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特集/地域リハ

地域リハビリテーションはどこまできたか

―現状と将来課題―

澤村誠志 *

Ⅰ 地域リハビリテーションのゴールはどこにあるのか

 「地域リハビリテーション(以下リハと略)はどこまできたか」との表題をいただいた。このタイトルをいただいた背景には、お前は長い間地域リハが重要だと言っているが、果たしてどれほどの具体的な成果があがっているのか検証しなさいと言うことであろうと勝手に解釈することにした。地域リハ活動は、机上の空論でなく、実践活動がその鍵をにぎると信じている。そこでまず、兵庫県における地域リハ活動の一端をご紹介したい。

1.兵庫県における地域リハ発展の経緯

(1) 地域身体障害者巡回移動相談からの出発

 私が地域リハの重要性を感じたのは、昭和35年頃から身体障害者厚生相談所の嘱託医として整形外科医の立場から兵庫県下の地域への身体障害者巡回移動相談(年に45回)に参加したことから始まった。初めは、義肢装具の相談判定義務が中心であったが、在宅訪問も兼ねるようになり、そこで地域に住んでおられる障害をもつ人々から多くの教訓を学んだ。数多くの手作りの住宅改造と機器からバリア・フリーの住宅と福祉用具の必要性を教えられ、45歳の脳性小児麻痺の息子を軽々抱いて風呂に入れる75歳の母親から介護技術の本質をみた。また、四肢の先天性変形を苦にして、世間体をはばかり自宅に作った座敷牢に閉じこめていた家族から社会教育の必要性を学んできた。

 病院での早期リハの重要性は勿論であるが、真のリハはむしろ病院から退院する時点から始まるとの認識が生まれたこの考え方が現在も続いている。住み慣れた地域で障害をもちながらも住み続け、そして社会の一員として出来るだけ積極的に参加していくためには、どのように心豊かな地域社会を作っていくべきかが、私どもの地域リハ活動の原点になっている。

(2) 地域リハビリテーション協議会

 当初、同じノーマライゼーションの理念を追って地域で汗を流している人々が、保健・医療・福祉・教育・職業などの縦割り機構の中で分かれており、お互いの情報が欠如していることを感じた。そこで、その交流の機会を作ることの重要性を感じ、それぞれの職業を越えて参加できるリハ研究会設定の必要性を感じた。これが、本年で27年目を迎える兵庫県リハ協議会である。いまだ不十分なことが多いが、この協議会を通じて医療・福祉・教育・職業などにわたる地域リハのネットワークが形成され、ベトナムのドク君の義足開発などアジア開発途上国への国際協力の道を拓くことができるようになった。

(3) 兵庫県におけるリハビリテーションシステムの構築

 地域リハビリテーションには、国、都道府県、二次保健医療福祉圏域、そして市町におよぶ段階的なシステム形成とそれぞれの役割の明確化が必要である。

 兵庫県で障害をもつ人々の凡ゆるニーズに答え、医療・社会・職業など総合的なリハサービスの中核的なセンターが必要であること、そして市町村への情報・研修・研究そしてバリアフリーのまちづくりなどに関するリハ中核機能の存在が必要であると考えるようになった。これが、30年の歴史をもつ現在の兵庫県立総合リハビリテーションセンターと発展している。これと同時に、兵庫県保健部では、昭和63年より10圏域に分かれている第2次保健医療圏域毎にリハ中核病院を置く地域リハシステムを開始した。このリハ中核病院は早期の専門的リハの提供だけでなく、それぞれの圏域に属する市町村の看護・介護職員の研修を行っている。リハにおける病々連携、病診連携を効率的、円滑にするためであり、当時としては画期的なシステムであり、現在、総合リハセンターがこれらリハ中核病院を統括する役割を持っている。

(4) ヨーロッパ福祉先進国の地域リハから学んだこと

 私たちの地域リハの基本的な考え方に大きな影響を与えたのは、北欧に生まれたノーマライゼーションの理念を中心とする地域ケアシステムであった。デンマークに事務局を持つISPO(国際義肢装具協会)で関わり合いで、10数年前より北欧・英国・オランダを初めとして高齢者、障害者の地域ケアの現状を見るすばらしい出会いを得た。まさに目から鱗が落ちる思いで、このことにより、わが国の地域リハに関する施策を国の外から見る余裕を生じ視野を広げる結果となった。

