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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

霞が関BOX

避難行動要支援者名簿の作成

内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者行政担当)付要配慮担当主査付
中村俊介

平成25年の災害対策基本法の改正において、避難行動要支援者名簿の作成が市町村に義務付けられました。その後、それぞれの市町村において名簿の作成が進み、消防庁による調査では、平成28年4月1日現在で、同日時点で全域が避難指示の対象となっていた6町村を除く1,735市町村のうち、84.1%が作成済みとなりました。さらに、平成28年度末までには99.1%の市町村が名簿の作成を完了する見込みとなっております。

このような状況の中、次なる段階として[名簿について市町村職員及び住民の理解のさらなる向上]と[名簿の平常時からの避難支援等関係者への提供に係る本人同意の促進、個別計画策定の推進]が重要となってくると思われます。

避難行動要支援者名簿とは

そもそも、避難行動要支援者名簿がどういったものなのか。順を追って説明いたします。

高齢者、障害者、乳幼児といった災害時に配慮を要する者、つまり要配慮者と言われる方々に対する国の施策として、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年3月)を示し、市町村に避難支援体制の整備等を進めるよう周知していました。

しかしながら、平成23年の東日本大震災において、被災地全体の死者数のうち60歳以上の方が全体の65%以上を占め、障害者の方の死亡率は全体の死亡率の約2倍となり、要配慮者の方々に対する避難について課題が残りました。

その課題を解決するために、先にも述べたとおり、平成25年に災害対策基本法が改正されました。ここで、要配慮者のうち、自ら避難することが困難で特に避難に支援を要する者を避難行動要支援者とし、避難行動要支援者名簿とは「地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者について避難支援、安否確認その他避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために必要な措置を実施するための基礎とする名簿」と定義して、市町村にその作成を義務付けました。

次ページに制度を図示したものを掲載いたします。

制度イメージの図
制度イメージの図拡大図・テキスト

平成28年熊本地震における避難行動要支援者名簿の活用

そして、避難行動要支援者名簿の作成が市町村に義務付けられて初めて、特定非常災害に指定されるほど著しく異常かつ激甚な非常災害となった、平成28年熊本地震が昨年4月に発生いたしました。

では、実際に避難行動要支援者名簿がこのような大災害において有用だったのか。内閣府において、熊本県内の市町村に対して調査を行なったところ、避難行動要支援者名簿を避難行動時の支援に活用した団体は3団体ほどという結果となりました。この数字だけを見ると、避難行動要支援者名簿が活用されなかったように見えますが、そうではありません。熊本地震は直下型の地震で津波が発生せず、災害の発生から避難行動を取る時間がほとんどなかったに等しかったのです。そのため、避難行動支援を急いでする必要があまりなかったのです。

では、熊本地震において、避難行動要支援者名簿は何に活用されたかというと安否確認に多く活用され、24団体において実際に活用されました。災害が発生した際、自らの安否を発信することが難しいケースの多い、避難行動要支援者の方々を優先的に安否確認することができ、非常に有用だったと活用した団体の職員の声もありました。

加えて、発災直後だけでなく、避難所においても名簿の活用が見られました。避難行動要支援者の方々は避難生活においても配慮が必要な方が多く、発災時に助かった避難行動要支援者の命がその後の避難生活において配慮が足りなかったために失われると言ったことがあってはなりません。そのために避難行動要支援者名簿を用いて避難所にいる被災者のうち配慮が必要な方を把握し、そのケアに活用できたといったこともありました。

一方で、より多くの避難行動要支援者に対して名簿情報を避難支援等関係者に提供することに同意してもらっていれば、より活用できたのではないかという声がありました。これは、災害対策基本法において、市町村は避難行動要支援者本人の同意を得た場合に避難支援等関係者に名簿の情報を提供し、平常時から避難行動要支援者名簿に係る取組に参画していただくことができることからきています。この情報の提供によって、平常時から避難行動要支援者それぞれ避難の計画となる個別計画も策定でき、より地域の特性や実情を踏まえた実効性のある避難が可能となります。また、今回の災害で避難行動要支援者名簿の重要性に気付いたとの声もあり、普段からの意識の面での課題も見受けられました。

今後の展望

熊本地震を契機に、避難行動要支援者名簿の必要性と有効性を再認識できましたが、現状として、いくつかの課題が見つかったことも事実です。はじめにもあげましたが、[名簿について市町村職員及び住民の理解のさらなる向上]と[名簿の平常時からの避難支援等関係者への提供に係る本人同意の促進、個別計画策定の推進]が今後、重要となってくると思われます。

そこで内閣府では、市町村における避難行動要支援者名簿に関する取組や、災害で実際に避難行動要支援者名簿を市町村が活用した経験を取りまとめた事例集を作成するとともに、避難行動要支援者を対象としたリーフレットを作成しました。

「被災地」の対義語として「未災地」という言葉が使われます。昨年は南海トラフ地震や首都直下地震と違い、あまり注目されていなかった九州地方や中国地方で立て続けに大きな地震が発生し、これまであまり台風の被害を受けたことがなかった東北、北海道で大きな台風被害が発生しました。このように、日本はいつどこで暮らしていても大きな災害に見舞われかねない土地となっています。そのため、たとえ今被災地ではなくとも、自らの住んでいる場所は未(いま)だ被災していない地、未来に被災するであろう地としての意識を持って、災害対策に意識を持っていただきたいと思います。

特に要配慮者の方に関しては、先ほどもあげましたリーフレットを、自治体や避難支援等関係者の方には事例集を参考にしていただいて、いざ自分が当事者になった時のための備えを万全にしていただきたいと思います。

(なかむらしゅんすけ)


《事例集》
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/honbun.pdf

《リーフレット》
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/panf.pdf