音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

ろう者は世界で一番、旅上手

藤田康平

なぜ、旅に出るのか?

人生を深めてくれるものに、人との出会い、本との出合い、旅との出合い、がある。特に、旅は普段は会えない人に出会えて、本に書かれていないこともたくさん学べるから、おもしろい。ちょこっと家から出歩いただけで日常が違ったものになる。それが海外となると、「一度きり」の毎日を実感するのだからもっとおもしろい。

私は旅行に行くなら絶対、現地のろう者と交流をしながら観光したいタイプだ。学生時代、全日本ろう学生懇談会の会長を務めていたこともあって全国に友人がいる。聾(ろう)学校や大学、就労などろう者を取り巻く環境についても関心があった。もちろんお酒を飲んで、恋愛話もする。こっちがメインだったりするかもしれないが、いろんな文化に触れて飲むお酒はやっぱり、うまい。

現代の海外旅行事情

今日(こんにち)、ろう者にとって気軽に海外旅行に行くことができる時代である。トルコでテロとか、シリア爆撃とか何かと物騒な世の中ではあるが、それでも以前に比べ気軽に旅行しやすい時代である。特にインターネットとSNSのおかげで、格安でしかも簡単に飛行機やホテルなどの予約ができるようになった。

現地でもWi-Fiという無料インターネット回線が使えるため、日本の家族ともラインでやりとりすることができる。同時に、フェイスブックで海外のろう者ともコンタクトを取ることができる。このため、多くの国々のろう者と気軽に交流をすることができた。その時にありがたいことは、空港まで迎えに来たり、観光地を案内してくれたりすること。ろう者に生まれて良かったと思う時である。

東南アジアと中東での23日間

これまで、東南アジアから北欧までいくつかの国を周ったのだが、ここでは、昨年の夏に東南アジアと中東のドバイを訪れた時のことを紹介したい。タイ、ラオス、ベトナム、ドバイと4か国を周った。ちなみにドバイは国ではなく、アラブ首長国連邦の中にある国である。

私はバックパッカースタイルで赤いバックパックに一眼レフ。これで海外を訪ねている。バックパックの中には3日分の服装とパソコン、一眼レフなどを入れている。服装は気候に合わせて半袖短パンがあればいいし、寒い時は登山用ウェアがあればいい。カメラは現地のろう者を撮るためだ。あと、パスポートとクレジットカードは旅の必需品である。

パスポートは残りの有効期限を確認しておこう。国によって、有効期間が足りないと入国ができない。私はタイからラオスに行く時、残り半年未満で入国ができなかった。タイの日本大使館に行ってパスポートを申請したが、その時も、ろう者に助けられた。

東南アジアに行こうと思ったのは、ダスキン愛の輪基金で日本に来たラオスのろう者に出会ったからだ。彼女の話を聞くと、ラオスには聾学校が2つしかなく、大学に行ける人も限られるという。ラオスへの直行便は高いので、乗り換えついでにタイ、ベトナムも行くことにした。

タイでは、以前日本に来た時の友達のつながりで、ろう者の家に泊まった。バンコクは1800万人が暮らす大都会だが、ろう者曰(いわ)く、ショッピングセンターで20年働いても給料は変わらず大変だという。聞いたところ、貯金もなかなか少なかった。

ラオスではビエンチャンに行ったが、首都なのに4階建て以上の建物が無かった。海に面していないと物流が行き届かないことを痛感した。聾学校の子どもも十分な教育が受けられている様子はなかった。結婚もろう者同士で結婚しようにも給料が安く、親に頼らざるを得ない状況である。

ベトナムは現代においても車の免許取得が認められておらず、高校のある聾学校が全国で2校しかない。

ドバイはベトナムにいた時に、ツイッターでフォロワーにアンケートをとって決めた。その時、ベトナムの友人からドバイに出稼ぎに行っているベトナムのろう者を紹介してもらった。おかげで、ドバイでもさまざまなろう者に出会うことができた。出稼ぎ労働者の暮らしについても大変、勉強になった。ドバイの隣、アブダビに住むろう者は大の日本好きで、私が知らないようなことをたくさん教えてくれた。

ろう者に生まれて良かったこと

私がろう者で嬉(うれ)しかったことは、このようにして世界中のろう者と友達になれることだ。世界中どこでもろう者はマイノリティのため、分かり合いやすい。そして、当事者同士でコミュニケーションが取れる。本当に楽しいものがある。酒場で、ろう者あるあるトークをしたり、現地のろう者の生活について話を聞いたり、デフジョークを披露したりして打ち解けた後、その国の事情について聞くと、自分も頑張らないといけないと痛感する。

今後の旅について

次の目標は世界一周しながら、世界各地のろう者の暮らしを発信することだ。五大陸で出会ったろう者を本にまとめ、出版したい。フェイスブックやブログなどでも情報発信できればおもしろいだろうなぁ。

(ふじたこうへい 元建設会社勤務)