 これが、全国で地域リハに興味をもつ人々による仲間を作る機会となり、地域リハのスタディグループツアーとして発展し、この10年間に300人の仲間とヨーロッパ先進国の地域リハ、在宅ケアの現状を学ぶ機会となった。その成果は、全国各地での地域リハ活動のKey Person(キー・パーソン)の育成となり、昨年8月、神戸で開催した「全国地域リハ研究会」に1,200人の地域に関わる人々がそれぞれの地域における成果をもち寄る結果となって表れている。この現実は20年前には地域リハが極めて少数派だっただけに大きな前進と受けとめている。

2.地域リハビリテーションの理念とゴール

(1) 地域リハビリテーションの理念

 日本リハビリテーション病院協会では、1990年、地域リハを次のように定義した。つまり、地域リハとは、障害をもつ人々や老人が、住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に生きいきとした生活が送れるように、医療や保健、福祉および生活に関わるあらゆる人々が行う活動のすべてを指す、としている。

 さて、この地域リハビリテーションを指す外来語としてCommunity Based Rehabilitation(CBR)がある。もともとこのCBRは、地域における専門職を初めとする社会資源が乏しい中で、障害者自身、家族、そして地域住民全体を包含した地域社会の資源を用い、かつ育成するための活動として開発途上国を対象として発展してきた。しかし、このCBRの概念は、単に開発途上国のみでなく、先進国にも通ずるものとして認識され、1994年、ILO、UNESCOおよびWHOが共同で次のように定義した。つまり、CBRとは、障害をもつすべての人々のリハビリテーション、機会の均等、そして社会への統合を地域の中において進めるための作戦である。そして、CBRは障害をもつ人々とその家族、そして地域、さらに適切な保健、教育、職業および社会サービスが統合された努力により実践される、としている。この基本的な考え方は、私どもが1991年にまとめた上記の地域リハビリテーションの定義に相通ずるものである。

(2) 地域リハ活動を支える諸因子

 地域リハ活動を支える諸因子を、図1に上げてみた。これには①国の経済優先から生活重視への政策転換、②国の縦割り行政の是正、③地域自治体首長の姿勢、④都道府県、広域市町村圏域の役割の明確化、⑤地域の保健・医療・福祉のネットワーク、⑥在宅ケアマンパワーの充実、⑦地域総合在宅ケア拠点の整備と24時間対応、⑧福祉のまちづくり、住宅と環境アクセス、⑨地域住民活動、⑩障害者の消費者活動、などが含まれよう。

図1 地域リハビリテーション活動を左右する諸因子

図1 地域リハビリテーション活動を左右する諸因子

 

(3) わが国の地域リハビリテーションはようやく2合目

 さて、地域リハをこのような理念でとらえると、そのゴールはどうしても総合的なケアを必要とする単身障害者や高齢者が、地域の援助の中でQOLを保ちながら、自主性、主体性、選択性をもって住み続けることができる地域社会の形成ととらえられよう。

 わが国では、このゴール向かって現在各地において先進的な取り組みがなされてきている。福祉ホーム、グループホームによる職住分離、障害をもつ人々自身による自立生活運動、生活支援活動など、意識の高いすばらしい運動が局地的に展開されている。しかし、わが国を全体的にみた場合、上記の地域リハのゴールにはまだほど遠く、その意味ではわが国の地域リハ活動はまだ緒についたばかりといえよう。その原因は、経済重視政策より生活重視への政策転換が他の先進国より遅れたため、地域における医療・福祉分野のインフラ整備が遅れたことが最大の原因であろう。

 最近、入院入所ケアから在宅地域ケアへの政策の拠点を移すためのメニューが次から次へと出されている。高齢障害者を対象にして、利用者本位、自立支援、普遍主義、総合サービスの向上、地域主義の基本理念を揚げ、10カ年の数値目標を掲げたゴールドプラン、そして、これに大幅に上まわるサービス量の整備が必要とされ平成7年に修正がなされた新ゴールドプランもこの一例である。しかし、地域リハの現場からすれば、この程度のプランでは、完了する平成11年度においても質量ともに大幅に不足し、地域に要介護高齢者が一人で住むことの出来る地域リハの基盤が構築される可能性がないと言っても過言ではないかと思われる。その根拠は、新ゴールドプランのゴールに示されたマンパワー、拠点など地域を支える社会資源の増加がインフラの貧困の解消にはほど遠いためである。

 わが国の市町村の老人保健福祉計画の基本的理念として、生活の継続性、自己決定権、残存機能の活用があげられているが、この理念は、デンマークが掲げてきた理念に追従したものと思われる。そこで、そのデンマークとの比較において、わが国のマンパワー、施設数の比較について述べてみたい。

