音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

平成30年度障害保健福祉部予算について

今村登

報酬改定率は+0.47%

平成30年度の障害保健福祉部の予算概要が提示された。今回は3年ごとに行われる報酬改定と重なり、平成27年度に行われた前回の改定率は±0%であっただけに、まずは今回の改定率が注目された。2年前の障害者総合支援法の改正で盛り込まれ、平成30年度からスタートする新サービスの運用及び課題への対応も併せて注目ポイントであった。

報酬改定率は +0.47% (平成27年度 ±0%)で、報酬単価が上がることは評価できる一方、「自立生活援助」など法改正により創設された新サービスの報酬を設定することなどを総合的に勘案されてのことであるため、単純に現在の報酬単価より0.47%増える訳ではない。

相変わらず厳しい、地域生活支援事業費

意思疎通支援や移動支援など、障害児・者の地域生活を支援する事業について、地域の特性や利用者の状況に応じ、事業の拡充を図ることで、昨年8月の厚労省の概算要求は507億円だったが、そこには及ばなかった。移動支援などの重要な施策があり、その他もたくさんのメニューがあるなかで、地域生活支援事業費が抑え込まれると、自治体での施策の展開が困難を強いられる。相変わらず地域生活支援事業の予算は不十分と言わざるを得ない。

一方、地域生活支援事業に含まれる事業やその他の補助事業のうち、国として促進すべき事業について「地域生活支援促進事業」として位置付け、質の高い事業実施を図ることで、具体的には「重度訪問介護利用者の大学等の修学支援」が新設された。これは現在、通勤通学、就労就学には重度訪問介護サービスは利用できないことから、常時介護を必要とする重度な障害者が大学等の進学を諦(あきら)めざるを得ない状況があるのは社会的障壁ではないかとの指摘に、一応、応えたものとなっている。「一応」というのは、重度訪問介護の利用者が大学等に修学するに当たって必要な身体介護等を、大学等における支援体制が構築されるまでの間において提供するという条件付だからである。通学、就学中の利用ができないのは、国が示す重度訪問介護の「移動の目的」に「1.通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、2.通年かつ長期にわたる外出及び3.社会通念上適当でない外出を除き、4.原則として1日の範囲内で用務を終えるものに限る。」と追記されているためである。これは法律ではなく厚労省が定めているものであるので、法改正などの大掛かりな手続きは不要である。明らかに社会的障壁になっていると思われるが、なかなかこの一文の削除はハードルが高い。

この重度訪問介護の外出の規定を参考に、市町村の地域生活支援事業である「移動支援」の要綱が作られているケースが多く、1、2はもとより特に3と4の行き過ぎた拡大解釈により、障害のない一般市民が行なっている余暇活動(映画鑑賞、コンサート、居酒屋、公営ギャンブル、泊まりの旅行等)でさえも利用不可とされている市町村がある。今回の報酬改定の時期に合わせて、この規定の削除を求めてきたが、通学については「通年かつ長期」の記述はそのままであるものの、先述の「重度訪問介護利用者の大学等の修学支援」が新設され、「4.原則として1日の範囲内で用務を終えるものに限る」の箇所は削除されることとなった。

報酬改定関連

重度訪問介護の障害程度区分6の者限定だが、コミュニケーション支援等を中心に、入院中の利用が可能となった。入院中の利用は長年その必要性を訴えてきただけに大きな前進である。ただ、もともとの支給量の範囲内での利用なので、入院したからといって新たに支給量が増えるわけではないため、これによる予算増の必要はなく、区分にかかわらず重度訪問介護利用者全員に適用しても問題は無いと思われる。区分6の者に限定する理由は「最重度の障害者」を対象にするからとのことらしいが、入院中の利用のニーズは区分4、5の者でも同様にあるため、対象の拡大は今後の課題である。

同じく重度訪問介護の区分6の者に限定されたものの、一定の評価をしたいのは、重度訪問介護事業所が新規に採用したヘルパーにより支援が行われる場合において、当該利用者の支援に熟練したヘルパーが同行して支援を行なった場合に、それぞれのヘルパーが行う重度訪問介護につき、所定単位数の100分の85を算定する(算定開始から120時間に限る)である。これは吸引等医療的ケアを必要とする利用者に新人を入れる際のOJTを、実質的に評価するものであり、質の高いケアの提供に寄与する。

まとめ

介護職の担い手不足を一気に払拭できるようなインパクトは無いが、運用面での改善、前進が見られたことは素直に評価したい。来年予定どおり消費税が改定された場合、その増収分は社会保障費に充てると言われている。これまで障害福祉予算に回ってくるかどうかは不明瞭であったが、いわゆる2兆円パッケージの中で障害福祉人材に対する処遇改善にも提要されることが明記されたことは、今後への期待感が持てる部分である。

一方で少子高齢化の続く中、財源不足、不安定さを理由に、再び介護保険統合論が浮上してくる懸念は払拭できない。今回から導入される共生型サービスがどちらに転ぶのか、「我が事・丸ごと」の議論と併せて、平成30年度以降の動向を注視していきたい。

(いまむらのぼる DPI日本会議事務局次長)