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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

平成30年度障害保健福祉関係予算を見て

中村尚子

毎年、障害保健福祉関係予算(以下、障害関係予算)を見る際に、前年度比(増減)や経年変化、概算要求からの増減など数字の動きとともに、社会保障全体及び関連する他分野の動向との関係、新規事業などが障害のある人や事業者にどのような影響があるのか、という視点をもつことが必要なのではないかと思う。しかし、毎年必ずしも同一費目で組まれるわけではなく、比較するだけでも困難な作業である。また数億円という単位で計上される予算の増減が、日々の支援にどのように影響するのかといったことは、なかなか予測できないので、ここでは私が気になったことを一、二述べる。

予算額10年間で2倍

厚生労働省(厚労省)の説明によれば、障害関係予算は毎年増額が続いている。前年度比で見ると、平成28→29年度は障害関係全体7.0%、障害福祉サービス9.5%であった伸びが、平成29→30年度はやや鈍ったものの前者が6.6%、後者が9.1%である。概算要求と比較すると、総枠上はほぼ要求どおりの予算といえる。伸び率については、平成30年度社会保障関係費予算全体が1.5%増であったことに比べても、高いといえる。

経年的にも増額傾向が続いており、「障害福祉サービス関係予算額は10年間で2倍以上に増加」と厚労省は述べている。問題は、こうした予算の伸びが、障害のある人の暮らしや事業者の支援の質を支えることに結びついているかということである。

必要な人に支援が届いているか

『障害者白書』に記載されるデータから推計される日本の人口に占める障害者の割合は、約6%である。この数値は、欧米諸国と比較して3分の1から2分の1程度に留(とど)まっており、日本の「障害者の範囲」の狭さは、たびたび指摘されてきた。また、「生活のしづらさ調査」(厚労省、2011年)を分析した佐藤久夫の指摘によれば、障害者手帳所持者のうち障害福祉サービスを利用している人は、約26%であるという(『障害者福祉の世界 第5版』)。もちろん、この数字をもって「必要な人に支援が届いていない」とはいえないが、対象者を障害者基本法にいう「障害及び社会的障壁により」生活上制限を受ける状態にある人とするならば、「10年間で2倍以上の増加」をはるかに超える予算が必要であることは否定できないであろう。

一方で、予算の根っこを握る財務省は、「自立支援給付利用者の18~64歳人口に占める割合」が上昇している(平成28年3月で約1%)といったデータを示して、「サービス利用の必要性の判断や適正な利用量の見極め」ができるしくみを検討すべきだと言っている(経済・財政一体改革推進委員会社会保障WG 平成29年4月25日資料)。障害者施策に直接かかわる省庁は、本来、財政枠組みの縛りをはねのけ、障害福祉サービスが必要な人に届いているかどうかについて根拠ある調査を実施して、予算要求しなければならないのではないかと思う。

事業者にとっての予算

自立支援給付と表裏一体の関係にあるのが、事業者への報酬である。予算の大半を占める障害福祉サービスであるから、平成30年度報酬改定が及ぼす影響は事業者にとって切実である。改定率「+0.47%」は、すべての事業にとってのアップではない。障害の重度化・高齢化への対応、医療的ケア児への支援など重点的に新設・加算される報酬がある一方で、サービス提供時間などによる細かな区分や成果報酬制が設けられ、結果として減収となる事業所が続出すると予想される。「サービスの質」が問題視されてきた放課後等デイサービスは、「収支差率(10.9%)を踏まえ報酬の適正化」をするというが、儲(もう)け本位の事業所ではなく、保護者と共につくりあげてきた放課後活動の存続が危惧される事態である。

地域特性を生かした事業の行方

地域生活支援事業には、個別給付で対応できない多様な事業が盛り込まれてきた。必須事業、任意事業とも種類が増え、市町村必須事業は現在10を数える。前年度に引き続き、意思疎通支援や移動支援、虐待防止、成年後見制度の利用促進などの必須事業を強化するとして、予算額は前年度5億円増の493億円である。しかし、平成20年度予算が400億円だったので、10年たって横ばいといってもよい程度の増だ。

結果として、地域の特性や利用者の状況に応じて、市町村が柔軟な形態で実施できる事業という趣旨への期待も高まる一方、メニューのみが増え、予算がまったく追いついていない。ニーズに応じて事業を行えば、必然的に市町村の財政負担が増す。そして、自治体の財政力による施策の格差が固定化される結果となるのである。

生活の基盤と予算

他分野の予算に視野を広げると、生活保護の「改正」動向に注目せざるを得ない。2013年度からの段階的な引き下げに続き、今年10月から生活扶助費等の引き下げが目論(もくろ)まれている。きょうされんの調査(2016年5月)によれば、作業所などを利用している人の1割超が生活保護を利用しているという。したがって、改正を前提とした予算編成は、障害のある人の生活を直撃することは間違いない。

一見小さく見える数字であっても、障害のある人にとっては大きな問題であることを、予算の中に見ていく必要があると強く思う。

(なかむらたかこ 立正大学社会福祉学部)