 デンマーク(505万)と兵庫県(545万)では人口がほぼ同じである。しかし、デンマークが1987年までに5万床の老人ホームベッドを用意したが、いかに個室化を進めたとしても真のプライバシーが守られないとのことから、1988年より老人ホームに代わりケア付き住宅を毎年2,000床増床していく計画に切り替えている。これに対し兵庫県では、新ゴールドプランの達成時にも特養ホームベッドは12,000床で1/4にすぎない。また、地域を支えるマンパワーを比較しても看護(助手を含めて)1/3 、PT1/10、OT1/12、ホームヘルパー1/23と非常に少ない。

 しかも、デンマークでは高齢者施策と障害者施策が行政の壁なしで行われているのに対して、わが国では、高齢者・障害者の縦割り行政がそのまま地域在宅ケアの効率を悪くしている。その原因は、長年にわたるわが国の経済優先政策の中で、医療・福祉の分野の産業が経済成長に対する貢献度が少なく、むしろ英国やスウェーデンの過剰な社会保障の弊害を例に挙げ、医療亡国論的、福祉たれ流し論的な考え方が政治、行政の分野を支配してきたためであろう。その結果、わが国GNPに占める社会保障の枠が、他の先進国に比較して極めて低く抑制されてきた結果に表されている。しかも社会保障の中での年金・医療・福祉に分配されている予算が5:4:1と福祉の予算が極めて少なく抑えられてきた。この差が地域の社会資源の多寡に現れている。

 しかし、わが国の経済優先施策の継続と政治のリーダーシップのない現状では、福祉サービスの予算枠を急激に増すための施策がない。そこで、ドイツの介護保険制度に着目して、新しい財源を求めて公的介護保険の導入を図ろうとしている。

(4) 障害者プランにより、介護を必要とする単身障害者が、地域で住み続けることができるのか

 ゴールドプラン、エンゼルプランに対して遅れていた障害者対策に関する新長期計画障害者プランが、ノーマライゼーション7カ年戦略として平成7年よりスタートした。ライフステージのすべての段階での全人間的復権を目指すリハの理念と、ノーマライゼーションの理念を基本として、ご存知の通り、社会的自立、バリア・フリー、QOLの向上、安全な暮らし、国際協力など7つの視点を施策の重点課題としてあげている。

 この理念により具体的な長期目標が示されたことと、関係省庁の施策を横断的に盛り込んだことを大きな前進と評価したい。特に、グループホーム、福祉ホーム2万人、ホームヘルパー4万5千人、デイサービス1,000カ所、ショートステイ4,500人分など数値目標が置かれたことは、大きな前進であろう。

 しかし、ゴールドプランと同様に、果たしてこの数字の根拠がどこにあるのか、介護を必要とする重度の障害者がこれにより地域の中で24時間ケア体制のもとに生活を維持していけるようになるのか明確でない。また、無許可とはいえ、現在5万人の重度・重複障害者を地域で支える4,000カ所の共同作業場の将来像も不明確である。また、身体障害者の55%が高齢者であることを考慮すれば、在宅ケアにおける対人ケアサービスは介護保険とも関連し高齢者・障害者の壁をとったサービスの方が社会資源の有効利用につながるものと思われる。

Ⅱ わが国の地域リハビリテーション活動への今後の展望

地域に住む障害者や高齢者の視点から地域リハビリを阻害する因子、地域を成功に結びつける因子を視野に入れながら、21世紀に向かってのわが国のとるべき方向について私見を述べてみたい。

1.経済優先政策から生活重視へと政策の転換によるQOLの充実を―GNPに占める社会保障枠の拡大が不可欠である。

 わが国の地域で高齢者・障害者を支えるメニューは、ヨーロッパ先進国と比較してもそれほど遜色なく一応は揃っている。しかし、その内容となると、質量ともに極めて薄っぺらい。来年度からの抑制の対象となる医療の現場にいるわれわれからすれば、医療そのものが病室の広さ、十分に休暇が取れない医師、看護婦を中心とするマンパワー数などを例にあげるまでもなく、先進国との比較において極めて貧しい現状にあることをまず認識しておきたい。同じ貧困さが、障害者の更生施設、授産施設にも言える。これらの施設は特養ホームと同じように、ヨーロッパ先進国に比較してスタッフ数は35%程度に過ぎず、OT、PT、臨床心理士など専門職は稀な存在と言える。また、大部屋が一般的で、プライバシーは守られていない。

