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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

知り隊おしえ隊

走る楽しみを共有して

重田雅敏

ニューヨークシティマラソンとアキレスメンバー

毎年11月に開催されるニューヨークシティマラソン。日本からたくさんのアキレスメンバーが参加し、なかには19回連続参加という古株のメンバーもいれば、大会参加を契機に結婚したカップルもいる。

私は、2015年にこのニューヨークシティマラソンに参加した。スタテン島から長大な吊橋を渡ってブルックリンへ入る。住宅地を走り抜けてクイーンズからマンハッタン島の一番街へと走る。さらに橋を渡ってブロンクスへ、最後はセントラルパークにゴール。

約7万人の参加者が800万人のニューヨーク市民の熱狂的な応援のなかを駆け抜ける米国最大の市民マラソン。鼓膜が破れそうな声援が、元気と勇気をよみがえらせてくれる。完走メダルをかけて街を歩けば、地下鉄は無料。すれ違うサラリーマンやオフィスレディーから、称賛の声を掛けられる。思考を凝らした応援パフォーマンスや、さまざまな言語の声援は、一生忘れられない思い出になっている。

誰でも走る喜びを

1983年、障害者が一般市民とともにランニングを楽しむことを目的にアキレスインターナショナルは、ニューヨークで設立された。現在、全米に約30の支部を持ち、世界約40か国に60の支部を持つ。日本支部が創設されたのは1995年。「走ってみたい、身体を動かしてみたい」というチャレンジする意志があれば誰でも参加できる、障害者を主体にしたおおらかなランニングクラブだ。

私はアキレス・インターナショナル・ジャパンに入ったのが2002年。現在までこの創設時の精神が受け継がれており、打ち解けたアットホームなところが気に入っている。

私のような中途失明者は、とかく自宅にこもりがちで、なかなか外に足が向かない。東京の失明者更生館(現・東京視覚障害者生活支援センター)で日常生活訓練を受けていたとき、センターの先生に誘われてアキレスに参加してみた。徐々に練習を通して体力や走力がついただけでなく、毎回新しい経験や人との出会いが楽しくて、障害者としての生活も悪くないなあと思えるようになった。目の前に健康的で充実感のある新しい世界が広がった。

アキレス・インターナショナル・ジャパンの活動

アキレスの日本支部は、現在、会員が約400人、練習会には毎回100人ぐらいが参加。その半数が障害者だ。土砂降りの雨の日でも40人ぐらいは集まる。

初期のころは視覚障害の人がほとんどだったが、最近は聴覚障害、知的障害、発達障害、車いすの方もよく参加している。

これまで伴走者不足が課題になっていたが、最近はマラソンブームのせいか、早稲田大学運動クラブの学生や外国人のボランティア、ホームページなどで知ったランナーが参加するようになった。伴走者に英語を話せる人が多く、東南アジアをはじめとして、世界各国から、毎回のように障害者やボランティアが参加しているのはアキレスの特徴だ。

定期練習会は、毎月第2、第4、第5週の日曜日に開催(雨天決行)、毎回9時、JR原宿駅表参道口改札に集合する。原宿駅に集合した人が、順次グループになって代々木公園内の六角休憩舎に行き、着替えをする。朝の挨拶の後、連絡事項・新人紹介・参加者の声出し(それぞれのハンドルネームはより親しみを深める)・準備体操(アキレス独特の楽しい体操)だ。いよいよ伴走ペアのマッチングをして、各ペアがコースに飛び出す。

代々木公園のランニングコースは主に3コース。一番短い内側コースは、約1.1キロ、外側コースは1.8キロ、坂道コースは2.2キロある。どのコースも木々に囲まれて都会とは思えないほど自然が一杯。公園内は文化活動も多彩で、楽器を練習する人、演劇やパフォーマンスをする人、ヨガや太極拳をする人などを横に見ながら一周すれば、世界文化ツアーもできそうだ。

そして楽しみは、何と言っても六角休憩舎に設けられたエイドステーション。手慣れた数人のスタッフの方が、スポーツドリンクや麦茶、コーヒーやジュースを用意し、それに加えて、季節のフルーツ・おにぎりやパン・カステラやケーキ類・チョコや梅干し・クッキーやせんべい、さらには、いろいろな人が持ち寄ってくれたお土産や自慢の手作り食品が並ぶ。疲れた体にしみいる水分、楽しい会話においしいお菓子、ついついランニングを忘れてエイドに長居をしてしまう。

