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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

日本政府の前半の実施状況と後半での取組
~SDGs達成のためにも障害者の権利の着実な実現へ~

甲木浩太郎

1 アジア太平洋障害者の十年(2013~2020年)の策定について

2018年は、アジア太平洋障害者の十年(2013~2020年)の前半5年が終わり、後半5年が始まる年にあたる。本稿では、前半5年における日本政府外務省の取組について振り返り、後半5年の展望を述べる。

「アジア太平洋障害者の十年」は、国連障害者の十年(1983~1992年)に続く取組として、アジア太平洋地域における障害者への認識を高め、域内障害者施策の質の向上を目指すため、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において採択されてきた宣言である。

わが国は、1992年のESCAP第48回総会において採択された第1次アジア太平洋障害者の十年から、現行の第3次アジア太平洋障害者の十年まで、すべての障害者関連決議の提案に参加するなど、一貫して、ESCAPを通じアジア太平洋地域における障害者施策に積極的に関わってきた。

2012年5月のESCAP第68回総会で採択された第3次アジア太平洋障害者の十年に関する決議で、わが国は共同提案国となった。また、同年11月には、第2次アジア太平洋障害者の十年の最終レビュー・ハイレベル会合が韓国・仁川(インチョン)で開催され、行動計画である「仁川戦略」が採択されたが、わが国は風間直樹外務大臣政務官(当時)を代表として出席し、積極的に議論に参加した。同会合には、日本障害フォーラム(JDF)の藤井克徳氏が特別顧問として代表団の一員として参加したほか、JDFからは事前に日本政府の発言に対して要望もいただいた。わが国の努力により、後述するワーキンググループに市民社会団体が特別な条件なしに参加できることになったことは、JDFの要望にも応える結果になったのではないかと思う。

2 ワーキンググループ

第3次アジア太平洋障害者の十年の仁川戦略を効果的に実施するための助言や支援を提供することを任務として、毎年1回ワーキンググループが開催されている。ワーキンググループは15の政府代表と15の市民社会代表から構成され、日本政府もその一員として、第1回から第4回までのすべてに参加してきた。

ワーキンググループの任期は5年間だが、先日わが国は後半5年間のワーキンググループにも参加する旨表明したところであり、引き続き、積極的に関与していく予定である。

3 ESCAPを通じた障害者支援に関する国際協力

外務省は、国際協力の一環として、JICAなどを通じてアジアやアフリカなどの各国においてさまざまな障害者支援事業を実施している。アジア太平洋障害者の十年を推進していくため、ESCAPが実施する障害者支援事業にも継続して支援を行なってきた。たとえば、東日本大震災などで障害者が他の人々に比べてより被害を受けやすかったという結果を受けて、障害を包摂した防災に力点を置いており、ESCAPを通じて、障害者のための防災におけるe-ラーニングコースの開発を支援している。

4 中間レビュー・ハイレベル会合

2017年11月27日~12月1日、中国・北京においてアジア太平洋障害者の十年中間レビュー・ハイレベル会合が開催され、わが国を代表して出席した。また、JDFの藤井氏にも5年前の会合と同様、顧問として代表団の一員となっていただいた。当該会合では、これまでの5年間における各国の障害者施策の取組状況が共有され、次の5年間に向けて取り組むべき内容が「北京宣言」という形でとりまとめられた。

また、11月28日には、JDFが日本財団の協力を受け、障害者のアクセシビリティの重要性について議論するサイドイベントを開催し、同イベントは在中国日本国大使館が後援し外務省が挨拶を行なった。日本や中国、韓国などにおけるアクセシビリティの進展について有用な意見交換がなされたと聞いている。

さらに、12月1日には、前述のわが国が支援する障害を包摂した防災e-ラーニングコースのローンチイベントに出席し、挨拶を行なったが、出席者などから肯定的な意見をいただくことができた。

5 障害者権利条約やSDGsとの関係

国連事務局経済社会局においても障害者の権利を保障するための協議が行われており、2006年12月13日の国連総会において、「障害者の権利に関する条約」が採択された。前述の「仁川戦略」ではこのことを踏まえ、目標9において、同条約の批准及び実施を推進し、各国の法制度を権利条約と整合させることが掲げられている。日本は、2007年9月28日に、高村正彦外務大臣(当時)が同条約に署名し、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の制定など、障害者の権利を保護するためのさまざまな国内法を整備した上で、2014年1月に同条約を批准。2016年6月には初回の政府報告を国連に提出しており、このことが「仁川戦略」における目標達成にもつながっている。

また、2015年9月の国連サミットで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。同アジェンダに記載された、持続可能な世界を実現するための2030年までの17の目標が「持続可能な開発目標」(SDGs)である。SDGsにおいては、障害者は脆弱な立場におかれやすいグループとして、分野横断的にさまざまな目標の中に取り込まれており、「仁川戦略」の各目標とも相互に連関している。日本政府は、SDGs達成に向けて総理大臣を本部長とする推進本部を立ち上げ、さまざまな取組を行なっており、官民を問わず盛り上がりを見せ始めている。昨年、SDGsの達成に向けて優れた取組を行う企業、団体等を表彰するため、ジャパンSDGsアワードを創設し、第1回アワード副本部長賞を障害者支援を行うNPO法人が受賞した。このような取組が障害者が暮らしやすい世の中づくりへの新たな契機となるよう、今後も全力で取り組んで参りたい。

6 結語

持続可能な開発のためには、人間の安全保障の理念に立脚し、人間一人ひとりの豊かな可能性を実現することが必要であり、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、諸施策を推進していくことが重要である。

「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すSDGs達成のためにも、障害者の権利を実現する「仁川戦略」の着実な実施に向けた努力を今後も継続していくことが重要である。

「十年」の中間年にあたり、わが国は、「十年」の後半においても、引き続き、ESCAP事務局や他加盟国と連携しながら、障害者施策を国内外で積極的に推進していく。

また、政府はもちろん、自治体や民間企業、そして市民社会が一緒になって取り組むことが重要である。これまでもJDFをはじめ市民社会の方々からは、障害当事者からの貴重な御意見や御要望等を伝えていただき、大変参考にさせていただいてきた。引き続き今後も連携し、よりよい政策につなげていきたい。

(かつきこうたろう 外務省国際協力局地球規模課題総括課長)