 また、なぜ、これらの地域ケアの拠点となって、24時間対応する在宅介護支援センターのマンパワーが定員2名であるのか、理解に苦しむことが多い。公的介護保険の導入しか財源に頼れないのが現状であろうが、マンパワー充実がなくてはニーズに答える処遇が出来ない。

 これからの安心できる心豊かな社会を形成するためには、まず、国際的にみてかなり低いGNP比社会保障費枠を長期ビジョンのなかで大幅に引き上げていくことが必要である。それと同時にこの引き上げは、現在の予算配分枠に比例して行うのでなく、在宅サービスにかかわるホームヘルパー、看護婦など、マンパワーの充実に重点をおき、障害者、高齢者の壁を取り除き、在宅介護支援センターや地域安心ケアセンターが、真に24時間のケアが出来るような体制に整備し直すべきである。それと同時に、地域住民のボランティア活動に期待したい。

2.縦割り行政組織の抜本的改革を―住民サイドに立つ保健・医療・福祉の窓口一本化と対人サービスの一本化を

 地域で介護を必要としている高齢者・障害者およびその家族は、保健・医療・福祉にまたがるサービスのニーズをもっているために、担当する役所の窓口が縦割り機構によってバラバラであれば、関係職種の連携がとれず、極めて非効率な住民不在の動きとなる。地域住民のニーズに対して、迅速に的確に対応するためには、この縦割り行政の是正を勇断をもって行うべきである。このために、まず、国の行政組織の抜本的な改革を望みたい。たとえば、身体障害者の6割を占める高齢障害者とのサービスの一本化、厚生省老人保健福祉局と障害保健福祉部、労働省、通産省にも関係している福祉用具、日常生活用具サービスの一元化、厚生省、運輸省、建設省にまたがる福祉のまちづくり条例など枚挙にいとまがない。

 また、現行のいろいろな在宅サービスメニューが、保健・医療・福祉の縦割り行政機構の中で作成されている。そのため、地域における拠点(保健センター、在宅介護支援センター、訪問看護ステーションなど)、出前訪問サービス(訪問看護、往診、訪問リハ、ホームヘルプ事業、住宅改造、入浴、食事サービスなど)、また、出かけていく各種デイサービス(機能訓練事業、ランチサービス、デイサービス、デイホスピタルなど)、いずれをとってみても、評価なり連携なり役割分担が不明確であり、しかも消費者サイドに立っているとは言い難い。

 さらに、福祉八法の改正に伴う市町村重視の中で、都道府県の役割、特に保健所、福祉事務所の機能がみえてこない。特に、保健所の場合、結核、精神障害、難病対策が役割としてあるとのことであるが、難病そのものの対策には高度な医療機能が必要であり、逆に、精神障害は地域への参加、里親制度、共同作業場など、市町村地域の問題と思われる。したがって、保健所・福祉事務所の対人サービス機能を一体化すると同時に、将来、市町村へ移行する方向が正しいものではないかと思われる。

3.住宅対策を今後の地域ケアの柱とする―地域における24時間ケアサービス付き住宅とバリア・フリーの面的整備が地域リハのゴールである

 従来、わが国における地域リハの論議は、主として、保健医療や福祉の分野でなされてきた。しかし、現実に障害をもって地域で生活することになると、わが国のウサギ小屋と言われる狭い住宅事情、郡部の農家にみられる広いけれども段差が多く、トイレが屋外にある構造は、一度障害を起こした人々にとっては瓦礫の山に過ぎなくなる。今回の阪神・淡路大震災により、障害者・高齢者が震災弱者となった。そして、今もなお住宅は個人補償であるとの基本的な理念から、多くの人々は住むあてがなくなっている。

 これに対して、ヨーロッパ先進国の多くは住宅は社会保障の一環で行われており、次の世代に譲っていくために初めからバリア・フリーの構造を目指している。このためにも、福祉のまちづくり条例による集合住宅、生活施設、交通機関などのバリア・フリーのまちづくりを全国的に進めていくべきであろう。

 兵庫県では、大震災後の復興計画(ひょうごフェニックス計画)の中で、福祉のまちづくりを基本理念に広域生活圏に総合ケアステーション、小学校区に復興住宅コミュニティプラザを設けることを発表した。明日はわが身である。目先のことにこだわらずに、自分が障害をもったときに、老後を安心して託すことのできる国づくり、地域づくりが大切である。

*兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1997年5月(第91号)2頁~7頁