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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

生きづらさを抱えた人たちとその家族の支援
~UnBalance~の活動

元村祐子

UnBalanceは2013年に「成人発達障害自助グループ」として大阪市平野区で活動を開始、2か月に一度のサロンを開いています。後に、思春期当事者支援と発達障害をもつ子どもの親の会も始め、2016年8月に法人化。一般社団法人UnBalance~発達障害支援グループ~として、新たなスタートを切りました。

2008年に私が発達障害と診断された時から、他府県の発達障害の自助会に入会していました。そこで自分と同じような悩みを持つ人、辛い経験をされた人たちに出会い「しんどいのは自分だけじゃない」ことを実感でき、自助会は私自身の「心の居場所」となりました。

この自助会の中で少しずつ自分の「自己肯定感」が高まってくるのが分かり、もっとたくさんの生きづらさを抱える人たちにも同じように元気になってほしい!そんな思いで自分の住む大阪市平野区に自助会を立ち上げました。

自助会は決して「傷のなめ合い」ではなく心の居場所であると同時に、集まる仲間がお互いにお互いをサポートしあって向上していける場でなくては意味がありません。このお互いが向上していける「ピア=仲間」の力は、医療でも福祉の専門家でもない「ヘルパーセラピー原則」のとおり、対等な関係だからこそ成り立っています。

自己肯定感も自尊感情も自分を客観視するメタ認知力も、決して本やネットの情報だけでは高めることはできません。人との関わりの中でしか生まれないものです。対等な人間関係の中で「安心できる居場所」として、また「お互いに向上しあえる場所」として、少しでも多くの人が生きやすさを手に入れてほしいです。

UnBalanceを法人にしてからはサロンとは別に、事務所の一部を週に3日間有料で開放し、当事者やその家族が気軽に来て好きな過ごし方をしていただける「居場所スペースFREENE(フリーネ)」をはじめました。

ここでは利用される方が自由に過ごしていただけるように、あえてプログラムは組んでいません。本を読んで過ごされる方、趣味に没頭される方やウトウトされる方、また、私たちスタッフに相談をされる方や、居合わせた方同士で会話をはずませられたり、その時々によってもいろいろです。WiFiも完備しているので、中には「自宅よりも集中できる」と勉強に励まれる方もおられます。

それから好評なのが「臨床心理士による勉強会」や「当事者講師によるワークショップ」です。

UnBalanceのスタッフは発達障害当事者であり、また親の立場である、いわゆる「ピア」の立場です。ピアならではの共感・共有には適していますが、やはり限界もあります。そこで臨床心理士と提携し、1か月に一度、定期的に認知行動療法に基づいた「感情コントロール」などについての勉強会を開催しています。毎回定員を超える申し込みがあるほど好評で、充実した内容なのに、なぜか笑いが絶えない雰囲気に参加者さん方は喜んでくださっています。参加されるのは当事者さんをはじめ、ご家族や支援者、発達障害に関心のある方などいろいろです。

「当事者によるワークショップ」はその名のとおり、当事者が講師になるというものですが、発達障害当事者やそのご家族が持つ資格や特技を活かせる場がなかなかないとの声を受けて始めた事業です。

本当は資格を活かした就労を希望していても、二次障害などでうまく資格を活かすことができない方がたくさんいます。そこで、ボランティアではなく、わずかでも有料で講師を務めていただくことで少しでも自信をつけ、自己肯定感を高めていただこうとするものです。

第一弾は「スポーツトレーナーによるストレッチワークショップ」。プロからしっかりとストレッチの有効性や意味を習いました。

実際に、みんなで体を動かすことでコミュニケーションにもつながり、普段動かすことが少ない部位を伸ばしたり、肩こり予防やダイエット効果もある動きなど、それぞれに質問したりしながら楽しい時間を過ごしました。

絵本をツールに使った「大人のためのコミュニケーションワークショップ」「正しいスキンケアの仕方」「大人も楽しめる折り紙教室」など、ジャンルもさまざまです。

講師をされた方は「自信がつきました。またやりたい」と明るい表情でおっしゃってくださいます。参加者さんも安価でプロから学べるこのシステムにうれしい言葉をたくさんいただいています。

そして、当事者さんに大人気のプチイベント。

昨年初めて開催した「発達凸凹恋愛会議」は、FREENEが超満員になりました。なかなか人には聞けない恋愛の悩みをみんなで赤裸々に告白。悩んでいたのは自分だけじゃない!と大盛り上がり。もちろん真面目(まじめ)に議論し、次回の課題も挙げて終えました。

プチイベントの予定としては「学生時代のイケてない話」です。一見、とてもふざけているようなタイトルですが、こうした「あるある話」を明るくみんなで語ることで、それぞれが抱えていた悩みも笑って流すことができるのも、ピアだからこそだと考えています。

当事者の活動は、このような当事者や家族の自己肯定感を上げる内容や、障害受容といった「内側」に向けて投げかけていくことのほかに、社会に向けた「外側」にも発信していくことが重要だと考えています。

発達障害は、見た目にはわかりにくい、しかも個々に違う特性や困り具合を持ち合わせています。まだまだ学校や職場での理解は浸透していないのが現状です。私自身、いろんな場所でいろんな立場の方々に「講演会」という形で思いをお話する機会をいただいています。自分の困っていることや思いを当事者みんなが発信できるわけではありません。そうした方々の思いを代弁するつもりでいつもお話しさせていただいています。

ご自身やご家族が発達障害と診断されても誰に、どこに相談すればわからない人や、こうした自助会の存在も知らない人がまだたくさんおられます。診断を受けずに生きづらさを一人で抱え込んで悩んでいる人もいます。そうした「孤立」している方に、今後どのように発信していけばよいのか。そして、我々のような団体が継続して支援を続けていくには、やはり安定した収入源が必要になってきます。この二つは今後の大きな課題です。

日本ではまだ「自助会=セルフヘルプグループ」は社会的にあまり認識されていません。少しずつ発達障害という障害名も広がるなかで、自分の考えや障害について発信できる当事者も増えつつあります。

UnBalanceも地域や福祉、医療やさまざまな専門家と連携しながら社会にもっと発信していけるように運営していきたいです。こうした「当事者」「家族」「地域」「専門家」や「支援者」さんがつながっていくことで、それぞれが少しでも生きやすく、そして笑顔の輪が増えたらいいなと願います。

(もとむらゆうこ 一般社団法人Unbalance代表理事)