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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

知り隊おしえ隊

強化段ボールを使った被災地支援活動

繁成剛

日本では古代から大規模な自然災害が発生し、地域住民の生活に甚大な被害をもたらしています。近年では、1995年1月17日の阪神・淡路大震災、2011年3月11日の東日本大震災、そして、昨年の4月14日と16日に熊本で起きた地震は未曾有の災害となりました。

東洋大学では、東日本大震災の直後に学部や学科を超えて10以上の支援チームが結成され、地震や津波で被災した東北3県の各地域に学生と頻繁に訪問し、支援活動を続けています。また筆者の授業では、被災地支援として何か提案できることはないか、学生にテーマを与えて、グループでディスカッションした後で、まとまったアイデアを実際に制作し、優秀作は実際に避難所に寄贈してきました。

東日本大震災による福島第1原発の事故で、双葉町の1千人を超える住民と役場が、加須市の旧騎西高校に、避難してきました。教室や体育館に畳が敷き詰められ、プライバシーの全くない環境で大勢の方が寝食をともにしている様子を見て、思いついたのが食事をする時の座卓でした。

筆者は、1990年から3層強化ダンボールを使った椅子や遊具をデザインし、障害のある多くの子どもたちに提供してきたので、その技術が活(い)かされると考えました。

そこで、使いやすいサイズの天板(60×60センチ)と高さ30センチの座卓をデザインし「だんて」と名付けて、放課後に学生たちと製作しました。次第に協力してくれる学生が増え、ボランティアサークルに属している他学科の学生や近隣の他大学の学生も「だんて」の製作に協力してくれました(写真1)。100台くらいできたところで、加須市の避難所に搬入しました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

1週間後に避難所を尋ねると、寄贈した「だんて」はすべて活用されていることがわかり、「だんて」の周りに集まってお茶を飲んでいたり、幼児が絵を描いていることが確認できました(図2)。この避難所には、その後も何度か訪問して住民のみなさんの要望を伺うと、畳の上で長期間生活しているので足が痛くなり、立ち上がるのも大変だという話からヒントを得て、強化ダンボールで簡単な座椅子をデザインしました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

「だんちぇ」と名付けた椅子の構造は「だんて」と同じで、座面が25×25センチで高さを15センチにしました。この上にお尻を乗せて座ってもいいし、小さなテーブルとして使っても構いません。強化段ボールを学生たちとカッターナイフで切り出して製作するのは限界があるため、1990年から、強化ダンボールを使って座れないお子さん用の椅子を、筆者と共同で開発してきた滋賀県のアサヒテックコーポレーションに「だんて」と「だんちぇ」の製作を依頼したところ、同社の社会貢献として、各200台を無償で寄贈してくださることになりました(図3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

それらの「だんて」と「だんちぇ」は加須市の避難所だけでなく、福島県いわき市、岩手県大船渡市と陸前高田市に訪問した時にも寄贈することができました。いわき市では、市内の病院の作業療法士が中心となって、この「だんて」を製作するワークショップを開催し、天板には大学生がさまざまな絵を描いて避難所での生活を少しでも楽しく過ごせるような活動をしていました。

2012年から2014年まで、岩手県の大船渡市と陸前高田市にある避難所、仮設住宅、福祉施設を学生たちと何度か訪問し、強化ダンボールを使って避難生活で必要となっている棚、下駄箱、テーブル、椅子など、住民と一緒に製作するワークショップを開催しました(図4)。この時は、地元の福祉施設や役場の職員も一緒になって、強化段ボールを切り出したら組み立てる作業をしました。高齢者の施設では、理学療法士の指導で入所者一人ひとりの体型に合った椅子を製作しました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図4はウェブには掲載しておりません。

昨年4月の熊本地震では、益城町を中心に大きな被害があり、多数の住宅が倒壊したので、現在も多くの住民が避難生活を送っています。

東日本大震災の避難所で好評だった「だんて」と「だんちぇ」の製作を再度、アサヒテックコーポレーションに依頼すると、今回も社会貢献として、無償で100台を作っていただけることになりました。6月21日に、地元の熊本と福岡の専門学校教員に手伝ってもらい、被害の大きかった御船町の避難所に「だんて」「だんちぇ」を寄贈しました(図5)。その後、住民から追加の要望が多かったので、メーカーに「だんて」200台の増産を依頼し、同避難所に送りました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図5はウェブには掲載しておりません。

9月6日には、筆者が会長を務めている日本リハビリテーション工学協会の災害対策委員会のメンバーが日本財団から助成金をいただき、西原村の避難所において、強化段ボールで棚を作るワークショップを実施しました。この時は、熊本学園大学と熊本総合医療リハビリテーション学院の教員及び学生が合計10台の棚を製作して寄贈してきました(図6)。11月22日も同協会の主催で、益城町の木山仮設団地とテクノ仮設団地において、住民のニーズを窺(うかがい)いながら、座卓、幼児用椅子、棚、学習机などを強化段ボールで製作しました。この時も地元の大学の教員と学生ボランティアの協力があったので、短時間で住民のニーズにあった家具を提供することができました(図7)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図6・図7はウェブには掲載しておりません。

今年の3月2日と3日には木山仮設団地とテクノ仮設団地を再度訪問し、住民のアンケートで要望の高かった整理棚と子どもの学習机を強化ダンボールで作るワークショップを開催しました。この時は、埼玉県のモスト技研に筆者が設計した棚と机の図面を渡し、コンピュータ制御のカッティングマシーンで棚の部品60セット、机の部品20セットをカットしてもらいました。これらの部品は、前回もご協力いただいた熊本総合医療リハビリテーション学院に送付し、ワークショップ当日になって、学校の教員が仮設団地の集会所に運び込んでくださいました。

集会所では、団地の住民の皆さんが大勢参加され、カットした強化ダンボールの部品を組み立て、カラー布テープで好きな色に仕上げて住宅に持ち帰られました。小学生から90歳の女性まで、ボランティアに手伝ってもらいながら棚と机を完成させた時はみなさん満面の笑顔で、ワークショップを心から楽しんでいました(図8)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図8はウェブには掲載しておりません。

以上のように、2011年から強化段ボールを使って地震による被災地の支援活動を続けてきましたが、シンプルで実用的な家具をデザインし、学生や各地の企業と福祉施設の関係者に協力してもらった結果、多くの被災者に強化段ボールの家具を提供し、喜んでいただくことができました。今後も、被災地の住民のニーズを窺いながら支援活動を続ける予定です。

(しげなりたけし 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科)