音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

フォーラム2018

JDF全国フォーラム 障害者権利条約の実施に向けて
条約批准から4年―私たちはこう取り組む

服部芳明

日本障害フォーラム(以下、JDF)設立以来14回目となる全国フォーラムは、障害者権利条約の国内批准日である1月20日に開催しました。

日本が障害者権利条約を批准してから4年が経過し、障害者基本法に基づいて政策が進められているところですが、2年後に迫っている国連障害者権利委員会による審査を控え、障害当事者団体の連合体であるJDFにおいても、パラレルレポート作成を通じてその政策を振り返り、検証をしている段階です。

阿部一彦代表の冒頭のあいさつの中で、障害者権利条約の国内批准の日である1月20日に開催できた喜びと同時に、障害者が暮らしやすい社会の実現にはまだ課題がある、とコメントがあったように、障害者権利条約批准後の社会は、障害者にとってまだまだ障壁が残っていることも事実です。

今回のフォーラムでは、障害者権利条約の国際動向を学ぶことをはじめ、JDFの障害者権利条約に関わる取り組みの紹介と、権利条約の理念が私たち障害当事者の実生活にどう生かされているか、その取り組みと課題を共有し、今後どのようにその理念を生かし、障害者が暮らしやすい社会を実現していくかを、さまざまな立場の方々からの話をもとに議論を深めることがねらいでした。

まず、障害者権利条約の国際動向について、3つの特別講演を行いました。

一つ目は、秋山愛子氏(国連アジア太平洋経済社会委員会障害フォーカルポイント)による、アジア太平洋地域における障害者権利条約に関わる最新の動向とESCAPの取り組みについての講演でした。具体的にはアジア太平洋障害者の十年の最近の動きと将来の展望を話され、インチョン戦略やSDGsの取り組み、ESCAP2017障害ベースラインデータを紹介し、各国における障害者の社会参加とユニバーサル社会の実現の促進が課題であるとの説明がありました。そして日本に期待することとして、ESCAP及び各国の取り組みを分析に取り入れ、日本の良いところを積極的に発信していく必要があると熱く語られました。

二つ目は、長瀬修氏(立命館大学生存学研究センター教授)が、国連非加盟国である中華民国における、国際審査委員会による障害者権利条約の独自審査の状況について、実際に委員としてかかわった立場から、審査委員会の役割や国連における通常審査との違い、また中華民国における審査結果を明らかにすることで、日本における審査の参考となりうるポイントをご紹介いただきました。

三つ目は、石川准氏(国連障害者権利委員会委員)より、「国連障害者権利委員会の動きと市民社会の役割について」というテーマで、障害者権利委員会の紹介や実際の活動の様子、障害者権利条約の審査等について話をしていただきました。特に審査の重点項目として、障害者差別禁止法が整備・機能していること、政策決定とその監視に当事者が十分に参加できているか、また物理的及び情報の障壁を解消するためのアクセシビリティ法及び政策を行なっているか、という点を挙げました。市民社会、つまり多様な当事者組織によるパラレルレポート作成の重要性と効果、そしてJDFとして現在のパラレルレポート作成の作業を再検証するにあたっての実質的なお話をいただきました。

パネルディスカッションでは、障害当事者、支援者、司法関係者(弁護士)、行政の首長の立場から、障害者権利条約の理念を踏まえ具体的な取り組みや思いを語っていただきました。

鈴木千春氏からは実際に地域の駅等の施設のバリアフリー化に取り組まれた経験から、車いすのバリアーを訴え、当事者として声をあげていく大事さを力説されました。

福田暁子氏からは盲ろう者が障害者権利条約のほぼすべての条項で排除されていることを問題視し、声の届きにくい仲間の声をどう伝えていくかを切に訴えました。

増田一世氏は精神障害のある人の地域支援を行う立場から「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という障害者権利条約のスローガンを守り、障害者権利条約の理念に沿った、障害者にとって暮らしやすい社会づくりの必要性を、JDややどかりの里の取り組みを通して語られました。

東奈央氏は弁護士の立場から2001年「障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定を求める宣言」以来の日弁連としての取り組みを、現在作成中のパラレルレポートと合わせて紹介し、充実した障害者権利委員会の審査を実現してほしいとエールを送られました。

最後に泉房穂明石市長。明石市の福祉に光を当て、障害者自らが参画するまちづくりの取り組みについてご紹介いただきました。特に災害対策基本法では、災害時の障害者支援や安否確認について書かれていますが、実際には行政はそこまで手が回らず、動けない現状があります。それを解決するための方法の一つとして、障害者団体が支援に動くことが考えられますが、個人情報保護法がまず壁になり、支援者名簿を開示してもらえないといった問題が生じます。そこで、明石市では条例でその壁を突破して市が責任を持って情報を開示し、また障害別の防災訓練などを実施するという取り組みを行なっているとのこと。災害時に迅速な安否確認や支援を行うためにとても参考になる取り組みと感じました。

日本においては、障害者権利条約の批准にあたり、障害者基本法の改正、障害者総合支援法、障害者差別解消法等の施行といった国内法整備が行われたことは、皆さんもご存じのとおりです。これらの法律や施策に評価すべき点もあるものの、社会全体を見渡してみると、今の日本には障害者権利条約の理念が政策にまだまだ生かしきれていないと思うのは私だけでないはずです。

今回のフォーラムをとおして、やはり障害当事者や団体が声を上げて連帯して動き、草の根から国や行政を変えていく必要性があると感じました。そのためにはこうしたセミナー等を通して、さまざまな障害や立場の違いを理解し、尊重していくことが大切です。そして、私たちJDFで取り組んでいるパラレルレポートは、さまざまな障害当事者の立場から障害者権利条約批准後の国の施策を検証する、重要な作業です。今回の専門家の皆さんからのお話を参考に、障害者権利条約に沿った施策の適切かつ効果的な実施につながるよう、力を合わせて取り組んでいきたいと考えています。

(はっとりよしあき JDF企画委員、全日本ろうあ連盟理事)