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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

時代を読む91

公営住宅への単身入居

住宅問題に悩む障がい者が公営住宅と関わりを持ったのは、昭和42年の「身体障害者世帯の優先入居」制度や昭和46年の「心身障害者世帯向け公営住宅(車いす用公営住宅)」制度が良く知られている(注)が、昭和55年の「公営住宅への単身入居」が制度化されたことも忘れてならない出来事である。

今から30年以上も前の昭和53年頃、ある大学の先生から「建設省から委託研究を依頼されたが一緒にやらないか?」とのお誘いを受けた。お目にかかって研究目的を尋ねたところ、「昭和25年に公営住宅法が制定されてから30年近く経ち老朽住宅が多くなってきたし、また、発足当初の公営住宅は住戸面積が小さいので空き家の入居募集を行なっても入居希望者が集まらない。いっぽう、ある県で『単身者が公営住宅に入居できないのは憲法違反である』という裁判を起こされていて、国はどうも旗色が悪い。ならば、空き家になっている公営住宅を単身者向けに充当させたら一挙に問題が解決するのではないか?ついては、その可能性を検討してほしい」という内容だった。

その頃、障がい者の住宅問題の研究に没頭していた私は二つ返事で引き受けた。早速、4人からなる研究委員会を立ち上げ、全国の数か所で老朽化して空き家になった公営住宅を実際に見て回って討議を行い、「高齢者や障がい者の入居は可能」との研究報告書を提出した。

その結果、国は昭和55年から公営住宅への単身入居制度を始めた。制度開始当初の入居対象者は、高齢者、身体障がい者及び被曝者に限定され、木造が多くて規模が小さく、しかも住戸は間口が狭く段差が多かったので、到底車いす使用者が入居できるような住宅構造ではなかった。とはいえ、民間の賃貸住宅を借りたいと願っても大家から「家を壊されるから」「火事を出されたら困る」等々の理由を言われて入居拒否され、住宅を賃貸できない単身高齢者や障がい者には大いに喜ばれた。

当初は、老朽住宅への入居という形で始まった公営住宅の単身入居は、数年後には単身者公営住宅を新築する自治体も現れた。また、当初は日常生活動作が自立している身体障がい者のみを対象としていたこの制度はやがて広がりを見せ、介助を必要としても、地域社会の中で自立生活を実現したいと願う単身重度障害者の入居も認めるようになったり、さらに、平成16年には知的障がい者や精神障がい者の単身入居が可能となっていった。こうして振り返ってみると、昭和55年の障がい者の公営住宅への単身入居は意義ある制度であったといえる。

(野村歡(のむらかん) 元日本大学理工学部教授、元国際医療福祉大学大学院教授)


(注)「時代を読む・第87回」(2017年1月)