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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

難病NET.RDing福岡の取り組み
~新たなピアサポート形態としての難病カフェ

池崎悠

はじめに

難病NET.RDing福岡は、福岡県内の難病の社会的理解と患者の生活環境改善を目的に活動するグループです。2014年のRDD(Rare Disease Day:世界希少・難治性疾患の日)の福岡初開催を足がかりに、同年6月に設立しました。異なる疾患をもつ当事者、支援者5人で構成され、RDD開催(本年で4回目)をはじめ、交流会や議員・行政との懇談会、交流会、オンラインでの情報発信等をしています。

2016年からは、福岡県難病相談・支援センター(以下、センター)との連携で「難病カフェ」を新たに開始しました。2016年5月と10月、2017年5月の計3回開催しています。

カフェ開始の経緯

2015年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行され、ようやく難病支援に法的根拠ができました。翌年には「障害者差別解消法」、「改正障害者雇用促進法」も施行され、難病者周辺の法整備は進んでいます。

このような法をうまく活用していくためには、情報収集、勉強、相談窓口の充実はもちろんのこと、地域の当事者の声の集約が欠かせません。福岡県においても、センター主催のピアサポーター養成研修で35人のピアサポーターが誕生し、各患者会等で積極的な相談業務が行われています。

そのような機能を担っている患者会ですが、平日の日中に、会や相談窓口へアクセスするのが困難な患者も少なくありません。また、会の高齢化、オンラインでの情報収集の易化から、若年層の患者会加入率は低下しているのが現状です。

そこで、1.土日に、2.アクセスのよい県内中央部で、3.所属患者会の有無を問わずに気軽に、4.ピアサポーター、センターの支援員(第3回は社労士含む)に相談できる場として、難病カフェの開催を決定、センターとの共催で開催するに至りました。

カフェ形式にしたのは、気軽に立ち寄ってもらうことを第一の目的としたからです。

会議室などでの交流会の場合は、開催時間や事前申し込みなどの物理的制約があり、来場に至るまでの心理的ハードルが比較的高いと言えます。その制約を排除し、気軽に、出入り自由で雑談のみでも相談対応も可能、リラックスした雰囲気の中で思いや課題を共有できる場を設定しました。また、コーヒーや提供メニュー等も工夫し、相談しやすい環境づくりにも注力しました。

具体的な手法

難病カフェの開催にあたって取り入れた方法をご紹介します。

1.事前予約不要だが、ピアサポーターの相談やセンター・社労士への相談希望者は事前に名前・疾患・相談内容を記載の上、センターサイトから申し込んでもらう

2.疾患を限定しないこと/支援者・興味のある人も参加できる

3.レンタルカフェ・またはオープンスペースを貸し切り、実際のカフェのような雰囲気で開催

4.腸疾患の方も安心して口にできる、カフェインレス、バター・小麦粉不使用のメニューも提供

5.センター・社労士相談コーナーはプライバシー保護のため、パーテーションを利用

6.当日の運営はセンター支援者、ボランティアスタッフ、ピアサポーターで実施。注文、食事提供はボランティアスタッフで行う

7.難病に関する冊子やパンフレットを、自由に見られる形で展示

来場者が入店次第、RDingメンバーが「オーダー」として就労、生活、医療等の相談項目を聞き、項目に合ったスタッフで相談対応を行いました。また、同じ疾患の来場者がいた場合は同じテーブルに誘導し、交流を深めてもらうこともありました。

私たちが借りたカフェは立地もよく、通行人が「本物のカフェ」と思って入店してくるという嬉(うれ)しいハプニングも数度ありました。難病者とそうでない人との垣根をなくす、共生の一片を垣間見た瞬間でした。

利用者からの声

来場者は、第1回が33人、第2回が22人で、第3回が24人でした。患者会の所属はほとんどなく、30代の来場者が最多で、一般的な患者会に比べ若年者の来場が目立ちます。来場者全体の男女比は5対5で、毎回70%以上が当事者の参加でした。来場者の声を一部抜粋してご紹介します。

・「病気」といった固い雰囲気がなく、自由にお互いのことを話しながら情報交換できてとてもよかった。(30代男性)

・自分と違う病気の人と話す機会がないので、今回はいろいろな病気の人の話が聞けて良かった。(60代女性)

・気軽に入れる雰囲気が素敵でした。こういう場がさらに広がり、誰でもふらっと相談・雑談できるようになるといいなと思います。(20代男性)

・難病患者さんや支援してくださる方たちの支援の輪を感じました。(40代男性)

他にも、難病の方と初めて話ができてよかった、同じ病気の友人にも打ち明けられなかった就労の悩みを話すことができた、などの意見がありました。

その後の広がり

もちろん、難病カフェを開催しているのは私たちのグループだけではありません。北九州の「なんくるカフェ」にはカフェ開始前に視察に伺い、その後もお互いにスタッフを派遣しあって、ノウハウを共有しています。長崎の「Nagasakiの小さな難病カフェ」とも交流を持ち、お互いに参加し合ってよりよい開催形態を模索しています。

持続可能なカフェには、手法の明文化が不可欠です。宮崎で開催されている「なんなんカフェ」のマニュアルは、非常に高度で誰でも理解できるように構築されており、大変参考にさせてもらいました。その他の県、九州外のカフェ主宰者ともSNSなどでやり取りをしています。

現在の状況

現時点での難病カフェ成功の要因・課題をまとめます。

相談への心理的・物理的ハードルを低くしたことが成功要因といえるのは間違いありません。センターとの連携・共催により、既存の相談形態ではカバーしきれなかった潜在的な難病者に必要な支援が提供できています。それに加え、さまざまな疾患の方と話すことで、広い視点からの情報交換も見込まれます。

また、来場者のニーズに合わせて開催形式が流動的に検討できる(今回は就労、次回は生活支援など)のも、カフェ形式の利点です。

課題としては、場所の継続的な確保、人員の確保です。あらゆる患者会が抱える問題ですが、当事者が運営するので毎月開催というわけにはいかないのが現実です。場所や人員などの物理的な支援を含め、行政や支援機関との協働を一層深めていく必要があります。

今後の展開や抱負

難病カフェは今の形で継続しつつ、お越しいただいた方々の声を集約し、地域の難病対策に反映できるような機会を定期的に持ちたいと思っています。また、難病カフェは全国に広がっていますので、手法を共有しあい、これらの知見を集合知としてまとめ、当事者に還元できるようなネットワークを築きたいです。

気軽に立ち寄れる場所で、公的な支援機関であるセンターへも同時にアクセスでき、かつ多くの当事者とも交流できるカフェは、今後の相談形態の新たな選択肢となるでしょう。

(いけざきはるか 難病NET(ネット).RDing(リーディング)福岡代表)