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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

検証 障害者差別解消法 第8回

コミュニケーション分野における差別の解消と合理的配慮の現状と課題

田門浩

コミュニケーション分野における合理的配慮の内容

コミュニケーション面で社会的障壁に直面している人々は、聴覚障害、視覚障害、盲ろう者だけでなく、失語症、構音障害、知的障害、発達障害、高次脳機能障害、精神障害などをもつ人々も含む。これに対する合理的配慮もさまざまで、聴覚障害者への手話通訳、要約筆記や赤外線マイクなどの機器、視覚障害者への点字、拡大文字、代読や代筆、盲ろう者への触手話や指点字、知的障害や発達障害、精神障害のある人へのわかりやすい表現の使用、重度の身体障害者や難治性疾患の患者に対するコミュニケーションボードの使用による伝達などが含まれる。筆者が聴覚障害者であるため、本稿では聴覚障害者に多くの分量を充てているが、他の種類の障害者についても数多くの課題が残っている。

障害者差別解消法施行後の変化

筆者の実感としては、障害者差別解消法が施行された後は、筆談ボードや手話通訳の提供が増えており、一定の進展が見られる。しかし、不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供もまだ残っている。

不当な差別的取扱い

この法律で扱われる「不当な差別的取扱い」とは、正当な理由がないのに障害のない人と異なる取扱いをすることをいうが、実際に起こった事例がいくつもある。

たとえば、聴覚障害者のグループが飲食店に予約を申し込んだが、店長から手話通訳者がいないことを理由に予約を断られたことがあった。また、国会には障害者差別解消法は適用されないが、衆議院厚生労働委員会での障害者総合支援法の審議の際、当初ALS患者が参考人として出席する予定であったが、政党側からコミュニケーションに時間を要すると言われて交代を余儀なくされた事例もある。

行政機関等による合理的配慮の不提供

合理的配慮をすべき法的義務を負っているはずの行政機関等、たとえば、警察、児童相談所、職業訓練施設が、予算がないとの理由で手話通訳を提供しないことが何度もあった。また、国や地方公共団体がインターネットで公表している資料がPDF形式のみで、視覚障害者がその内容を認識できないことも多い。

民間事業者による合理的配慮の不提供

特に問題提起したいのは、テレビ放送と電話通信である。テレビ放送に関しては、字幕放送時間の割合が依然として低く、NHK総合放送では80.6%であるが、NHK教育放送が69.2%、在京キー5局では57.9%しかない。また、視覚障害者向けの解説放送も、NHK総合放送では10.1%、NHK教育放送が14.5%、在京キー5局では2.9%しかない。手話放送は皆無に近い。また、電話についても、聴覚障害者が利用できるようにするためには、オペレーターが手話や文字で通訳する電話リレーサービスが必要であるが、電話会社はいまだに提供していない。

災害時における合理的配慮の不提供

また、災害が起きた時の合理的配慮も不十分である。震度7を記録した2016年4月の熊本地震、2017年の九州北部豪雨等の災害、また、全国瞬時警報システム(Jアラート)が発動されたミサイル発射の際、屋外でサイレンが鳴らされ、音声放送も流された。しかし、文字などの非音声情報による警報がなく、聴覚障害者等には情報が伝わらなかった。テレビ放送も、ごく短い字幕のみであった。首相官邸による緊急記者会見の場には手話通訳者が通訳していたが、大部分のテレビ局はそれを画面からカットして放送していたのである。

障害者総合支援法の課題

また、障害者総合支援法には意思疎通支援制度があるが、十分ではない。この法律で必須事業とされているのは、聴覚障害者に対する手話通訳者、要約筆記者、盲ろう者向け通訳・介助員の養成派遣のみであり、これらの各事業も予算の制約が厳しく、障害者のニーズに十分応えられていない。それ以外のコミュニケーション支援は必須事業と位置づけられておらず、支援体制が不十分である。

将来の展望

まず第一に、障害者差別解消法を積極的に周知する必要がある。2017年8月に内閣府が実施した「障害者に関する世論調査」によれば、障害者差別解消法を知らないという回答が77.2%にのぼっているからである。

また、情報バリアフリーを目指した情報コミュニケーション法も必要である。障害者差別解消法5条は、行政機関等や民間事業者に対して、合理的配慮を的確に行うための環境整備をする努力義務を課している。この環境整備のうち、施設の構造の改善及び設備の整備に関しては、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」に基づいてさまざまな補助制度が用意されている。これにならい、情報やコミュニケーションのバリアフリーの環境整備を進める情報コミュニケーション法が必要である。いくつかの地方自治体では情報コミュニケーション条例が制定されており、今後は国レベルの法律制定が求められるのである。

(たもんひろし 弁護士)