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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

精神障害者の権利の実現
―アジア太平洋地域障害者の十年中間年を迎えて―

桐原尚之

2017年11月、北京において国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)によるアジア太平洋障害者の十年中間年評価ハイレベル政府間会合が開催された。筆者は、精神障害者団体である世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)を代表して出席した。会合に出席した理由は、インチョン戦略作業部会のメンバー改選にあたって、メンバー継続の意向を示すことであった。

第3次アジア太平洋障害者の十年の前半5年は、ほとんど精神障害者の権利の実現は進まなかったように思う。筆者は、第3次アジア太平洋障害者の十年の開始時に精神障害者団体の参画実現に向けてさまざまな取り組みをした。また、各国の開発の実施状況を具体的に担保していくため、政府をチェックする機能が必要であると考えた。当時、WNUSPはアジア太平洋地域のネットワークが弱かったため、チェック機能を実質的なものにできるかについては若干の不安があった。しかし、同じ時期にアジアにおける精神障害者団体の組織化の動きがあり、筆者らも加わって、2014年にTCI-Asiaを結成した。

筆者は、TCI-Asiaの活動を通してアジア各国の精神障害者人権侵害の一部始終を見てきた。どこの国の精神障害者も根本的には同じ問題に苦しんでいることがわかった。鎖に繋(つな)がれている者、拘束具で縛られている者、病院に閉じ込められている者がいる。こうした問題に対して医療者の取り組みでは解決できないことや、新たな問題を再生産してしまうことがあり、精神障害者団体による別の視点からの取り組みが注目されて久しい。とはいえ、いまだ社会的な認知は低い状況である。

日本政府は、政策決定過程において障害者団体よりも医療者団体の意向を重視し、精神科病院の長期在院等の問題を解決できないままとなっている。そして開発途上国への援助では、確実に現地の障害者団体に予算が配分されるような仕組みになっていないため、障害者団体への取り組みにほとんど予算が付けられておらず、医療者にばかり予算が付けられている現状がある。

後半5年の課題は、持続可能な開発目標(SDGs)に障害が入ったこと、障害者権利条約第32条に国際協力の条項があることなどとあわせて、障害者団体の取り組みに確実に予算が付けられるような仕組みを考案し、要求していくことであると考えている。

(きりはらなおゆき 全国「精神病」者集団運営委員)