練習は12時に終わり、その後は自由解散だが、気の合う人たちと食事に行くのも楽しみのひとつ。第5土曜日には、青空親睦会を開催、ビールを片手にお互いにレースに参加したときの話で盛り上がる。

その他の行事として、新年会・独自主催の「アキレスふれあいマラソン」、合宿なども企画。一泊二日の合宿では、ランニングだけでなく、温泉に入ったり、ご当地のおいしい食べ物を味わったり、夜更けまで会話を楽しむ。みんな温泉・食事・会話が大好き。家に引きこもっていた障害者たちが、アキレスの活動を通してこの3つの宝を手に入れることができたのだから、ランニングクラブはありがた~い極楽とも感じる。翌朝は、たくさんの人たちが早朝ランニングに元気に出掛けて行くのだからびっくり。自然と体力、気力がついてくるのがうれしい。

アキレスのメンバーが主に参加するマラソン大会は、4月のかすみがうらマラソン(茨城県)、12月の青島太平洋マラソン(宮崎県)、5月の、日本支部が独自に開催するアキレスふれあいマラソンは、400人以上が集まる手作りの交流イベント。10月にはタートル国際マラソン兼バリアフリータートルマラソン大会があり、この大会の開会式では、アキレスメンバーが毎回選手宣誓をする。

私の3つの願い

1.いつでも、どこでも伴走ランニング

ランニングはとても手軽で1人でもできるスポーツだが、1人で始めるとなると敷居が高く、長続きしない。でも伴走ランニングなら大丈夫。会話もできるし、いろいろな障害の人も外国人も分け隔てなく楽しむことができる。アキレスの活動がどんどん国内にも海外にも広がって、より多くの人がいつでも、どこでも伴走ランニングを楽しむことができるのが夢だ。

2.どんどん海外のマラソン大会に行きたい。

私は、ニューヨーク・ボストン・香港などの大会に参加した。今年は、台湾やモンゴルの大会にも参加したいと思っている。ランニング+観光は、障害者と伴走者が一対一で参加しているので、いくつかのペアが一緒になってグループで取り組めば、伴走者にとっても負担が少なく、一緒に楽しむことができる。伴走に慣れてきたら、海外の大会に行くことをお勧めしたい。

3.もっと楽しい交流の場を増やしていきたい。

ランニングクラブの人数が拡大するにつれて、逆に会員一人ひとりの繋(つな)がりが希薄になってしまう傾向が見られる。20人~30人の団体の頃は、練習後にみんなでよく食事に行った。50人~100人ともなると、同じ店にも入れないし、一緒に練習していても会話も交わさずに帰る人も多くなった。アキレスには、一泊二日の合宿もあるが、いろいろな事情で行けない人もいる。定期の練習後に食事に誘いあうことや、いろいろな文化行事も、せっかくつながった仲間なので、ぜひ一緒に行きたいと思っている。

アキレスでは、走る機会(chance)を増やし、自らの目標に向かって挑戦(challenge)し、コミュニケーション(communication)の3つの「C」を大切にしている。

アキレスには、未来の共生社会を先取りしている「人と人との温かい繋がり」がある。多様な人たちが思い思いに自分の目標にチャレンジしている。ランニングの楽しさだけでなく、誰もが活躍できる共生社会の絆も広げていけたら、と願っている。

入会するには

アキレス日本支部では、さまざまなタイプの障害をもつ方や伴走に興味をお持ちの方の参加を募集している。経験豊富なスタッフが、トレーニングやレースの指導、走ることに関するいろいろな相談にも応じている。入会は、左記の連絡事務所に連絡するか、直接練習会に参加されれば、経験豊富なスタッフが対応する。

年会費は2,000円(家族会員は1,000円、学生や子どもの会員は無料)

(しげたまさとし アキレス・インターナショナル・ジャパン)


●連絡先:アキレス・インターナショナル・ジャパン 連絡事務所
〒169-0074 東京都新宿区北新宿4―13―9―501 谷方
TEL:(03)5330―0188