音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

障がい者アーティストの価値創造を目指して

神崎邦子

だんだんボックスは、2010年8月に誕生した、「アートと福祉、地域活性化、経済活動」を結びつけるプロジェクトです。障がいがありながらも素晴らしい絵の才能を持つアーティストたちの作品をさまざまなカタチにして、一般社会に流通させながら、障がいのある方々の持続的な経済活動をサポートします。そして、彼らの生きがい、やりがいをサポートすることを目指して活動に取り組んでいます。

だんだんボックスは、ある方々との出会いから誕生しました。当時、九州大学に赴任してきた建築家の鵜飼哲也さんに、障がい者に絵を教えている彫刻家の鎌田恵務さんをご紹介するために鵜飼さんの研究室に伺った時のことです。研究室にはまだ引っ越しの段ボールが山積みになっていました。殺風景な段ボールをみて、「ここに素敵な絵が描かれていたらいいわね」などという話をしていました。その会話の中から、段ボール箱に障がい者アーティストの絵をデザインするアイデアが生まれたのです。障がいがありながらも素晴らしい絵の才能を持つアーティストたちの作品が人から人へと贈る段ボールの箱になって、たくさんの思いを乗せて全国へ旅する、なんて素敵ですよね。

「だんだんボックス」という団体の名前も、「段ボール箱」から由来しています。「だんだん」という言葉の中には、だんだん広がっていく、だんだん良くなっていく、そういう意味が込められています。また西日本地区では昔から、だんだんという言葉には「ありがとう」という意味がありました。だんだんボックスの活動や作品を通して「ありがとう」の気持ちを伝えていきたい、そんな思いも込めて「だんだんボックス」と名付けました。

私たちの活動を支えるさまざまな作品は、日本全国の施設で活動する作家の作品を採用しています。最近では、アート活動に取り組む施設も増えてきており、さまざまな作品が製作されています。だんだんボックス創立当初より取り引きさせていただいている福岡市南区の「工房まる」、東京都町田市の「クラフト工房ラ・まの」で活動する作家の中には、個展を開催するくらいに知名度の高い作家もいます。福岡市東区にある「JOY倶楽部」は、オーケストラチームがあり、さまざまなイベントで演奏活動をしています。

このように障がい者施設では、施設を運営するために、また施設を利用する利用者の収入をサポートするために、さまざまな仕事を請け負っています。しかし、多くの施設は利用者が自立するだけの収入を稼ぎ出すまでに至っていないのが現状です。施設の方々の悩みは、作品は作れても、その作品に価値を生み出し、うまく流通して利益を生み出せないというところにありました。ならば、だんだんボックスがその流通の仕組みを作れば、今以上に利益を生み出せるのでは、と考えたのです。

障がい者スポーツにはパラリンピックという受け皿がありますが、文化や芸術の分野だと福祉の一環にとどまっているのが現状です。それを経済活動に結び付けて、障がい者アーティストがきちんと評価を受けて生きがいを感じられる社会にしていくことこそ、だんだんボックスの使命であると感じています。

だんだんボックスの活動の仕組みは、障がいがありながらも素晴らしい絵の才能を持つアーティストたちの作品を、段ボール箱をはじめとしたさまざまな商品にデザインして販売し、経費を除いた利益をアーティスト及び福祉施設等に還元する、というものです。

活動当初は、地域イベントに参加して段ボールを販売したり、パンフレットを配ったりと、スタッフ全員でいろいろな所に自ら足を運んで、地道に活動を続けてきました。その結果、だんだんボックスの活動は、企業からもご賛同いただけるようになり、だんだんボックスが企業のCSRの役割を担わせていただけるようになりました。

2011年3月に、日本郵政のゆうパックの段ボールにだんだんボックスの段ボールが採用されたことは、私たちにとって最初の大きな転機となりました。今では九州、東京地域合計71局、東海地方の各市町村1局ずつの郵便局でだんだんボックスを販売していただいています。そして今は、段ボール箱から、デパート等のショッピングバッグや銀行の封筒、カレンダーやタッチペン、それから自動販売機や運送会社のトラックの絵のラッピングと毎年、新しい商品がどんどん誕生しています。

株式会社久原本家(くばらほんけ)グループは、だんだんボックスの活動を新入社員研修の一環として取り入れていただき、今年で5年目になります。毎年、テーマを決めて「公募」という形で、日本全国より障がい者の方々の絵を募集し、ラッピングバスを共同製作しています。会社からは、「今までさまざまな社会貢献事業を会社として取り組んできたが、どれも長続きしなかったが、だんだんボックスの活動は唯一継続できている」と喜びの声をいただいています。新入社員のみなさんは、作品製作を通して、結束が高まり、プロジェクトの立ち上げから作品完成までのプロセスにおいて、仕事のノウハウを学ばれています。

だんだんボックスには、多くの学生たちもこの活動に賛同し活動の輪を広げる活力となってくれています。九州大学の学生たちは、地域のイベントに参加してだんだんボックスの販売に取り組んでくれたり、子どもたちとワークショップを開催したりと幅広く活動に取り組んでいます。福岡女子大学では、だんだんボックスの活動を単位取得対象の課外授業として取り入れていただき、福岡運輸のアートトラックプロジェクトにご参加いただきました。

小さな段ボール箱からスタートしたこの活動は、多くの皆様に支えられ、この6年間で大きく成長することができ、多くの才能をカタチにしてきました。新しい施設や作家も日々発掘しています。最近では、北九州市の創造館クリエイティブハウスとの交流もスタートしています。現在、福岡、東京、愛知を中心に活動を進めていますが、今後は、京都、沖縄、仙台、釧路へと活動拠点が広がりそうです。

だんだんボックスには創立当初より夢があります。それは飛行機をラッピングアートで彩ることです。障がいがある方々の作品で彩られた飛行機が世界中を旅して、世界中の人々に笑顔を届けたいと思っています。だんだんボックスの優しさのネットワークが、国境を越えて世界中に広がって行くことを心から願っています。

(かんざきくにこ 一般社団法人だんだんボックス代表)