見えるのである程度、劣化の状況がつかみやすいと思います。一時的・緊急的な対策しかできない期間が終わったら、市販の姿勢保持補助具の購入やレンタル、各所調整機能付き車いすの導入を早急に進めることをおすすめします。

また、このような工夫である程度対応できるのは、「姿勢」だけです。他の車いすの必須検討項目である「移乗」や「駆動」に関しては、工夫のレベルでは無く、極めてリスクの高い「改造」が必要になると思われます。一言で表すなら「元に戻せない状態にする」ことです。バックサポートや座シートの取り外しや一部拡張、各種フレームの切断や溶接、穴あけや切削などがそれにあたります。ネジを一時的に取り外すなどは、「元に戻せる」ように思えますが、タッピングネジは、一度緩めると、再度締め付けるときに固定力が不十分になることもあります。よほどの緊急時以外は「改造」しないでください。

身近なモノでシーティング調整し、効果が得られるのは一時的な姿勢だけだと認識しつつ、安定して座位を保てない方に、諦(あきら)めないで気軽に試してみる方法として、活用いただきたいと思います。

適切な製品を、必要とされる人に気軽に試用し、供給できる仕組み作りを期待したいところです。

(こばやしひろみつ 総合せき損センター医用工学研究室)